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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
オルトハルツ国
381/548

第三百八十一夜 おっちゃんと国庫

 明後日の昼に館で待っていると、呪われた民のハワードがやってきた。

 ハワードは大柄な男で年齢は五十歳。髪はところどこ白いものが混じり、顔には深い皺が刻まれている。 

 ハワードは赤い服に茶の肩掛けをして、黒いズボンを穿いて赤と黒の帽子を被っていた。


 おっちゃんは国王の執務室でハワードと会った。

「こんにちは、ハワードはん。ハワードはんとは会うのは、これで二回目やね」


 おっちゃんは席を勧める。

 ハワードが行儀よく席に座る。

「まだ、国王陛下がおっちゃんと名乗られた時に、一度だけ会いましたな。あの時は私も一族長として、国王就任をお願いに上がる時でした」


「あれから、色々あったけど、やっとここまで来たな。苦難の歴史やったが、この建国が上手くいけば、また、ここから歴史が始まる」


 ハワードが感慨深い顔をして頷く。

「我が民の永きに(わた)る放浪も、ここで終わります」

「そうやな。あと、外の要人がいない時は、前みたく、おっちゃんでええよ。セバルはんも、おっちゃんと呼んでいるし、リオンはんも、おっちゃんと呼ぶ」


 ハワードが畏まった顔で応じる。

「わかりました。ならば、私も以前のように、おっちゃんと呼ばせてもらいます。さて、では、頭の痛い話をしましょうか」


「そうやね、嫌な話はさっさと片付けようか」

「では、国庫の話をします」


「国庫にいくらぐらい残っているんや?」

「金貨にして六千枚が残っています」

(思ったより少ないな。数年で金貨二十万枚も貯められたのやから、一万枚くらいはあると思うとった)


「多いようで、少ないな。払うものを払ったら、いくら残るんや?」


 ハワードが神妙な顔で告げる。

「年末には、これが、三千枚まで減ります。今年の税収が国庫に入るのが来年の四月の頭ですから、あまり余裕はありません」


「もうじき、九月やから、自由になるお金は金貨にして八百枚くらいか。建国式典を質素にしても金貨百枚は行くやろうから、残り七百枚か、なかなか厳しいの」


「そうですね。ですが、国民は豊かです。税金を臨時徴収すれば、もう少し国庫は豊かになりますが、どうしますか?」


(ははーん、これはハワードはん、国王としてのおっちゃんの度量を試しとるんやな。国庫に金を残しておかなかった理由も無駄使いを予想したんやんろう。ここで増税するようなら、ハワードはんの信頼は得られんな)


 おっちゃんは背筋を伸ばして命じた。

「臨時徴収は、せんくてよろしい。税が重ければ、せっかくやってきた住民が流出する。せっかく建てた国や。国民には気分よく住んでほしい」


 ハワードが澄ました顔で尋ねる。

「国王である、おっちゃんの考え方はわかりました。ですが、それで大丈夫でしょうか?」

「ここは何もない国や。国民から徴収しなければ、国民は手元にある金を使う。それが、ひいては国家を作る」


 ハワードが謙虚な顔をして尋ねる。

「国家主導で街を整備せず、国民主導で国家を整備していくつもりですかな?」


 おっちゃんは心を偽らずに述べる。

「国民主導いうたら、聞こえはええ。だが、実際には国家に国内を充分に整備するだけの力がないだけや。力も金もないのに無理な理想を描いたらあかん。身の丈にあった運営をする。ただ、それだけや」


 ハワードが渋い顔をする。

「そうすると、国王の力は制限されますね」

(これは演技やな。ハワードはんは、強い国王を望んでいない)


 おっちゃんは軽い口調で告げた。

「ええねん。オルトハルツは皆で金を貯めて建国した国家や。国王が樹立した国家やない。せやから、国王の力は強くなくて、ええねん。ただし、その分、国民には力を貸してもらわな、立ち行かんけどな」


 ハワードの肩から力が抜けた。ハワードは明るい顔で申し出る。

「正直、おっちゃんの言葉に安堵しました。私はまた国民の生活が安定しないうちに、強い王が治める、強い国家を目指すのではないかと、危惧しておりました」

(これは、偽らざるハワードはんの心境やな)


 おっちゃんは、はっきりと持論を述べる。

「強い王が必要な時が来たら、強い王を求めたらええ。でも、今はまだその時ではない」


 ハワードが柔和な顔で尋ねる。

「わかりました。それと、先ほど館を拝見させていただきましたが、館には丈夫な金庫室があるようです。さっそく、国庫として使用してよろしいでしょうか?」


「そうやね、金を納める金庫は丈夫そうやから、とりあえずは金貨にして三千枚を置いてもらってええか。全部を一箇所に置くのも危険やろう」


 ハワードがニコニコ顔で訊いてくる。

「わかりました。あと。これは、お願いなんですが、街の一角の土地を譲ってくれないでしょうか」

「なにをする気や?」

「ここに商館を建て、街の人間が日々に生活するのに必要な品を売ります」


 おっちゃんはハワードの提案には懐疑的だった。

(ハワードはん、建国の混乱に乗じて、値上がりしそうな土地を押さえる気やな。抜け目ない奴っちゃな。でも、将来をある程度まで見通せて、金のある奴を取り込んでおかな、建国は上手くいかん)


 おっちゃんは心中を隠して提案する。

「街の区割りと土地をどうするかについては、まだ、判断が付かん。せやから、売れん。とりあえずは、十年の賃貸でええか」

「それで、結構です。お願いします」


「都市計画が定まってないから、早いもの勝でええ土地を押さえさせるわけにはいかん。そんな行動を許せば不満が出るし、不便な街にもなる」


 ハワードは穏やかな顔で応じた。

「畏まりました。では、土地の賃料を毎年、納めることで、かつての商業地区の一角を借り上げさせてもらいます。また、ここに私財を投じて市場を作り、かならずや国の発展に貢献してみせましょう」


(市場を整備してくれるんか。これは餌やな。ハワードはんは投資で財を築いて、商売で国に基盤を作る気やな。オルトハルツを拠点にする気ならええ。どのみち、やり手の商人がいたほうが、経済がうまく回る。ただ、信用しすぎたら、あかんな。ハワードはんの最終目的は国王かもしれん)


「そうか、頼んだで」

 おっちゃんは素っ気ない態度で応じた。


 ハワードが帰った後で考える。

(おっちゃんは国王や。せやけど、ハワードはんのように、おっちゃんの後継者に座ろうとする人間は、出てくるな)


 後継者を誰にするか、現在では候補は三人いた。商才のハワード。武才のリオン。人望のセバル。

 誰もが一長一短だ。でも、おっちゃんが国を去るのなら、誰かに国を任せなければならない。


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