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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
魔都イルベガン編
422/548

第四百二十二夜 おっちゃんとマキシマムの依頼

 マキシマムは帰らなかった。マキシマムはイルベガンのモンスター酒場に泊まり、観光をしていた。

 いい気がしなかった。でも、宮殿から連れ出したのがおっちゃんなので、「帰れ」とは言い辛かった。

「何も問題を起こさなければええんやけど」


 おっちゃんが酒場で独りで飲んでいると、役人の制服の骸骨がやって来て、険しい顔で告げる。

「貴方がおっちゃんさんですね、御連れの方のことで骸様がお呼びです。一緒に来てください」

(お叱りがあるんやろうな)


 おっちゃんは渋々、役人に従いて行く。連れて行かれた先は骸の御屋敷だった。

 骸は縁側で、いかめしい顔をしていた。

「おっちゃんを連れてきました」と役人が背筋を伸ばして、骸に声を掛ける。

「下がってよいぞ」


 役人は下がって、骸とおっちゃんが、縁側に残された。

 おっちゃんは座ってよいのか迷っていると骸が勧める。

「どうした、座らぬか」

 骸の横に座る。骸が茶を注いでくれたので、湯呑みを手にする。


 骸が棘のある顔で辛辣に発言する。

「時に、おっちゃんよ。御主の友人のマキシマムの件じゃ」

「やはり、マキシマムはんの話ですか、それでどんなご用件でしょか」


「マキシマムは街で色々と羽を伸ばしておるようだな。日々、頭の痛い報告が上がってくる。マキシマムには、もう帰ってもらいたい」

「お気持ちは、わかりますが。マキシマムはんは自由奔放なお方、飽きるのを待つしかないですわ。無理に力尽くで帰すわけにもいきませんやろう」


 骸が怒って声を荒げる。

「それでは困る。ダンジョン・サミットが終わったのに、帰らないダンジョン・マスターはマキシマムだけじゃ。このままでは、いつまで経っても、わらわの仕事が終わらぬ」

「わかりました。機を見て、帰ってくれるように頼んでみます」


 骸の屋敷から帰ってきた晩に、マキシマムがおっちゃんを密談スペースに誘う。

 マキシマムが明るい顔で語る。

「本当に楽しいな、魔都イルベガンって。いろんな種族がいて活気がある。観光にはもってこいだ」

「そう思っておる人間は猊下だけやと思いますけど。ここは人間にとっては、文字通り魔の都ですからね」


 マキシマムが機嫌よく話す。

「そう固い言葉で水を差すな。さて、俺も、そろそろ本業の教皇業に戻ろうと思う」

「そうですか、あまり教皇庁を空けるのも好ましくないですから、いい頃合いだと思いますよ」


 マキシムが機嫌もよく、明るく話す。

「そこでだ。まだ、林檎の騎士に勝った報酬を貰っていない」

(報酬は払うつもりやったけど、マキシムはんの仕事料っていくらやろう。見当も付かん)


 おっちゃんは正直に訊いた。

「ええですよ。おいくらでっか?」


 マキシマムが素っ気ない顔で告げる。

「金なら要らない」

「ほな、何が必要ですか?」


 マキシマムが真剣な顔で要求する。

「『冥府洞窟』で死んだ聖騎士のルイーセの遺体だ」

「ダンジョンに行って死んだ聖騎士の遺体でっか?」


 マキシマムの表情が不快に歪む。

「正確には聖騎士団長だ。俺に反発したあげく、ダンジョンに乗り込んで死んだ。後任を探してもよいのだが、ルイーセはいいとこの、おぼっちゃんだ」

「蘇生を試みてほしい依頼が出てるんでっか」


 マキシマムが厳しい顔で告げる。

「そうだ。だが、体がない状態での蘇生の成功率は、悪い。骨だけでもあると、だいぶ違う」

「それなら、『冥府洞窟』に依頼されてはどうですか?」


 マキシマムが、むっとした顔で語る。

「頼みはした。だが、『髑髏公主』には断られた。どうやら、向こうは俺を人間だと思って毛嫌いしている」

「なるほど。そこで、わいの出番いうわけですな」


 マキシマムが神妙な顔で告げる。

「そうだ。おっちゃんには、俺の名前を出さずにルイーセの遺体を回収してきてもらいたい」


(本来なら簡単にはいかん仕事や。けど、『冥府洞窟』の有力者の骸はんがマキシマムはんに帰ってほしいと思う取る。協力してくれるかもしれん。それなら、ずっと話は通り易い)

