第四百二十八夜 おっちゃんとモルモル族
翌朝、おっちゃんはモルモル族の屋敷に行った。
モルモル族の屋敷に行くと、五十畳ほどの広さがある大広間に通された。大広間には、チロルの他に、モルモル族の人間が十名いた。
身長が低いが、横幅があるモルモル族の男性がいた。男性の身長は百七十㎝で体重は百㎏はありそうだった。年齢は五十歳くらいで、白い髭を生やしていた。髭のモルモル族は大きな団栗を刳り貫いて作った帽子を被っているが、団栗の色は黄色。
木の皮を加工して作った服ではなく、袖つきの木綿の、ゆったりした赤い服を着ていた。
(なんや、身分の高そうなモルモル族がおるで)
チロルが、やや強張った顔で、おっちゃんに男性を紹介する。
「族長のルチャル様です」
ルチャルが厳かな顔で鷹揚に告げる。
「そなたが、おっちゃんか。林檎の輸出では、チロルが世話になったな」
「こちらこそ、儲けさせていただきました。今日はダンジョン・コアの件で話に上がりました」
ルチャルが厳しい顔で尋ねる。
「参事会の決定は、なんと?」
「参事会では唯一なる存在には嘆願しないと決めました」
周囲のモルモル族から、落胆の声が上がった。
ルチャルが渋い顔をして告げる。
「それで、おっちゃんは、参事会の決定だけを告げに来たのか?」
「いいえ、ここからはご相談です」
「なんじゃ、遠慮なく申してみよ」
「骸様が仰るには、木材を安価にイルベガンに卸すのなら、骸様の判断で、唯一なる存在に伺いを立てても良いと申しております」
ルチャルは眉間に皺を寄せて頑なな態度を取る。
「伺いを立てるだけでは、駄目じゃ。授与の目処が立った時に木材は安く卸そう」
「ダンジョン・コアは骸様の一存で差し上げられるものではありません。こればかりは、唯一なる存在にしか決定権がないので、お約束できません」
ルチャルが難しい顔で申し出る。
「では、こちらが一歩、譲ろう。伺いを立てるだけでもいい。だが、その伺いを立てる場に、儂も参加させてもらう。でなければ、こちらが本当に伺いを立てたかどうか、わからないからの」
(ダンジョン・コアを他者に見せる行為は、事情がないと良しとしないのが普通や。せやけど、ここでそれを教えて、納得してくれる御仁ではないな)
「わかりました。ほな、ルチャル様立会いの元お伺いを立てられれば、木材の安価な輸出を認めてくれるのですね」
「約束しよう」
おっちゃんが席を立とうとすると、ルチャルが真剣な顔で訊いてくる。
「時に骸様は、ドラゴン・ソウル・ウェポンに御執心と聞く。作成は捗っていますかな? もし、滞っているようでしたら、お手伝いもできますが」
「すんまへん。わいは『冥府洞窟』の事情に疎いので、ようわかりません」
ルチャルが素っ気ない態度で応じる。
「なら、そういう話に、しておきますか」
おっちゃんは骸の屋敷に戻って、骸に結果を伝える。
「モルモル族は、お伺い立てるだけでも木材を安く輸出する、と約束してくれました。ただ、条件が付きました」
骸は、明らかに不機嫌だった。
「なんじゃ。この期に及んで、まだ何か要求しようと主張しおるのか」
「へえ。ダンジョン・コアに伺いを立てる時に、一緒にいたいと申しております」
骸は怒りを露にした。
「なんと、無礼な! そのような無礼者を、この街のダンジョン・コアの前に立たせるわけにはいかん!」
(今度は、こっちが臍を曲げ寄った。もう、しゃあないお方やなあ)
「それと、モルモル族の族長がドラゴン・ソウル・ウエポンを作るのなら、手を貸す、とも仰っていました」
骸の顔色が変わり、厳しい顔で訊く。
「ドラゴン・ソウル・ウエポンの話を、どこまで知っていた?」
「知るも何も、わいは何を言っているか、さっぱりわからなかったので、知らんと答えました。そしたら、そういう話にしておきましょうかって、具合で終わりました」
骸が眉を吊り上げて不承不承に応じた。
「そうか、わかった。ならば、良い。ダンジョン・コアを用いて、唯一なる存在に伺いを立てる件。また、立ち会う件については認めよう」
(なんや? ドラゴン・ソウル・ウエポンの名を出したら、急に態度を変えよったで)
おっちゃんは骸の屋敷を後にする。モンスター酒場でリンダに尋ねる。
「リンダはん。ドラゴン・ソウル・ウエポンって、何を意味するか、わかる?」
「特殊な素材で作る、凄く強い武器よ。ただ、作成には龍の魂が要るから、『火龍山大迷宮』が管理者になった時に、製造が禁止になったわ」
「製造禁止の武器か。どんなに強い武器なんやろう?」
「わからないけど、人間に渡してはいけない武器、って呼ばれているわね」
「それは、恐ろしい武器やな」
「もっとも、使い手を選ぶそうだから、簡単には使えないみたいだけど」
おっちゃんは、リンダとの会話を切り上げ、酒場で一人考える。
(骸はんの態度から推測して、御禁制のドラゴン・ソウル・ウエポンを作ろうとしとるな。もしかして、ジュミニはんが殺された原因も秘密を知りすぎたせいかもしれん)
おっちゃんは推理する。
(ジュミニはんは龍の孵卵機を使って、極秘裏に龍を孵化させた。そうして、ある程度まで成長させたところで殺した。そこへ、わいが来たから、これ幸いと肉を処分するために肉を渡したんやな)
あながち間違った考えには思えなかった。エールをぐいと飲み、推理を続ける。
(ジュミニはんの魂は持ち去られていた。これは、証拠を隠滅するためや。だが、ジュミニはんの魂を持ち去れるのなら、龍の魂かて、持ち去れる)
捜査に当ったキートンは、事件には『冥府洞窟』の幹部が関わっていると話していた。
(龍の魂を持ち去った『冥府洞窟』では、おそらく、ドラゴン・ソウル・ウエポンを作ろうとしておるな。岩人のゲンゲにも、それらしい注文を出しとったようや)
期せずしてジュミニ殺しの真相が見えた。
だが、相手は、イルベガンのトップの骸である。なら、一捜査員のキートンには、どうこうできる事件ではない。
(骨武器が主体の『冥府洞窟』が『重神鉱』や『霊金鉱』を集め出した行動も、怪しい。せやけど、これ、下手に知ると、消されるで)
おっちゃんはエールを流し込むと、推理を止めてベッドで眠った。
(*本作品の著作権は金暮 銀にあります)




