第三百八十三夜 おっちゃんと王冠
おっちゃんの朝は早い。夜が明ける少し前から起きて来て、朝食を摂る。
朝食の後は、エルマから報告を聞き、指示を出す。その後、ハリルや石工たちと相談して、街造りを進める。
ある日曜日、石工の現場が休みの日だった。おっちゃんは休日なので、昼寝をしていた。昼寝から覚めて昼食を摂りに起きてくると、明るい顔のエルマがやってきた。
「おっちゃん、タイトカンドの鍛冶屋のリューリさんがお見えになっています。なんでも、国王就任を記念して王冠を献上したいそうです」
「リューリはんなら、知っとるで。タイトカンドの腕のよい鍛冶屋や。お通しして」
茶のワンピースを着た、おっちゃんと同じくらいの身長の女性が入ってきた。鍛冶師のリューリで、人の頭が入りそうな箱を持ってきていた。
リューリは意志の強そうな目をしており、鍛冶師らしく、腕には立派な筋肉が付いていた。畏まって挨拶をする。
「お久しぶりです。国王陛下、その節は大変お世話になりました」
「ええよ、そんな堅苦しくなくて。公の場でないときは、前みたいに、おっちゃんと呼んで」
リューリの顔が綻ぶ。
「なら、この場では、おっちゃんと呼ばせてもらいます。まさか、おっちゃんが国王になるとは、思いもよらなかったよ」
「おっちゃんかて、びっくりや。でも、成り行き上しかたないねん。でも、国が安定したら、また旅に出ようと思うとる」
「では、そのときはまた、タイトカンドに寄ってください。それで、今日は、おっちゃんにプレゼントを持ってきました」
リューリが箱を開けると、中に霊金鉱でできた王冠が入っていた。
「王冠を作ってきてくれたんか。でも、霊金鉱製やん。高いんやないの?」
リューリが寂しげな顔をする。
「先日、冒険者のヨアキムさんが、高齢のためになくなりました」
「ヨアキムはん、亡くなったんか。高齢やったからな」
リューリが、にこやかな顔で告げる。
「それで、ヨアキムさんの荷物を整理していたら、回顧録が出てきました。回顧録を読んで驚きました。おっちゃんが、雷を発生させる魔道具から街を救っていたんですね」
「ばれてしもうたか。皆を不安にさせたくないから、秘密にしとこういうたんやけどな」
リューリが微笑む。
「そういうところはおっちゃんらしいですね。それで、ヨアキムさんの回顧録を許に、魔道具を破壊するために使った槍を皆で探して、槍の残骸を見つけたんです」
「まさか、この王冠って、そんときの槍を熔かして作ったんか!」
「残った霊金鉱を熔かして、王冠に作り直しました。これは、元々はおっちゃんの槍です。なので、届けに来ました」
「そうか。義理堅いな。でも、オルトハルツは貧乏国家や。せっかく王冠を貰ったけど、国の状況によっては、売らないけんくなるかもしれん」
リューリがさばさばした顔で告げる。
「いいですよ。これは元々は、おっちゃんの武器です。売るも譲渡するのも自由です」
「わかった。ほな、ありがたく貰うわ」
リューリが控えめな態度で申し出る。
「次は、お願いがあります。どうか、ここオルトハルツに鍛冶屋を建てることを、お認めください」
「それは、願ってもない申し出や。技術がある人間がいてくると嬉しい。まして、タイトカンドの鍛冶屋なら、願ってもない。鍛冶ができる人間が集まったら、鍛冶師ギルドも欲しい。また、そんときは力を貸してや」
「はい、喜んで」とリューリは頭を下げる。
リューリが帰ったので、エルマを呼ぶ。エルマが部屋にある王冠を見て驚く。
「これは、王冠ですね。しかも、霊金鉱ですね」
「そうや。タイトカンドのみんなからの贈り物や。でも、おっちゃんは王冠より、タイトカンドの鍛冶師が国に来てくれる状況が嬉しい」
エルマが明るい顔で告げる。
「タイトカンドの鍛冶師といえば、腕は確かと評判ですからね」
「そうや。国の基礎は人や。人が国を作るんや」
エルマが表情を少し曇らせる。
「確かに、人は大事だと思います。でも、城壁や見張り塔、兵舎も大事です。おっちゃんは、これらは後回しでいいと明言されていましたが、本当によろしいのですか?」
「見栄えは悪くてもええ。他国に貧乏と笑われても我慢する。だけど、この国は、いつまでも貧乏やない。国に人が集まれば金が貯まる。金が貯まってから、城壁や見張り塔を修繕する」
「わかりました。では、私も、おっちゃんの方針に添って動きます」
「わかってくれたか。ほな、王冠は金庫に入れておいて」
エルマが王冠を持って下がる。
おっちゃんは休日の街を視察にぶらりと街に出、冒険者の一団と出遭った。
若い冒険者が明るい顔で声を掛けてくる。
「ちょうど、よいところに。おじさん、この街って、冒険者ギルドはないの?」
「この街は、まだ、人の手に渡ってからまもない街やからね。水場や商店があるだけやね」
若い冒険者は落胆した。
「そうか、冒険者ギルドがないのか。魔術師ギルドもないようだし不便だな」
「我慢してや。成長中の街やから、いずれできると思うよ」
別の年配の冒険者が、若い冒険者を慰める。
「これでも、随分と『迷宮図書館』には挑戦しやすくなったもんじゃよ。外にモンスターが徘徊していないし、近くに水場がある。ちょっと高いが、金を出せば酒だって手に入る。五年前なら考えられなかった便利さだ」
おっちゃんは去り行く冒険者を見送る。
(冒険者ギルドと魔術師ギルドの整備か。金は掛かるが進めんといかんな。ダンジョンに関する産業を育成せな、国は立ち行かん)




