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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
オルトハルツ国
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第三百九十八夜 おっちゃんと暴力事件

 おっちゃんが執務室で仕事をしているとセバルがやって来て、暗い表情で語る。

「おっちゃん。実は石工の木乃伊が襲われる事件が街中で起きた。犯人は木乃伊に恨みを持つ冒険者だった」


「そうか。ありそうな事件やな。そんで、その冒険者は捕まったんか」

「身柄を捕縛する時に、抵抗に遭い、兵士に怪我人が出た。リオンがやむなく武器を抜いて応戦した結果、容疑者は命を落とした」

「なんか、後味の悪い事件やな」


 セバルが真摯な顔で述べる。

「おっちゃん。俺たちは、ニコルテ村からやってきた木乃伊が無害なのは、充分に知っている。だが、他の者たちからすれば、やはりアンデッドである木乃伊を毛嫌いする輩は多い」


(セバルはんたちの民族の苦難の歴史が、アンデッドから始ったわけやから、部族内でも木乃伊に対する反感があるのはわかる)

「せやかて、オルトハルツでは木乃伊はんに建設の大半を頼っているんやで。木乃伊はんは腕が良いのに手間賃は安い、木乃伊はんのおかげで、どれほど助かっているか」


 セバルが真剣な顔で頼んだ。

「それは重々わかっている。だが、オルトハルツは人間の街だ。バサラカンドのようにはいかない」

「バサラカンドが特殊な街いうことは理解しとるよ」


「このままでは人間も木乃伊も共に不幸になる、木乃伊たちに街を去ってもらうわけにはいかないだろうか」


 おっちゃんは、セバルの考え方には反対だった。

「人間だけでやっていけるなら、セバルはんの提案を否定はしない。せやけど、現状では人間だけでは街の運営は回らん」


 セバルがもどかしげに語る。

「だが、もっと、こう、どうにかできないだろうか」

「街造りで助けてもらっておいて、貢献した木乃伊はんを切り捨てる考えには、おっちゃんは賛成できん」


 セバルが困った顔で告げる。

「でも、このままでは、また同じ事件が起きるぞ」

「なら、守るべきは、街造りに貢献してくれた木乃伊はんや。木乃伊はんを襲う冒険者やない。せやから、このまま、何もしない気はない」


 セバルが浮かない顔で訊く。

「どうするつもりだ?」

「活動する時間帯を分ける。日中は、木乃伊はんに働かないで休んでもらう。木乃伊はんに、夜に働いてもらう。そんで、冒険者ギルドも夜は閉める。それで衝突を避ける」


 セバルが苦い顔で反論する。

「おっちゃんの案だと深夜の騒音や、二十四時間営業を求める冒険者から反発が出るぞ」

「そうや。乱暴なやり方けど、不満を炙り出すのが狙いや」


「街の多くの人間に問題を考えてもらうのか」

「皆、他人事やて思うておるようやから、当事者意識を持ってもらう。そのうえで、どうするか、考えてほしい」


 セバルが気落ちした顔で告げる。

「わかった。あまり気が進まないが、やってみるか」


 木乃伊を深夜に働かせる施策を発表してから、四日後、セバルがやって来た。

 セバルが冴えない顔で告げる。

「やはり、深夜の騒音問題と冒険者ギルドの夜間の営業停止は不評だ」


「それで、街の人間は、なんて言うてきとる?」

「木乃伊が働く時間帯は今まで通りに日中帯にしてほしいと、申し出ている。建築関係のギルドも、昼に石工と連携できないと不便だと陳情があった」


「木乃伊はんに出て行けの声は、あったか?」

 セバルが申し訳なさそうに語る。

「そこまで考えている人間は少数だとわかった。街の施設は木乃伊が復旧させている認識が、想像以上に大きかった」


「そうやろう。街の人間は、見ているところでは、ちゃんと見ているんや。声の大きい人間の意見がいつも大多数だとは限らん。そんで冒険者ギルドのほうはなんと言うてきた?」

「街中では木乃伊を襲わないように徹底する。だから、冒険者ギルドの夜間営業を認めてほしいと陳情があった」


「わかった。なら、冒険者が正当な理由もなく木乃伊を襲ったら、夜間営業を止める、と釘を刺してくれ。そのうえで、夜間営業を再開してもええと伝えてくれ」


 セバルが真剣な顔で請け負った。

「了解した。しかと伝える」


 木乃伊に対する暴力事件は収束して、街では木乃伊と人の関係は元に戻った。

 おっちゃんは時間のあるときにエルマを伴って街を歩く。

 街では不要な施設の解体と、必要な施設の建築が今も進んでいた。


 エルマが街の様子を見て、しみじみと告げる。

「木乃伊が働く街って、正直かなり抵抗がありましたが、もうすっかり街の風景ですね」


 おっちゃんの目の前では、木乃伊が石壁を積み上げて、その近くで子供が遊ぶ光景が、目に入った。

「せや。でも、いずれは木乃伊はんにバサラカンドに戻ってもらおうと思っているねん」


 エルマが意外そうな顔をする。

「そうなんですか? でも、今は街に溶け込んでますよ」

「今はまだ、木乃伊はんが役に立っているから、ええ。でも仕事がなくなれば、(うと)ましく思うはずや。それが人間や」


 エルマは弱った顔で切り出す。

「でも、バサラカンドでは、上手くいっています」

「バサラカンドの成功はユーミットはんの能力によるところが大きい。おっちゃんは長くは、この国の王様は、やれん。次の王様が木乃伊はんとうまくやれるとは思えん」


 エルマがしみじみと語る。

「確かに、モンスターを取り込んでの領地運営は、難しいものがありますからね」

「次の王様は王様で、やりたい政策があるやろう。あまりに、おっちゃんの色を出しすぎた政治は都合が悪いねん」


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