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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
オルトハルツ国
397/548

第三百九十七夜 おっちゃんと防衛協定 

 館の庭から外を見ると、庭の木々の葉はすっかり落ちていた。

「年が明けて、オルトハルツも冬真っ盛りやな」


 国の通りを歩くと、冬用の薪を運んで来る荷馬車が目立つようになった。

 昼食を摂っていると、リオンがやって来て真剣な顔で頼む。

「おっちゃん、今日は国軍の件で相談したい」

「ええで、どんな内容や」


「わが国の軍は二百名しかいない。これでは有事の際には国を守れない。そこで、徴兵制を敷いてはどうだろうか」

「確かに兵は多くない。せやけど、国の人口かて、まだ六千を少し超えた程度や。二百人もおれば充分やと思うけど」


 リオンが口を尖らせて意見する。

「それでも、千名はいないと、いざというときに国を守れない」

「レガリアやハイネルンが本気になったら、千名ではどのみち守れんよ。今は生産力を上げて、国中に散らばっている、リオンはんやセバルはんの仲間に来てもらえるように努力するときや」

 おっちゃんが説得すると、リオンが不満のある顔で去っていった。


 リオンが去ると、ハワードがやって来る。ハワードは渋い顔で意見を述べる。

「おっちゃん、リオンが徴兵制の話を持って来ると思うが、徴兵制は止めたほうがいい。今ここで軍を大きくすると、国の成長が止まる」

「リオンはんなら、さっき来たで。徴兵制の話を持って来たから断った」


 ハワードが苦い顔で告げる。

「やはり、無茶を通しにきたか」

「でも、リオンはんの心配も当っている。軍が小さいせいで、以前は盗賊団が出ても独力で解決できなかった」


 ハワードは渋い顔で意見を述べる。

「だが、この国には冒険者がいる。盗賊団や火龍のようなモンスターなら、冒険者の手を借りれば脅威を取り除ける。問題は金で解決すべきだ」

「ハワードはんの意見もわかる。でも、安心して暮らせる国家である点が大事やからな。少し考えてみるよ」


 ハワードが帰って昼を少し過ぎると、セバルがやって来る。

 セバルが表情を曇らせて語る。

「おっちゃん、オルトハルツの軍を巡って、リオンとハワードが対立している。二人の対立を巡って、長たちが懸念を俺に告げてきた」


「リオンはんとハワードはんは考え方が違うからな。よっしゃ、それじゃあ、志願者を募って予備役を作る案はどうや。予備役として登録した人間には年に数日、訓練に参加してもらう。もちろん、日当も払う。そんで、有事の際に国防に参加してもらう」


 セバルが難しい顔で感想を漏らす。

「リオンとハワードの案の折衷案を作るのか。それで、調整するしかないか」

「ほな、予備役の創設に関しては、セバルはんに任せもええか?」


 セバルは凛々しい顔で告げる。

「それは構わない。でも、オルトハルツを国として考えた時にこの国は脆い」

「そうや。だから、戦争は、避けなければならん。オルトハルツに関して言えば、たった一度の敗北で国が消える」


「確かにそうだが、国軍の弱さは問題だ。何か考える必要性があるぞ」

「わかった。おっちゃんも何か考えるよ」


 考えるといっても、人口が六千人の国なら、六百も兵を持てば、負担が大変な状況になる。

(あまり、やりたくないけど、『オスペル』陛下を頼るしかないかな)


 おっちゃんは冒険者ギルドに国王の武勇伝を書く名目で、吟遊詩人を五人ほど集めた。

 吟遊詩人を前に依頼を出す。

「これから、おっちゃんがヤングルマ島と呼ばれる不思議な島での体験を話す。これを物語にしてや」


 おっちゃんは吟遊詩人に体験談を語って、物語を編纂させた。

物語は二冊の本に収めさせた。物語ができると秘密の部屋に移動して、『迷宮図書館』のフィルズを呼び出す装置を起動させる。


 ほどなくして、フィルズがやって来る。

「これ『オスペル』陛下への手土産です。おっちゃんが経験した冒険譚が書いてあります。よろしかったら、ご覧ください」


 フィルズは機嫌よく手土産を受け取った。

「面白い物語なら御館様も喜ぶだろう。して、今日の用件は、なんだ」

「あんな、フィルズはんにちょっと聞きたい話があるんよ。どんな条件をなら兵隊を貸してくれる」


 フィルズは難しい顔で告げる。

「正直に言うと、人間の国の上層部と『迷宮図書館』が繋がっている事実を人間側に公にしたくはない。軍を貸し出せば、否が応でも事実が知られる」


「やはりそうやろうね」

「そうだ。ここでこうして我らが会談をするのも、オルトハルツの国王だから相手にしているのではない。おっちゃんだから、相手にしているのだ」

「なら、兵士の貸し出しは無理か」


 フィルズは態度を和らげて発言した。

「現実的な話をすれば、御館様はおっちゃんを気に入っている。だから、頼めば兵を貸してはくれるだろう。おっちゃんの頼みであれば、一度くらいはなんとかなる」


(レガリアも、わいが国王の間は攻めない、と約束していた。この、国防がおっちゃんの頼みいうのも問題やな。わいが国からいなくなったら、防衛がおぼつかない)


「そうか、なら、大変な申し訳ないが、国が困ったら、一度だけ助けてくれる密約を結んでもらえないやろうか。もちろん、その時にはその時の事情はあるやろうか絶対やなくてええ、口約束でもええから、お願いしたい」


 フィルズが冴えない顔で釘を刺す。

「でも、兵隊を貸すのだ。タダというわけには、いかないぞ」

「それは、わかっていますわ。でも、渡せるものなんて、たかが知れとります。王冠、『龍殺しの弓』と、あとは聖剣くらいしかありません」


 フィルズは浮かない顔で述べる。

「どれも、御館様の興味を惹くものではないな。御館様を動かすもの、それは面白い話だ」

「わかりました、なら国が危機に陥った時に、面白い話を捧げたら、一度だけ助けてくれる防衛協定を結んでください」


「いいだろう、その条件で、御館様に話を持っていってみよう。では、また明日ここで」

「よろしゅうお願いします」


 次の夜に秘密の部屋で待っていると、フィルズがやって来る。

 フィルズは封筒に収まった一枚の手紙を渡す。


 手紙には「有事の際には『あれ』を差し出すなら、一度だけ木乃伊兵三千を貸し出す」と書いていた。

『愚神オスペル』の玉璽が押してあるので、手紙は本物に見えた。


「御館様は昨日のおっちゃんの贈り物をいたく気に入ってくれた。それで、一度だけ、面白い話と引き換えに木乃伊の兵三千人を貸し出すと約束してくれた」

「手紙の表現が『あれ』となっていますけど、これは暗号みたいものですか?」


 フィルズが威厳の籠もった顔で告げる。

「そうだ。符丁の一種だと思ってくれればいい」

「使う未来はないと思いますが、大いに助かります。ほんまに助かりましたわ」


 おっちゃんは翌日、手紙が入るだけの小さな宝箱を職人に発注する。

 手紙を入れる前に、おっちゃんは秘密の手紙を机の上に置いて、『透明』の魔法で部屋に隠れていた。


 部屋に、おっちゃんを探しにエルマがやって来る。

 エルマが、誰もいない状態を確認すると、そっと、手紙の中を確認して出ていった。


 おっちゃんは安堵した。

(エルマはんが見たのなら、内容はレガリア国王にも伝わる。そうすれば、抑止力になるやろう)

 宝箱が届くと、おっちゃん手紙を宝箱に入れて金庫にしまった。


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