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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
魔都イルベガン編
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第四百十二夜 おっちゃんと岩人の武器職人

 おっちゃんは、その日は岩人の武器職人の工房で雑用係をやっていた。

 岩人の武器職人はモンスターの骨、牙、角を独自の製法で鍛えて作る骨格武器が秀逸だった。岩人が作る骨武器は、金属武器にも劣らぬ品質があった。


 おっちゃんが工房の隅で片づけをしていると、緑色の肌をも身長二mほどの小柄な岩人の武器職人が寄ってくる。

 小柄な武器職人は「ちょっと、いいかな?」と声を懸けてきた。

「何ですやろ?」と応じると、小柄な武器職人は真剣な顔で、おっちゃんの体をぺたぺたと触ってくる。


「うむ、よい骨じゃ。お前さん、こんなところで雑用なんかしているが、本当は、もっと腕の立つトロルじゃろう」

「そんなの買いかぶりですわ。わいはおっちゃんいう、しがないしょぼくれ中年トロルです」


「そうか。なら、そういう話にしておこう。儂の名は、ゲンゲ。どこにでもおるような、武器職人じゃ。ちと、買い物に行きたいが、()いてきてもらって、よいかな?」

「わいは親方に雇われているので、親方さえよければ、ええですけど」


 ゲンゲは店の奥に声を掛ける。

(せがれ)や。ちと、この雑用のトロルを借りるぞ」

「はい、どうそ」と店の奥から親方の声がした。


 親方から許可が出たので、おっちゃんはゲンゲに従いて行く。

 ゲンゲが穏やかな顔で、何気ない口調で訊いてくる。

「時に、おっちゃんよ。最強の骨格武器とは何だと思う」

「何ですやろう? 龍の骨から作った武器ですか?」


「一般的には、そう思われておる。龍の骨から作り出した『龍殺し』と銘が付く武器なぞ、対龍戦や対竜戦を考えれば、恐ろしく強い武器じゃ。だが、そこが終わりではない」

「その上があるんですか、聞いた覚えがないですわ」


 ゲンゲは誇らしげな顔で語る。

「あるんじゃよ。ドラゴン・ソウル・ウェポンじゃ」

「そんな、武器があるんですか」


「ただ、ドラゴン・ソウル・ウェポンは、並の職人には作れず、できても使い手を選ぶ。だから、最強の武器たりえても、最高の武器とはいえん」

「最強の武器か、わいには縁のない品やな」


「ほれ、あれが骨屋じゃ」

 直径が百三十mは、ある円柱状の白い建物が見えてきた。

 扉を開けると、大きな骨格標本のような龍が飾ってあった。

「見事な龍の骨ですな」


 ゲンゲが素っ気ない態度で教えてくれる。

「あれは、レプリカじゃよ。本物の龍の骨なぞ大々的に飾ると『火龍山大迷宮』が抗議してくる。見世物にするな、とな」


 ポケットの多い作業着を着た骸骨がにこにこした顔でやって来る。

「これはゲンゲ様、今日は、どういった品をお探しでしょうか?」

「とりあえず、入荷した丈夫な骨を見せてくれるか」


 骸骨が、にこにこしながら店の中を案内する。

 店の中には、各種大型の動物の骨や、亜人、人間の骨などが、骨格標本のように飾ってある。

 骨格標本の横には白木の棚があり、骨が部位ごと陳列されていた。

(こうしてみると、凄い量の骨やな。さすが、専門店や)


 店の奥にある薄布で仕切られたスペースに、ゲンゲは入ってく。

 そこは商談スペースになっていた。ゲンゲが頑丈そうな丸椅子に腰掛けていると、明るい顔をした骸骨が木箱に入った骨を見せる。

「本日のお勧めは、マイナー・ドノトレックスの大腿骨(だいたいこつ)です」


 ゲンゲは軽く骨を指で弾いてから、値札を確認する。

「なるほど。値段の割に、質は良いようだな。これなら、買い手も付くだろう。だが、儂が欲しい品は、これではない」


 骸骨がいったん木箱も持って下がり、大きな木箱を持ってくる。

「レッド・ドラゴンの骨です」

 ドラゴンは龍種に属する。だが、ドラゴンの中でも、体も丈夫で強い上位種族は、龍の名で呼ばれていた。


「ドラゴンの骨」と聞き、ゲンゲの顔色が変わる。真剣に骨を鑑定する。

「良い骨ではある。だが、まだ若いドラゴンの骨だな。価格はお手頃だが、儂が求めている品ではない」


 骸骨が残念そうな顔をする。

「これ以上となると、簡単には手に入りません」

「やはり、掘りに行くしかないか」


 ゲンゲが席を立ったので、おっちゃんは後ろから声を懸けた。

「掘りに行くって、骨って掘れますの?」


 ゲンゲは歩きながら、むすっとした顔で語る。

「魔都イルベガンの近郊に、『冥府洞窟』が管理する、『万骨谷』と呼ばれる場所がある」「そんな、場所があるんやなあ」


「『万骨谷』には冒険者に倒されたモンスターや冒険者の骨が捨てられている。『万骨谷』には時折、お宝のような骨が落ちている状況があるんじゃ」


「でも、それ、はっきりいえば、ごみ置き場でっしゃろ? 専門店のほうがいい品を置いているのと違いますか?」

「そう思うじゃろう。だが、違う。本当に良い骨は『万骨谷』にあるんじゃよ。使い物にならない、本当のゴミも多いけどな」


「でも、『冥府洞窟』の管理地なら、簡単には入れんのと違いますか」

 ゲンゲは難しい顔で淡々と話す。

「入るのは、簡単じゃ。書類を書いて金さえ払えば入れる」

「一般人でも入れるんやなあ」


「だが、骨を拾って出てくるのが大変じゃ。『万骨谷』は制御を離れた凶暴なモンスターがおる」

「そうでっか。それは出て来るのが大変ですな」


 ゲンゲがおっちゃんを見上げて、軽い調子で頼む。

「で、そこでじゃ、おっちゃんよ。『万骨谷』に骨を拾いにいってくれんか」

「いやいやいや、今の話を聞いたら、分かりました、とは答えられませんな」


 ゲンゲは意外そうな顔をした。

「なぜじゃ? 金なら、出すぞ。龍の墓場まで入れれば、文字通りに一攫千金じゃ」

「お金の問題じゃないです。命が惜しいですわ」


 ゲンゲが簡単に言ってのける。

「危険な場所は、ほんの一部じゃ」

「でも、危険な場所に行かねば、良い骨がないんでっしゃっろ?」


「よく分かっているではないか」

「とりあえず、今回はお断りしますわ。またの機会にしますわ」


 ゲンゲは渋々の態度で引き下がった。

「そうか、残念じゃのう。お主なら無事に良い骨を持って帰ってこれると思うたのに」


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