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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
オルトハルツ国
402/548

第四百二夜 おっちゃんと選挙王政

 三日ひたすら迷っておっちゃんは決めた。

 おっちゃんはセバルとエルマを執務室に呼んだ。

「セバルはん、おっちゃんの決断を訊いてほしい。迷ったけど、ヘンドリックはんを養子に迎えて王位を譲る」


 セバルは暗い表情で語る。

「わかった。おっちゃんの決断なら俺は従う。リオンやハワードも説得しよう」

「話はまだ続きがある。王様には十二年の任期を定める。任期終了後は、おっちゃん、セバルはん、ハワードはん、リオンはんの家から候補を一人ずつ出して選挙をやって、次の王を決める」


 セバルが戸惑った顔で質問する。

「期間を置いて、王様は選挙で選ぶのか。それなら、リオンやハワードの説得には有利かもしれない。だが、あまり聞いた覚えがない話だな。投票はどうするんだ?」


「王様に投票できる人間は長に限定する。まず、四人で選挙をやって、一位と二位を決める。同数で三人以上が出たときは籤引きで二人を選ぶ。そうして、二人で決選投票をやって、一位になった者が王様や」


 セバルが険しい顔で確認してきた。

「おっちゃんの話はわかった。でも、おっちゃんの案だと、ヘンドリックが不利になるぞ。次期国王はヘンドリックだが、その次は我が民から国王が出るだろう」


「普通なら、そうなるやろうね。でも、これなら、ヘンドリックはんの続投もあるやろう。次の王になるかどうかは、ヘンドリックはんの政治能力次第や」


 セバルはおっちゃんの案に難色を示した。

「でも、その案でヒエロニムス国王は納得するだろうか」

「それは訊かんとわからん。だが、駄目なら駄目でまた考えるよ」

「そうだな。呑めない案でもないから出方をみるか」


 セバルを帰すと、エルマに指示を出す。

「エルマはん、ヒエロニムス国王とヘンドリックはんに手紙を書いて。あと、広場の石版の法律も少し増やすで」


 エルマが明るい顔で応じる。

「選挙王政の話を手紙に纏めるのと、選挙のやり方についての法律を増やすのですね」

「そうや、ほな頼むで」


 おっちゃんの手紙が発送されて、四週間後。ヒエロニムスからの親書が届いた。 

 内容はおっちゃんの提案を受け入れて、ヘンドリックを養子に出すとの内容だった。


 養子縁組はエルマを通して、ガレリアと何度かの打ち合わせの後に行われた。

 ヘンドリックは金貨三万枚の持参金を土産にやってきた。


 おっちゃんは四週間ほど、ヘンドリックと一緒に過した。ヘンドリックに問題なしと判断したおっちゃんは、王位を五月末でヘンドリックに譲った。

 王位を譲ると、おっちゃんのやる仕事がなくなり、装備を手入れしていた。


 すると、セバルがやって来て、寂しそうな顔で語る。

「どうした、おっちゃん。装備の手入れなんかして」

「冒険者生活がちと恋しくなってな、旅の準備や」


「もう、おっちゃんは充分に仕事をした。あとは元国王として気儘に気楽に過したらいいだろう」

 新しい革鎧とグローブの具合を確認しながら答える。

「国王をやったのは成り行きや。おっちゃんは元を質せばしがない、しょぼくれ中年冒険者や。体が動けるうちは冒険者でいたいねん」


「でも、そんなに急で出発しなければいけない旅でもないだろう」

「それに元国王の父がいたら、ヘンドリックかてやり辛いやろう。ここら辺で旅立つのがええねん。『迷宮図書館』にはもう話を付けた」


 セバルが呆れた顔で告げる。

「おっちゃんには世話になってばかりだった。まだ、なんの恩返しもできていない。国王の激務から解放されたなら、もう少し、この国で休んでいったらどうだ?」


「恩返しなら充分にしてもろうた。国王職なんて、そうできるものやあらへん。ええ体験やったで」

「贅沢も華美な暮らしもできない国王職だったろう」


 おっちゃんは剣の手入れをしながら答える。

「そうやけど、それで、ええねん。おっちゃんは庶民や。贅沢なんてしたって楽しめん」


 セバルが諦めた顔をする。

「そうか、ならこれ以上は何も言わない」

「すまんな、心配ばかり懸けるおっちゃんで」


 おっちゃんは装備の具合を確かめると、街で保存食とエールを買う。

 翌日、おっちゃんはエルマに「冒険の旅が呼んでいます」と書置きを残す。

 おっちゃんは真新しい装備に身を包むと、誰にも気が付かれないうちに、『瞬間移動』で寝室を後にする。


「今日からまた気儘な冒険者暮らしや。さて、今度はどっちに行こうかの」

 おっちゃんは行く当てを決めずに荒野に独り歩き出した。

【オルトハルツ編了】

©2018 Gin Kanekure

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― 新着の感想 ―
[一言] こんばんは。4日ほど前にこちらにたどり着き、毎日のように読んでここまで到達しました。 とても素敵な千夜一夜だと思います。ありがとうございました。
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