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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
魔都イルベガン編
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第四百十四夜 おっちゃんと『万骨谷』

 おっちゃんは朝早くにゲンゲの店に行き、『万骨谷』に入る書類を受け取る。

 ゲンゲが機嫌もよく申し出る。

「今日は疲れるだろうから、行きと帰りは牛車で送迎してやろう」

「ほな、お願いします」


 大きな牛型ゴーレムが牽く牛車が調子もよく進んでいく。

『万骨谷』は牛車で二時間ほどいった場所にあった。

 谷の入口には全長三mの骨の巨人が二人、立っていた。

 おっちゃんが書類を渡すと、右手の甲に『許可』と書かれた判が押された。


 ゲンゲが入口で、真剣な顔で注意する。

「『万骨谷』には様々な骨がある。ただ、良い骨は谷の中央付近にある」

「わかりました。ほな、行ってきますわ」


 おっちゃんは『物品感知』を唱えて龍の骨を指定した。ところが、魔法は効果を現わさなかった。

(なんや? この谷、魔法がうまく働かんようやな。骨を拾って『瞬間移動』で、はいさいならとは、いかんようや)


 おっちゃんは霧が出る『万骨谷』への奥と進んで行った。灰色の岩が続く谷を進む。『万骨谷』と呼ばれるだけあって、進むと骨が辺り一面に散乱していた。

(進めば進むほど、骨は増えるのかもしれんな。骨は何百万体分とあるのかもしれん)


 しばらく進むと、おっちゃんは全長六mのリトル・レッド・ドラゴンに、姿を変えた。靴、腰巻き、革のベスト、ピッケルが入った袋を持って空を飛んだ。

(霧の出る谷をトロルの姿で歩いたら、転落する危険性がある。なら、空から行ったほうが道中は安全や)


 おっちゃんは空を飛び『万骨谷』を進んだ。霧のかかった谷は見通しが悪く注意して飛ばないと、灰色の岸壁や岩にぶつかりそうになるので危険だった。

 空を飛ぶこと一時間、リトル・レッド・ドラゴンになったおっちゃんの耳が歌声のような音を拾った。

(なんや? 歌が聞こえるのう。優しい歌や)


 おっちゃんは危険かもと警戒した。それでも、歌のするほうに飛んでいった。歌の方向に近づいているのだが、歌声は大きくなることはなかった。

(奇妙な歌や。ずっと微かにしか聞こえてこん)


 歌の許を目指して飛ぶと、歌が急に止んだ。

 おっちゃんは、ゆっくりと羽搏(はばた)きながら、降下をする。深い霧の層を抜けると、龍や竜の骨がいたるところにある場所に出た。

「なんや、ここ? ここは龍の墓場か?」


 おっちゃんは地面に降りると辺りを見渡す。大きな骨はあるが、どれが価値の高い骨か全然わからない。

 適当に大きな骨を(くわ)えて袋に入れる。


 さらに奥に進むと、岸壁のような場所があり、全長二十mはある、立派な龍の骨が壁に半分ほど埋まるようになっている場所を見つけた。

「なんや、これ? ごついのがあったで。これ、素人が見てもわかる。これはお宝や」


 おっちゃんはトロルの姿に戻ると、ピッケルを使って、龍の肋骨の一本を取ろうとする。ピッケルが骨に当る音が辺りに響く。

 龍の肋骨は簡単に外れなかった。おっちゃんが悪戦苦闘していると地鳴りがした。

(まずい。これは、モンスターが地中を進んでくる音や)


 肋骨は、もうすぐ岸壁から外れそうだった。おっちゃんは骨の入った袋を勢いよく振り回すと、遠くへ投げた。

 袋が落ちると、直系三mの骨で覆われた蛇の頭が、地上に出現した。蛇の頭は袋を飲み込む。


 おっちゃんは、リトル・レッド・ドラゴンに姿を変える。足で、外れそうになっている龍の肋骨を掴んだ。

 そのまま全力で羽搏くと、龍の肋骨が根元からぽきりと折れ、骨が折れる音が響く。


 地鳴りがおっちゃんのほうに向かってきたので、全力で上昇する。

 下で歯を噛み合わせる、ガチンの音がした。


 おっちゃんは下を見ずに出口に向かって飛んだ。『万骨谷』の入口付近で地面に下りる。

 トロルの姿で出口に到達する。


 ゲンゲがおっちゃんを見て、期待の籠もった顔で声を掛ける。

「どうだ、良質の骨が見つかったか」

「すんまへん。これ、一本だけですわ」


 ゲンゲは顔を輝かせる。

「これは凄いな。儂が欲しかった骨はこれじゃ」


 ゲンゲはそこで怪訝な顔をする。

「にしても、なんで、裸なんじゃ?」

「装備を、骨の蛇のような魔物に取られました」


 ゲンゲは晴れやかな顔で褒める。

「なんと、もしや、ボーン・ヒドラの棲家に行って帰ってきたのか。だとしたら、中々の成果じゃ。大したものだ」


「それで、着るものを持っていたら恵んでくれませんか」

「儂は持ってないの」とゲンゲは入口の骨の巨人を見る。


 入口の骨の巨人に頼む。

「すんまへん。何か着るもの、ありませんやろうか?」


 骨の巨人が「困った奴だ」の顔で、詰め所から、長い一枚の布を持って来てくれた。おっちゃんは(ふんどし)のように下半身に巻いた。


「ないより、ええか。ほんま、助かりました。これ、後日に、新品をお返しします」

 牛型ゴーレムの牽く牛車に乗って、魔都イルベガンに帰った。


 翌日、ゲンゲは新しい師匠さんの体を持ち、骸骨の魔術師を連れてやってきた。

 お師匠さんは、ぐったりとして、本当に死んでいるようだった。


 骸骨の魔術師が魔法を掛ける。

 ボロボロだったお師匠さんの体は粉状に崩れ、新しい骸骨の体が起き上がった。

「どうでっか、お師匠さん、体の具合は?」


 お師匠さんは新しい体を確認する。

「なかなかにいい気分だ。ところで御主は誰だ?」

「覚えておらんかもしれんが、かつて剣術を習っていた弟子です。お師匠さんの窮状を見かねて、お助けしました」


 お師匠さんは済まなさそうな顔をする。

「そうか。かたじけない。申し訳ないが、お主を儂は覚えておらんのだ」

「ええですわ。お師匠さんが覚えていなくても、わいが覚えていたらいいだけのことです」


 ゲンゲが明るい顔で告げる。

「では、儂は戻るとするか、骨の代金と今回の費用の差額を渡すから、三日後に店に取りに来てくれ」


「ありがとうございました。本来なら差額は要らんと言いたいところですが、何ぶんにも金のないトロルゆえ、ありがたく頂戴します」


 ゲンゲが帰って行った。

 おっちゃんは新しい体を手に入れたお師匠さんと、その日は杯を重ねた。


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