第四十二夜 おっちゃんと討伐準備
やると決めたからには、勝たねばならない。翌朝、冒険者ギルドに、おっちゃんは顔を出して、クロリスを呼ぶ。
「なあ、クロリスはん。『ボルガン・レックス』の討伐をやるんやけど、ちと資金が足りないんよ。剣を質草に、お金をギルドから借りられんかな」
クロリスがあまりいい顔をしなかった。
「ギルドから装備を質草にしてお金を借りられるけど、勧められないわ。冒険者の武器って、買うと高いけど、売ると安いのよ。あまり、当てにしないほうがいいわよ」
「ええから、頼むわ。査定して」
おっちゃんから剣を預かるとクロリスが奥へと下がった。
次にクロリスが戻ってきたときにはお盆に袋と剣を載せていた。袋を開けると、金貨が三百枚は入っていそうだった。剣は替わりの、普通のエストックだった。
クロリスは困惑した顔で話す。
「詳しい事情は聞かないけど、おっちゃんって、もしかして、貴族の子弟か何か。普通じゃないわよ。あの剣」
笑って答える。
「そんなことないよ。おっちゃんは、しがないしょぼくれ中年冒険者や。それで、ええやん」
翌日の昼にポンズがやって来たので、胸の内を明かす。
「『煉獄石』入手の目処が立ったで、『ボルガン・レックス』の討伐や」
ポンズは否定的な態度で疑問を呈した。
「おい。大丈夫なのか? 『ボルガン・レックス』といえば、ここらへんで知らない者がいない危険な怪物だろう。剣や魔法も通用しないらしいと聞く」
「楽に宝は手に入らないってことや。嫌なら『火龍山大迷宮』に掘りに行かなならんけど、どうする?」
ポンズが嫌そうな顔をして発言する。
「暑いところは苦手だな」
「なら、『ボルガン・レックス』をやるしか、ないやろう。覚悟を決めてや」
ポンズが渋い顔で首を少しだけひねって訊く。
「勝ち目はあるのか?」
「『ボルガン・レックス』に並の武器は通用しない。なんで、バリスタを使う。いくら『ボルガン・レックス』といえど。船舶を破壊するようなバリスタなら傷つくやろう」
ポンズが神妙な顔で呟く。
「バリスタか。確かに、バリスタなら大型のモンスターにも効くな」
十秒後、ポンズが表情も和らげ、決断した。
「お宝に怪物退治は付き物か。よし、おっちゃんに賭けよう」
おっちゃんは金貨の詰まった財布をポンズの前に置いた。
「金は全部すっかり使ってくれて構わん。これで、バリスタとその他の必要な物を用意してくれ」
ポンズが財布の中身を確認する。
「これだけあれば、バリスタを五張は造れるな。わかった、さっそく用意する」
夕方に冒険者の店でサワ爺に会った。
「サワ爺さん、『ボルガン・レックス』の討伐をやるで」
サワ爺は難しい顔する。
「依頼を出しておいてなんだが、本当にやるのか。相手は、あの『ボルガン・レックス』じゃぞ」
「必ずやる。それで、石鶏草の毒について教えてくれるか」
「毒は肉に混ぜて使うのが良いだろう。『ボルガン・レックス』は、悪食じゃ。肉に混ぜてやれば、必ずや喰うだろう。ただ、毒で体の自由を奪う行為はできてきても、殺せるかは微妙じゃ」
サワ爺から毒を受け取った。
「そんで、すまんけど、お願いがある。『ガンガル荒野』の地形や『ボルガン・レックス』の縄張りについて、教えてくれんか」
サワ爺が頷く神妙な顔で頷く。
「それぐらいは構わん。『ボルガン・レックス』は友の仇だ」
ポンズと海賊がバリスタを調達している間に、おっちゃんは馬を借りた。
サワ爺と一緒に『ボルガン・レックス』の縄張りと付近の地形を調べて廻った。
地形を調べていると、地震が来た。揺れは、すぐに収まった。
「それにしても、地震がちょくちょく来るな」
一緒にいたサワ爺は笑って答える。
「何年か周期で地震が多い年がある。おそらく今年は、当たり年なんじゃろう」
「そんなものか」
サワ爺がのんびりとした口調で発言する。
「大地震が来た過去はあるが、『火龍大火山』は二百年、噴火した記録はないからの。ただ、当たり年の日は夏が寒いから、作物に影響がでるから喜べん」




