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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
魔都イルベガン編
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第四百十一夜 おっちゃんと消えた孵卵機

 三日後に、おっちゃんは熟成させた肉を貰って、モンスター酒場でガイルと待ち合わせをする。

 待っていると、暗い表情のガイルがやってきた。

「ガイルはん、例の肉を手に入れたで確認してや」


 ガイルが弱った顔でテーブルに手を突いて頭を下げた。

「すまない、肉は不要になった。士官で他の者に先を越された」

「何や。他にライバルがおったんか?」


 ガイルが苦い顔で告げる。

「俺も、つい昨日になって知った」

「そうか。なら、この肉は、どうするん?」


 ガイルが申し訳なさそうな顔で苦しげに告げる。

「非常にすまないが、持って帰ってもらえないだろうか」

「肉をやる、いうてもね、それなりに元手が掛かっているんよ」


 ガイルが深々と頭を下げる。

「すまないと詫びるしかない。士官の当てが外れて金が廻らなくなったのだ」

「肉はまだ売れる。だから、持って帰ってくれと頼むなら、持って帰る。せけど、これ、わいじゃなかったら、揉めるところやで」


「分かった。この借りは必ず返す。だから、今日のところは、勘弁してくれ」

 ガイルは逃げるようにモンスター酒場を後にした。


 おっちゃんは、リリンの肉屋に戻る。

「すんまへん、リリンはん。このヒレとサーロインなんやけど、店に出してお金に変えてもらうわけには、いきまへんやろか」


 リリンが渋い顔をして断る。

「肉屋って、性質上、一度でも売った肉の返品は効かないよ」

「そうか。なら、これをベーコンに加工してもらっても、ええやろうか?」


 リリンが気の良い顔で答える。

「それなら、引き受けるよ。だけど、サーロインやヒレをベーコンにするって随分と豪勢だね」

「しゃあないわ。もしかしたら、また必要になるかもしれん。せやけど、生肉じゃ()たんやろう。だから、ベーコンに加工してもらうわ」


「あいよ。あと、肉の質が悪いせいか、肉の売れ行きが、あまりよくないよ。これ全部は売れないかもしれないね」

「まじかー。なら、売れ残った肉は、ドライ・ソーセージに加工してもらって、ええか? 独りで酒場で、飲む時に食べるわ」


 おっちゃんが酒場に戻ると、キートンが来ていて、丁寧な態度で頼む。

「ちょうど良いところに。今日このあと、ジュミニ氏の研究施設で実況見分があるんですが、一緒に来ませんか?」


「わいは別に、キートンはんと一緒に、ジュミニはんの家に行っただけやで。せやから、お役に立たないと思いますよ」


 キートンが毅然(きぜん)とした態度で告げる。

「役に立つ、立たないかは、こちらで判断しますよ」

「ほな、暇やから、行きますわ」


 おっちゃんは街の外から、全長六mの強大な牡牛が牽く牛車に乗って、ジュミニの研究施設に出向いた。

 実況見分は街の衛兵とキートンが中心になって行い、書類を作成していく。

おっちゃんの出番は玄関のドアをキートンが開くまでだった。なので、すぐに用済みになった。


 やる仕事がないので、研究室内を見ていると、違和感を覚えた。

(何やろう? 前回と何かが違う気がする)


 おっちゃんが目を細めて、腕組みして考えていると、キートンが話し掛けてくる。

「どうしました、そんな難しい顔をして?」

「いえね、何か前回に来たときと違う気がするんですわ。何か、この部屋から持ち出しました?」


 キートンが衛兵に確認し、素っ気ない態度で答える。

「いえ、何も持ち出していないそうですよ」


 部屋にあるものを声に出していく。

「揺り篭に、遠心分離機に、浄水器、孵卵機。うん? 孵卵機? 分かった、孵卵機が別の物に変っている。孵卵機が小さくなっとる」


「何ですって?」とキートンが孵卵機を確認する。

「ここにあった物を動かした形跡がある。部屋にあった孵卵機が盗まれた。おっちゃんさん、前に見た孵卵機はどんなんでした」

「もっと大きかったですわ。おそらく、竜か龍の卵を孵すやつだと思います」


 キートンが色めき立つ。

「ジュミニはマイナー・ドノトレックスの研究に見せかけて、食用に龍を飼育していたのか。本当だとすると、骨・血液・食肉監視局の出番ですよ」


 衛兵とキートンは席を外すと何やら真剣な顔で話す。

 おっちゃんは暇なので、ジュミニの研究室をうろうろしていた。すると、小指の先ほどの小さな白い物体が床に落ちているのに気が付いた。

 何やろうと思って拾う。キートンが戻ってきたので、思わず白い物体を隠した。


 おっちゃんは、その後、孵卵機が変わっているとする供述調書にサインさせられてから街に帰ってきた。

 おっちゃんはリリンの店に寄った。


 リリンが機嫌よく応じる。

「おや、おっちゃん、今日は何の用だい」

「これ拾ったんやけど、何の骨か分かる?」


 リリンが渋い顔で答える。

「うちらは肉屋だからねえ。肉には詳しくても、骨の専門家ではないよ」

「そうか。なら、分からんか」


 リリンが思案する顔で告げる。

「骨のことなら、岩人がよく知っているね。彼らは大の骨好きだから、たいていの骨は、食べれば分かるからね」


「岩人って、よく来るの?」

「肉を解体していると、よく店にやって来て、骨を売ってくれって頼むよ」


「明日は解体予定、あるん?」

「うちはいつも朝早くに、鶏を解体しているから、明日の朝に早くに待っていれば、誰かがやって来るよ」


 翌朝、まだ日が昇りきる前からリリンの店の前で待機する。

 契約農家から送られてきた、羽根が(むし)られた鶏を、リリンが包丁を使い、骨を外して行く。


 鶏がらが貯まってくる頃になると、機嫌の良い顔をした岩人のガングが現れた。

「おはようございます。今日は、ええ朝ですね」

「おはよう。おっちゃんも、鶏がらを買いに?」


「いいえ。ガングさんを待っていたんですわ。ちと聞きたいんですけ、これ、何の骨か、分かりますか?」

 ガングが素っ気ない顔をして骨を手の中で転がす。

「これは、龍の骨だね。何の龍かまでは、食べてみないと分からない」


 おっちゃんは骨を受け取る。

「そうでっか。ありがとうです」

「でも、その骨は若い骨だから、あまり美味しくないよ。骨を喰うなら、豚のゲンコツか鶏の肋骨のほうが、よほど美味いよ」


「何の骨か分かれば充分なんで、ほな失礼します」

(やはり、ジュミニのところでは、龍の卵を孵化させて、使っておったのやな)


 おっちゃんは骨をしまって、酒場で考える。

(ジュミニが火龍を育てて肉にしていたのは、事実やな。でも、それなら、何で、わいに間違って龍の肉を渡したかが、疑問や。大切な商品を間違って渡すやろうか?)


 答えは出ない。だが、それほど深く追及する気はなかった。

(調べれば金になるかもしれん。でも、『冥府洞窟』の上層部が関わっていたら厄介や。捜査は、キートンに任せよう)


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