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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
魔都イルベガン編
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第四百三夜 おっちゃんと骨龍

 身長三m、岩のような肌を持つ、筋肉の塊のモンスターのトロルがいる。トロルは腰巻に簡単な革のベストを着て靴を履き、大きな木製の槌を持っていた。


 トロルは夏の昼の空を見上げていた。トロルの名は、おっちゃん、今年で四十六になる。おっちゃんは今は、流しのモンスターとして戦いに参戦していた。


 おっちゃんと一緒に上空を見上げるモンスターも他には五十はいた。種族はバラバラだが、手には武器として、皆が槌を手にしていた。


 おっちゃんの上空では、翼を持つ、五十以上からなるモンスターが大きな物体と戦闘をしていた。

「骨龍が落ちるぞ」


 上空から警告が発せられる。大きな骨の塊でできた真っ白い骨龍が落下してくる。

 骨龍の全長は二十mもあった。骨龍は地面に衝突寸前で、魔力を利用した浮力により、地面への激突を免れる。

 だが、傷ついた翼は落下の時に発生した力に耐えられず、片方の翼が根元から、ぽきりと折れた。


「地上戦開始」と(きら)びやかな鎧を纏った髑髏の騎士の号令を掛ける。

 槌を手にしたモンスターたちが骨龍に目掛けて突撃を敢行する。骨龍の体は魔力を帯びた硬い骨でできているので、剣より槌のほうがダメージが通りやすい。


 モンスターが次々と骨龍に襲い懸かる。弱い者は骨龍に簡単に弾き飛ばされる。

 だが、モンスターたちは骨龍に殴られても、蹴られても立ち向かう。モンスターは誰しも果敢に挑み、槌を振るった。


 おっちゃんは骨龍の前方に躍り出て、弱点がある頭を槌で叩いていた。おっちゃんの攻撃が骨龍の顔に入るたびに、骨龍の顔を形成する骨が、ばらばらと落ちる。


 トロルの筋力をもってしても、骨龍に大きなダメージを与えるのは容易ではなかった。

(これ、思ったより、きつい仕事やで)


