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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
バレンキスト編
353/548

第三百五十三夜 おっちゃんと『芸術家の霊廟』

 一人の男性が長く、幅の広い石造りの廊下を走っていた。

 男性の身長は百七十㎝。軽装の革鎧を着て、バック・パックを背負い、腰には細身の剣を()いている。歳は四十四と行っており、丸顔で無精髭(ぶしょうひげ)を生やしている。頭頂部が少し薄い。おっちゃんと名乗る冒険者だった。


 おっちゃんの後ろから長さ六mの軸に連結された大きな歯車が追ってきていた。歯車は全部で六枚。一枚が直径五mで、厚さ八十㎝。

 軸に連結された歯車は、おっちゃんを轢き殺さんと迫ってきていた。


 目の前に右と左の分かれる道が現れる。右は緩やかな下り坂になっており、左は緩やかな上り坂になっていた。おっちゃんは即座に上り坂を選んだ。


 坂を進むと、背後でガチャンと音がする。チラリと振り返る。

 反対方向の道が塞がっていた。代わりに、歯車が進行方向を変えられるように溝がある仕掛けが出現していた。

(これは、歯車が追ってくるで)


 おっちゃんは急ぎ、坂を上ると、縦横五mの小さな部屋に出た。

 部屋には直径三十㎝、高さ十mほどの枝がついた傾いた鉄塔があった。鉄塔から伸びる枝には、金属製の林檎がぶら下がっている。


 なんやと思っていると、背後でドンと音がする。おっちゃんを追って来ていた歯車は、大きすぎて部屋に入れず部屋の入口にぶつかっていた。

 歯車がゆっくりと後退を開始する。


 おっちゃん改めて鉄塔を見る。鉄塔の横に看板が立っており『作品名:裸の猿』と記載されていた。鉄塔の天辺にはガラスの星があり、星の中には何かが詰まっていた。

「これは、あれやな。鉄塔を登って、天辺の星を取れと暗示しとるんか。『飛行』の魔法で飛んでいけば、すぐに取れそうや。せやけど、きっと、それではあかんな」


 おっちゃんは魔法が使えた。どれほどの腕前かといえば、小さな魔術師ギルドのギルド・マスターが務まるくらいの腕前だった。

 おっちゃんは鉄塔に登れないか手を掛けると、鉄塔が動いた。体重を掛けると、鉄塔が傾斜する。鉄塔の根元を調べる。鉄塔は根が球状になっていて、力を掛けると傾く仕掛けになっていた。


 見上げると、拡がった枝の先端が壁に接しそうになる。枝と触れそうになる壁は、そこだけ金属製だった。

「なるほど、鉄塔は普通に登っていくと、揺れて登りづらいわけやな。そんで、枝が壁に触れると電流が流れて、お陀仏か。とすると、注目すべきは鉄の林檎か」


 おっちゃんが、足の届く枝に登り、鉄の林檎に触ると、鉄の林檎が動いた。鉄の林檎が動くと、連動して樹の傾きも変わる。

「やはり鉄塔の傾きは鉄の林檎で調整できる。攻略法は、わかったで」


 おっちゃんは、服を脱いで裸になると、猿の姿を念じる。おっちゃんの体が、みるみる縮み、猿になる。

 おっちゃんは人間ではない。『シェイプ・シフター』と呼ばれる、姿形を変化させられる能力を持ったモンスターだった。


 猿を選んだ理由は鉄塔に登り易いのと、体重が軽いからだった。体重が軽いほうが傾きを制御し易いと踏んだ。

 猿になったおっちゃんは器用に鉄塔に登る。鉄の林檎を移動させて鉄塔が一定以上傾かないように注意した。猿になったおっちゃんは、するすると、鉄塔を登っていく。


 鉄塔の天辺に到達した。ガラスの星を慎重に外す。ガラスの中には知恵の輪のような物体が三つほど入っていた。

「なんや、けったいなお宝やけど、もろうとうこうか」


 おっちゃんはガラスの星を外して手にする。おっちゃんが鉄塔から下りると、部屋の隅にゴンドラが下りてきた。

 人間の姿に戻って、服を着ようとした。すると、ゴンドラがゆっくりと上昇を始める。すぐに、服と装備を持って、ゴンドラに飛び乗る。


 ゴンドラの中でおっちゃんは着替えた。ゴンドラは天井に到達すると真横に移動して、壁にぶつかる。

 壁を調べると一辺が一mの抜け道があった。通気孔のような狭い道を這って進む。

 一辺が四mの小さな部屋に出た。小さな部屋には脱出用の魔法陣と思わしき魔法装置があった。


 おっちゃんが部屋に入ると、横の壁が開いて、一人の女性が姿を現した。

 女性の身長は、おっちゃんより五㎝ほど低い。短いショートカットの金髪に白い肌をしていた。瞳の色はブルーで小さな口をしている。


 格好はおっちゃんと似たような軽装革鎧を着て、小ぶりのバック・パックを背負っていた。

 同業の冒険者だと思ったので、おっちゃんから挨拶をした

「こんにちは。わいは、おっちゃん言う冒険者です。お宅さんも、探索ですか?」


 女性冒険者はおっちゃんを険しい視線でジロリと見る。女性冒険者は警戒感を滲ませながら挨拶をする。

「私の名は、ビアンカよ。このダンジョン『芸術家の霊廟』に探索に来て帰るところよ」

「そうでっか。ほな、この魔法陣は、外に通じておるんですかね?」


 ビアンカがさばさばした顔で告げる。

「そうよ。『芸術家の霊廟』は、モンスターが存在しない他に、もう一つ特徴があるのよ。『芸術家の霊廟』は他のダンジョンと比べると、外に出る仕掛けが豊富なのよ。だから、きっと外に通じているわ」


(ほー、それは、好都合やね)

 おっちゃんは道を譲った

「ほな、お先にどうぞ。おっちゃんは後から行かせてもらいます」


「お先に」とビアンカが優雅な態度で告げ、魔法陣に乗る。魔法陣が光り輝き、ビアンカは消えた。魔法陣の光は消えたが、待つと十分ほどで光が復活する。

 おっちゃんが魔法陣に乗ると、出口のある薄暗い部屋に到着した。部屋は三mの正方形状の部屋だった。


 出口を潜ると、心地よい冷たい風が吹いていた。おっちゃんの出た先は一辺十五mほどの台形のピラミッドの頂上に載る四角い部分だった。

 ピラミッドの階段を下りる。口を開けた高さ二十mの人の顔を象った『芸術家の霊廟』へと続く入口が見えた。大きな顔を中心に菱形場にピラミッドは配置されていた。


 地面に立ち、視線を泳がせるが、ビアンカの姿はどこにも見当たらなかった。

 おっちゃんは冬の寒空の下、バレンキストの街に向かって歩き出した。


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