表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
魔都イルベガン編
423/548

第四百二十三夜 おっちゃんとリサイクルの話

 おっちゃんは酒場で飲んでいた。すると、カートンが足取りも軽くやって来る。

「研究の成果が出ました。やはり、あの林檎は普通の林檎ではありませんね。雄の蚊に果汁を与える実験をしたところ、寿命が二・五日も延びました」

「ええ結果が出て良かったわ。ほな、報酬を払うわ」


 おっちゃんは報酬を払い、研究成果を纏めた報告書を受け取る。

 カートンは機嫌のよい顔でモンスター酒場を後にした。おっちゃんは、その日の内に、チロルに手紙をつけて報告書を送った。


 おっちゃんが酒場でぐだぐだと過ごしていると、酒場にオーリアがやって来る。

 リンダと話すと、オーリアは真剣な顔をして、おっちゃんの席の前に来た。

「貴方がおっちゃんね。商売の話がしたいわ。お互いに利益になる話よ」

「利益になる話ねえ。でも、別に今、お金に困っとらんのやけどな」


 オーリアがキッと、おっちゃんを睨みつける視線を送る。

「貴方も経営コンサルタントならわかるでしょう。儲かる話があるときに儲けないと、誰かが先を越すわ」


 おっちゃんは、気負うことなく発言した。

「わいは経営コンサルタントやないよ。単なる、しがないしょぼくれ中年トロルやで」


 オーリアがむっとした顔をする。

「なに、それ? そうやって、自分の値段を吊り上げる気なの? 感心しない手口ね」

(なんか、厄介事の気配やね。でも、黙って追い返すと、逆恨みされそうやな)

「暇やし、ええよ。話を聞くだけ、訊こうか」


 オーリアに誘われて、密談スペースに移動する。

 席に座ると、オーリアが厳しい顔で発言する。

「単刀直入にお願いするわ。おっちゃんが持っている最高級の林檎を売ってほしい」

「林檎の騎士が守っていた林檎か? あれなら、もう、ないで。『アイゼン』陛下に献上した」


 オーリアが険しい顔で尋ねる。

「わかっているのよ。最高級の林檎の木になっていた林檎は四つ、残り三つがあるでしょう」

「ないよ。残りの林檎は皆で食べてしもうた」


 オーリアの顔に困惑の色が浮かぶ。

「嘘よね。値千金の価値がある林檎三つを食べたなんて。あれ、いくらすると思っているのよ」

「ほんまや。なんなら、『嘘発見』の魔法を使える魔術師を連れてきても、ええで」


 オーリアの顔が曇る。

「まずい事態になったわね」

 おっちゃんは軽く冗談を口にした。

「林檎は美味(おい)しかったで。少々、()っぱかったけど」


 オーリアが目を吊り上げて怒った。

「林檎の味の話をしてないわよ」

「なんや、そんなかりかりして。よかったら事情を話してくれるか?」


 オーリアは一瞬、躊躇った。が、語り出した。

「『冥府洞窟』の骸様から、依頼を受けたのよ。『重神鉱』と『霊金鉱』を大量に仕入れるようにね」


(『冥府洞窟』が鉱物を買い入れるなんて、珍しいの。『冥府洞窟』で使(つこ)うとる武器は、骨から作った骨武器やのに)

 おっちゃんは疑問に思った。でも、鉱石から作る武器が欲しくなったんやろうと、軽く考えた。


「両方とも『イヤマンテ鉱山』で採れる鉱物やね。でも、それなら、『イヤマンテ鉱山』のお屋敷に買いに行けば、ええやないの?」


 オーリアは険しい顔で内情を語る。

「『イヤマンテ鉱山』は冒険者に採掘場を荒らされて、『重神鉱』も『霊金鉱』も、産出量が激減しているわ。それで、輸出を絞っているのよ」

「そういう事情なら、仕入れは大変やな」


 オーリアが憤慨して話す。

「それだけじゃないわ。私が『冥府洞窟』の骸様から調達依頼を受けている、との情報を『イヤマンテ鉱山』にライバル業者が伝えたのよ」

「噂じゃ『冥府洞窟』と『イヤマンテ鉱山』は仲が悪いと聞いたで。それで、余計に入手が難しくなったんか?」


 オーリアが苦しそうな顔で告げる。

「そうよ。だから、『鉱山主リカオン』に特別な貢ぎ物をして、ご機嫌を取る必要があったわけよ」

「そういえば、『鉱山主リカオン』も最高級の林檎を欲しがっておったの」


 オーリアが苦い顔をして話す。

「どう? 林檎が必要なわけが、わかったかしら?」

「事情はわかった。せやけど、献上した残りの林檎は食べてしもうたからのう。別の手段を探すか、高くても他の商人から『重神鉱』や『霊金鉱』を買うしかないの」


 オーリアが苛立った顔で、ぶっきらぼうに述べる。

「それが、時間があまりないのよ」

「なしてや、急ぎの仕事か」


「ある筋からの情報だけど、『イヤマンテ鉱山』は冒険者によって、攻略されるわ。人間の手に『イヤマンテ鉱山』が渡ったら、鉱石は手に入らない」

「そういう事情なら、『重神鉱』と『霊金鉱』も値が上がるな。なるほど、値が上がりそうやから、他の商人は手放さない。せやから、買えない、ちゅうわけか?」


 オーリアが暗い顔をして、酷く落ち込んだ。

「そうよ。だから、困っているのよ」

「なら、手助けしてもええで。報酬は、入手した鉱物の一割で、どうや?」


 オーリアの顔に、期待が滲む。

「何か、手があるの?」

「アイデアは、ある。だが、タダでは教えられん」


「わかったわ。アイデアを買うわ。で、どうするの?」

「『冥府洞窟』が管理している場所で、『万骨谷』があるやろう。『万骨谷』には、冒険者の壊れた装備品も捨ててある」


 オーリアが表情を曇らせ、不機嫌に拒絶する。

「冒険者の壊れた装備品を回収して、そこから『重神鉱』と『霊金鉱』を取り出すの? 無理よ」

「なしてや? ええ案だと思うけど?」


「『万骨谷』に落ちている品は冒険者の装備だけじゃないわ。大量の骨があるのよ。そこから壊れた装備品だけを選んで取り出すなんて、できないわよ」

「あんな、以前に見たんやけどな。骸はんは、雑多に混ざった骨の中から特定の人間の骨と装備品だけを()り分ける魔法を持っていた」


 オーリアが興味を示した。

「『冥府洞窟』だけに伝わる秘術ね」

「そうや。骸はんが使えたんや。上級幹部なら、使えるかもしれない。それで、上級冒険者だけに絞って装備品を集めてもらったら、効率よく廃品回収ができるで」


 オーリアが思案顔をする。

「でも、問題があるわね」

「なんや、教えてくれたら解決するで」


「『重神鉱』も『霊金鉱』も、熔かして精錬するには、技術が要るわ。技術を持っている『イヤマンテ鉱山』が協力するとは思えない」

「精錬は人間かて、できるんや。熔かして集める技術はそれほど難しいものではないやろう。なら、イルベガンには、できる奴がおるやろう」


「わかったわ。廃品を集める仕事は、私がやるわ」

「ほな、集まった品から回収する者を、わいが探す」


 オーリアが機嫌よく発言する。

「交渉成立ね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