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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
魔都イルベガン編
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第四百二十一夜 おっちゃんと最強のカード(後編)

 マキシマムが隣室に行き、質素な服に着替えて、剣を佩いて出てきた。

「よし、行こう」と、マキシマムが明るい顔で告げる。

「今から、でっか? でも、サミットが終わった後って、晩餐会とかパーティーとかあるんやないの?」


 マキシマムが「構わん」の顔で告げる

「いいんだ、いいんだ。どうせ、俺は歓迎されていない。それに魔都イルベガンが会場だと知るや、聖騎士は誰も従いてきていない。誰にも迷惑が掛かるわけでもない」

(主催者に、めっちゃ迷惑が掛かるやろう)


 マキシマムが陽気な顔で軽い調子で応える。

「そういうわけだ。だから、今から行こう」


 街を治める骸の面子を潰す行為に躊躇があったが、腹を括った。

(しゃあない。マキシマムはんを担ぎ出すと決めた以上、トラブルは付き物や。後は野となれ、山となれや)

「ほな、行きましょうか」


 おっちゃんはマキシマムに袖を掴ませ、『瞬間移動』で林檎園に飛んだ。

 林檎園で待っていたチロルは、マキシマムを見ると表情を曇らせる、

「このお方がマキシマムさん、ですか」

「そうやで。わいが投入できる最大戦力や」


 チロルは暗い顔で告げる。

「でも、最強のワー・タイガーの剣士ミゲイラを投入しても勝てなかったのです。同じ、ライカンスロープ系の種族で、勝てるとは思えません」

(なんや、刀を抜けんくて倒されたあいつ、有名やったんか)


「心配ない。ちゅうか、マキシマムはんに倒せん存在がいたら、それは誰にも倒せん」

 マキシマムがおどけた顔で発言する。

「おいおい、随分と俺を買ってくれて煽て上げるようだけど、俺だって人の子だ。限界もあるぞ」


「人の子」と聞いて、チロルが不安な顔をする。

(おっと、人間とばれる事態は、まずいね)


「マキシマムはん、冗談はそのぐらいにして、さっさとお仕事お願いします」

「おう、任せておけ」


 不安気な顔のチロルを伴って、林檎園の中央に進む。

 林檎の騎士は以前と同じように、林檎の樹に(もた)れ掛かっていた。

「あいつですわ。マキシマムはん。お願いします」


 林檎の騎士が立ち上がり、マキシマムが剣を抜く。

「俺の名はマキシマム。友の頼みで最高の林檎を採りに来た。勝負してもらおうか」

「いいわよ」と林檎の騎士が自然体の構えを採る。


 マキシマムがそのまま、無造作に歩いてく。

「ギン」と音がした。気が付けば、林檎の騎士が剣を抜いて、マキシマムに斬り懸かっていた。

 マキシマムが寸前のところで林檎の騎士の一撃を受け止めていた。


(なんや、気が付いたら、林檎の騎士が移動していた。それに、いつのまに抜いて斬り懸かったんや? まったく見えんかった)

 林檎の騎士が軽くステップを踏んで、後ろに下げる。

 マキシマムが淡々とした顔で告げる。

「なるほど、時間の流れを操作できるのか」

(なんやて? 林檎の騎士の動きが見えない理由は時間の操作やと? 時間を操作するなぞ、人間の限界を超えているで)


 チロルの顔を見る。チロルが強張(こわば)った顔で、わけがわからないと首を横に振る。

 剣戟の音だけが、十度に亘って響く。動きはどちらも止まっているように見えた。


 林檎の騎士が静かに告げる。

「お前、未来が見えるんだな」


 マキシマムが気負わずに、簡単に言ってのける。

「そんな、大した特技じゃないさ。音より速い攻撃を、人間は反応では防げない。だが、動きを予測できれば、意外と防げるものさ」

(レベルが高い言う段階を超えているで。もはや、超人決戦や)


 二人が中段に剣を構えたまま、動きを止める。

「ギン」金属が打ち合う音がした。林檎の騎士の剣が飛んで、林檎の樹に刺さった。

「私の負けだ」

林檎の騎士が素直に負けを認めた。


 マキシマムは勝った。だが、マキシマムの顔に喜びの色はなかった。ただ、悲しそうな顔をしていた。

(マキシマムはんは、強くなり過ぎたのかもしれんな)


 マキシマムが表情を和らげる。

「勝ったから、林檎は頂いていくぞ」


 マキシマムが林檎を一つ()いで、チロルに渡す。二つ目を捥いで、おっちゃんに渡す。

 三つ目を捥ぐと、林檎の騎士に投げる。林檎の騎士が林檎をわけもわかず受け取る。


 最後の一個を捥ぐと、マキシマムは林檎を齧った。林檎を食いながら、マキシマムが語る。

「なるほど、さすがは最高の林檎だ。ちと、甘すぎる気がするけどな。どうした、お前らも喰えよ。甘いが、最高の林檎だぜ」


 チロルが遠慮する。

「私の林檎は献上するので、いいです」

「そうか。おっちゃん、喰ってみろよ。美味いぞ」


 本当はとっておきたかった。だが、マキシマムがせっかく勧めるので、おっちゃんは林檎を思い切って口にした。

 林檎は甘くなく、酸っぱかった。

「なんや、これ? すごい酸っぱい林檎や。これが本当に最高級なんか?」


 マキシマムが林檎の騎士に声を掛ける。

「ほら、あんたも喰っていいんだぜ。遠慮は要らない。俺の奢りだ。あんたも自分が守っていた林檎がどんな味か、知りたいだろう」


 林檎の騎士が面を上げて、顔を見せる。林檎の騎士は赤い髪をした褐色肌の女性だった。

(やっぱり人間やったか。綺麗な女性やな。でも、人間でマキシマムはんと戦えるレベルとは、どんだけ修練を積んだんやろう)


 林檎の騎士は涙を流して「美味いな」と林檎を口にした。

 マキシマムが陽気な顔で告げる。

「なんだ、そんなに泣くほど、美味いか」


「美味しいです。ありがとう、マキシマム」

 一陣の風が吹いた。「カラン」とヘルメットが落ちる音がする。次の瞬間、林檎の騎士の着ていた鎧が崩れ落ちる。鎧の中は空洞になっていた。


 林檎の騎士が消えて、チロルが不思議そうな顔をする。

 マキシマムがしんみりした顔で告げる。

「止まっていた時間が動き出したんだな。達者でな、林檎の騎士」


 チロルの手により『黄金の宮殿』の主である『無能王アイゼン』に最高級の林檎が献上された。

『黄金の宮殿』はこの献上品をことのほか喜び、ドライ・アップルを輸出するために、屋敷のマジック・ポータルの使用を許可した。


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