「わかりました。ほな、ルイーセの遺体回収を試みますわ」


 マキシマムが安心した顔で告げる。

「そうか。なら、よろしく頼む」

「せやけど、ダンジョンでは毎日、多くの人間が亡くなります。名前しかわからんのなら、探すのは難しい。なんぞ、目印になるものはありまへんか?」


 マキシマムが腰に佩いていた剣を外した。

「これは、元々はルイーセが愛用していた剣だ。これを頼りに探せるか」

「ないよりは、ええですな。ほな、やってみます」


 翌日、おっちゃんは『冥府洞窟』のお屋敷に行った。

 お屋敷を預かる骸骨の官吏に伝える。

「マキシマムはんに帰ってもらえるように画策できそうです。そんで、報酬が欲しい」


 骸骨の管理は、不機嫌な顔で訊く。

「いかほど、お望みですか?」

「『冥府洞窟』で亡くなった。ルイーセと呼ばれる人間の死体をください。用意してもらえませんか?」


 官吏は渋い顔をして、険しい口調で意見する。

「貴方ね。冥府洞窟で、いったいどれだけの人間が亡くなっていると思うんですか。そんな死体の中から、人を一人、探せって、どんだけ無茶な要求をするんですか」

「ほな、マキシマムはんを放っておいてもええですか?」


 管理は不機嫌に言葉を荒げる。

「それは、困る。一刻も早く帰ってほしい」

「なら、死体を用意してくださいな」

「わかりました」と官吏は険のある態度で応じる。


 三日後に、おっちゃんは『冥府洞窟』の屋敷に呼ばれた。

(役人にしては、やる仕事が早いな。よっぽど早く、マキシマムはんに早く帰ってほしいんやろうな)


 屋敷に行くと、骸と御付の骸骨が待っていた。骸が渋い顔をして告げる。

「おっちゃんよ。ルイーセの件だが、少々面倒な話になった。ルイーセの死体だが、すでに骨にして、『万骨谷』に捨てたと報告を受けた」


「『万骨谷』に捨てたって、あそこ、骨だらけでっせ。あんなところに捨てられたら、探すのが、えらい苦労でっせ」


 骸が穏やかな顔で、さらりと告げる。

「そうじゃ。だから、報酬は金貨か、ダンジョン・コインにしてはもらえないだろうか」

「無理ですわ。こればかりは、替えが利きません」


 骸が嫌そうな顔をする。

「そうか、駄目か。なら、一手間を掛けるしかないな。ルイーセが生前に使って品などを持っておらぬか」

「それなら、ルイーセが持っていた剣があります」


 骸はおっちゃんから剣を受けとる。

「従いてまいれ」と骸が命令すると、御付の骸骨がマジック・ポータルを開いた。


 移動した先は骨が万と散らばる『万骨谷』だった。

『万骨谷』は人間や獣、それに異種族の骨が見渡す限りに散らばっていた。

 壊れた武具の破片も散在しており、この中から目当ての骨を捜すのは、とても困難に見えた。

 骸が剣を両手で持ち、魔法を唱える。


 辺りにある骨が、かたかたと震える。骨の山の中から、人間一人分の骨と所持品だったと思われる品が集まってきた。

(万とある骨の中から目当ての骨だけを取り出しおった。さすが、『髑髏公主』の娘さんだけあるな。見事な腕前や)

 御付の骸骨が大きな麻袋を広げると、骨は袋に独りでに入った。


 骸が気だるい表情をして告げる。

「面倒だが骨を集めてやったぞ。マキシマムの退去の件、しかと頼むぞよ。あと、ルイーセの骨を私が集めた件は内密にな。母に知られると、ちと面倒じゃ」

「へえ、心得ております。ルイーセの件に関しては、二人だけの秘密にしましょう」


 おっちゃんは御付の骸骨から麻袋を受け取ると、マジック・ポータルを通って街に戻った。

 マキシマムに麻袋を渡すと、マキシマムは機嫌よく袋を受け取った。

「よく、やってくれた。おっちゃん、これで俺も心置きなく帰れる」

 マキシマムはその日の内に、骸の屋敷に出向き、帰りのマジック・ポータルを潜って帰っていった。


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