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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
魔都イルベガン編
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第四百十五夜 おっちゃんと勝負の引き際

 魔都イルベガンには闘技場がある。参加したい腕自慢は登録料を払えば誰でも参加できる。勝てばわずかばかりだか、賞金も出た。

 リーグは四部制で、勝てば上のリーグへと行ける。おっちゃんはお師匠さんの願いもあり、闘技場に来ていた。


 最下位リーグは直径十mの円の中で試合が行われる。試合場は簡単な柵で覆われ、階段状の席から観客は観戦する。


 おっちゃんはお師匠さんと一緒に賭け札を買い、闘技場を観戦する。おっちゃんの応援した選手は一回戦で負けてしまい、お師匠さんが賭けた選手は優勝した。

「やっぱり、お師匠さんやな。見る目ありますな。倍率六倍やから、ちいとばかり儲かりましたな」


 お師匠さんは配当で得た十二枚の銀貨を見つめる。お師匠さんは意を決した顔で頼む。

「すまない。おっちゃん。金を貸してくれ」

「なんですの? もっと賭けて、儲けたいんでっか。いやあ、止めておいたほうがよろしい。賭け事は余裕資金で少し遊ぶ程度がええ。のめりこんだら、結局は損します」


 お師匠さんは真剣な顔で語る。

「違うのだ。儂も闘技場に参加したいのだ」

「賭けるほうやなく、戦うほうになりたいんでっか」


 お師匠さんは決意の籠もった顔で話す。

「儂は冒険者に負け、死して骸骨になった。儂は知りたいんだ。本当に儂の剣術が世に通用しなくなったのかを」


 おっちゃんはお師匠さんの申し出に、いい気がしなかった。

「お師匠さんの剣術はダンジョン流。ダンジョン流はダンジョンの中で戦ってこそ生きる剣術です。闘技場のような場所では不利でっせ」


「でも、儂には剣術しかない。もし、ここで通用するようなら、儂はまたダンジョンに戻れる。だが、ここですら通用しないようなら、儂は剣を捨てる道を考えねばならない」

「これからの身の振り方を決めるための戦いでっか?」


 お師匠さんが真剣な顔で頼む。

「甘えてばかりで悪いが、今の実力を試させてくれ」

「わかりました。ほな、エントリーに必要な残りの銀貨三十八枚をお貸しします」


 おっちゃんはお師匠さんの勝利はないと思った。だが、お師匠さんが新たな一歩を踏み出すためには必要と感じたので、銀貨を貸した。

 一回戦、二回戦、とお師匠さんは順当に勝ち抜き、決勝戦を迎えた。


(さすがは剣術の先生やっただけのことはある。基礎がしっかりできているから、勝ち方が安定しておる。でも、戦い方が綺麗すぎる。以前は、もっとお師匠さんは、勝利に貪欲で、何をしても勝とういう気概があった。でも、今のお師匠さんには、闘志がない)


 おっちゃんは理解した。お師匠さんの剣術が冒険者に通用しなくなったのではない。お師匠さんの性格の変化が、剣術の理念と離れたために、お師匠さんの剣術は弱くなった。


(こうなると、お師匠さんは自分で編み出した剣術を一度きっぱり捨てねばならん。その上で、新たな剣術を構築すれば、また強くなれる。だが、一度でも手にした技術を捨てる決断はそうそうできるものやない)


 お師匠さんの決勝の相手はガイルだった。一回戦、二回戦と見たが、ガイルの剣は冒険者の剣に似ていた。ちょうどいい相手だと感じた。

(ここで、ガイルにお師匠さんの剣が通じれば、お師匠さんは冒険者の相手ができる。だが、ここで勝てないようでは、ダンジョンの勤務は無理や)


 決勝戦が始まった。ガイルが力と気力で押していく。お師匠さんは綺麗にガイルの攻撃を裁いて、的確な打ち込みを心懸ける。ガイルはお師匠さんの打ち込みを寸前のところで凌ぐ。

 ガイルに隙ができた。『金剛穿破』を狙えるチャンスが来た。だが、お師匠さんは『金剛穿破』を使わなかった。おっちゃんには理解できた。


(今は、チャンスやった。だが、お師匠さんの『金剛穿破』なら、木剣でもガイルを殺す可能性があった。ガイルの身を(おもんばか)っての判断や。駄目や、敵を思いやるようでは、ダンジョンでは通用しない。お師匠さんのダンジョン流は死んだ)


 ガイルが死に物狂いの攻勢で、強烈な一撃をお師匠さんに決めた。

「勝負アリ」の声が響いた。


 おっちゃんは気落ちして帰ってきたお師匠さんに声を懸ける。

「これで、ええですか? 気が済みましたか?」


 お師匠さんは、がっくりと項垂(うなだ)れて答える。

「わかった。儂の時代は終わった。儂の剣はもう通用しない。本当は冒険者に殺された時点で、わかっていたんだ。でも、儂は剣を捨てられなかった。さらに、新たな境地を目指さず酒に逃げた。剣士失格じゃ」


「誰にでも逃げ出したくなる時はありますわ」

「もういい。死んだ事実。剣が通用しない現状。これ以上に足掻くのは惨めだ。他の道で身を立てる仕事を探すよ」


 お師匠様は寂しそうな顔で発言すると、一人でモンスター酒場に帰っていった。

 おっちゃんはお師匠さんと別れると、ゲンゲの店に行く。

 ゲンゲが気分よく店に出て来ると、小さな袋を渡した。


 中を確認すると、金貨がぎっしりと詰まっていた。

「ゲンゲはん、これ、貰いすぎや」


 ゲンゲは気の良い顔で告げる。

「そんなことはないぞ。あのクラスの骨なら、一本で金貨千枚は行く。ちと状態が悪かったから値引いたが、それは当然の報酬だ」

「たかが、骨で金貨千枚って、ほんまでっか?」


 ゲンゲが顔を(しか)める。

「たかが骨と言ってくれるな。職人にとっては、滅多に手に入らない素材に大金を投じる態度は必然。それに、儂が造っている武器は完成したら金貨千六百枚で卸す予定じゃ」

「それまた、すごいな」


「じゃろう。だから、お前さんも、きちんと貰っておきなされ」

(急に大金持ちになったな。これ、どないしょう?)


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