 暴れる骨龍を五十人でタダひたすら叩いていく。

 骨龍が後ろ足で立ち上がり、モンスターたちに覆い被さるように、倒れてきた。大勢のモンスターが蜘蛛の子を散らすように逃げる。


 骨龍は倒れると動かなくなった。現場に緊迫した声が飛ぶ。

「何人か、下敷きになったぞ。力のある種族は手を貸してくれ」


 おっちゃんは『強力』の魔法を唱える。おっちゃんは魔法が使えた。どれほどの腕前かといえば、中層階のボスが務まるくらいの腕前だった。

 おっちゃんは前に進み出ると、大柄なモンスター十二人と一緒に、「せえの」で骨龍の体を持ち上げる。


 おっちゃんが持ち上げた骨龍と地面にできた隙間から、逃げ遅れたモンスターが救助されて、救護所に運ばれていく。


 髑髏の騎士が命令を飛ばす。

「ご苦労。これにて、暴走骨龍の退治を終了とする。報酬を貰って解散するといい」

 おっちゃんは列に並んで槌を返還し、報酬を受け取る。


 ボロのローブを着た骸骨が叫ぶ。

「イルベガン行きのマジック・ポータルを出すぞー。便乗する奴は勝手に乗ってくれー」


 骸骨が叫ぶと、地面に魔法陣が現れて、マジック・ポータルが出現する。

おっちゃんは魔法陣に飛び乗った。出た先は街の入口前にある広場だった。おっちゃんは広場から門に向かって歩いて行く。


 魔都イルベガンを覆う黒い城壁は二重になっている。

 最初の壁は黒色で、高さ十二mほどしかない。だが、二枚目は、高さが三十五mある。壁は内外壁ともに厚く、幅が十mはあった。


 イルベガンは西に港を持つ街であり、海水を利用した幅三十m、深さ八mほどの堀が、外壁と内壁の間に存在した。

 おっちゃんは門から街の入口へと架る橋を渡り、中に入った。


 街の通の幅が広く設定されており、トロルの姿でも、歩く分には苦にならない。街には人間以外の様々な種族が存在し、通りを(にぎ)わしていた。

 おっちゃんは城門から歩いて八分のところにある正六角形をした赤い煉瓦造りの建物に歩いて行く。


 建物は、一辺が二百mあり、二階建てと、かなり広い。建物は俗称・モンスター酒場と呼ばれており、多種族がやって来る酒場である。

 モンスター酒場は、地下一階に浴場と洗濯場がある。一階が料理が出る酒場で、二階が宿屋になっていた。


 酒場の入口を潜ると、入口から少し離れた場所には掲示物がある。

 日雇いや短期の仕事の情報が貼ってあった。ダンジョンへの就職はモンスター酒場ではなく、職業安定所が斡旋(あっせん)していた。


 おっちゃんが空いているカウンター席に座ると、身長二・五メートルの女性が、やって来る。

 女性は頭から雄羊に似た角を生やしていた。髪は肩まで伸ばした縦ロールであり、目はぱっちりしている。


 女性の体型はグラマラスで、白い肌をしている。格好は動き易い赤い服を着ていた。

「お帰りなさい。今日はなんにする?」


 女性は鏡の悪魔型モンスターのレイモンと呼ばれる種族で、名前をリンダと名乗っていた。酒場の中を見渡せば、リンダそっくりの従業員が多数いる。

 レイモンはいくつもの体を複製でき、情報を共有できる。さらに、一度に複数の作業ができる。なので、店の従業員は六人を除いてみんなリンダがやってきた。


 カウンターに銀貨を置いて注文を出す。

「エールを大ジョッキで一杯、頼む、あとは、適当に鳥串を頼むわ」


 リンダがエールを注ぎながらニコニコして尋ねる。

「骨龍の退治に行ってたんだって? 話では、地上に落とすまで、なかなか苦労したそうね」

「地上に降ろしてからも暴れとったから、怪我人も出た。でも、魔都イルベガンやからって、骨龍クラスが郊外に出るとは思わなかったわ」


 リンダが微笑んで告げる。

「まさか、いくらここが十万人の種族が集まる、魔都イルベガンだからといって、骨龍が郊外には出ないわよ」

「そうか? なら、なんでいたんやろうな?」


「ここだけの話。『冥府洞窟』が輸送途中で何かへまをやらかして、骨龍が暴走したんだって

「なんや、事故やったんか、おかしいとは思ったんや」


「『冥府洞窟』の屋敷のモンスターは各方面への陳謝で天手鼓舞(てんてこまい)だそうよ」

魔都イルベガンには各ダンジョン・マスターたちが屋敷を構えていた。そうして、屋敷を構えるダンジョンが持ち回りで、魔都イルベガンの管理者をやっていた。


「今の管理者は『冥府洞窟』のダンジョン・マスター『髑髏公主』の娘さんで、骸様やったか」

 リンダが、はきはきと答える。

「そう、骸様ね。これは、あくまでも噂だけど、骸様が管理者になってから事故続きなのよ」


「災難続きか、ちと心配やな」

「まあ、うちとしては話題が尽きなくて、面白いんだけど」

「こらこら、そんなこというたらあかんて」


 鳥の軟骨串が出てきたので、軟骨串を食べて、地下にある浴場で汗を流して、部屋に戻る。

おっちゃんは人の姿を念じる。身長百七十㎝の男性に姿を変えた。部屋の鏡で姿を確認すると、丸顔で無精髭を生やし、頭頂部が少し薄い四十六歳の男性の姿があった。


 おっちゃんは、トロルではない。姿容を自由に変えられる、『シェイプ・シフター』と呼ばれる種族だった。

「こっちの姿のほうが最近は多かったから、こっちの姿のほうが落ち着くな」


 イルベガンにはワー・ウルフ、霞人、妖精、のような人間に近い種族も数多く暮らしている。でも、少数なので、おっちゃんは絡まれんようにトロルの姿になって、周囲に溶け込んでいた。


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