表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
アルカキスト編
352/548

第三百五十二夜 おっちゃんと陰謀の予兆

 街に帰った翌日、おっちゃんに手紙が届いていた。

 差出人はワー・ウルフの族長ボルクだった。手紙は「モルモル村で会いたい」との内容だった。


 モルモル村に移動して、琥珀糖工房に顔を出した。

 ボルクたちが琥珀糖樹液を運び終わったところだった。


 ボルクが穏やかな顔で告げる。

「ちょうど今、仕事が終わったところだ。俺たちの新しい村で話をしよう」


 おっちゃんはお土産に山羊を買うと、ボルクの村まで歩いていった。

 ボルクの村は、モルモル村から三十分ほど離れた場所にあった。村といっても、開けた土地に、テントが立っているだけの村だった。

 村の中央には滾々(こんこん)と水が湧いているので、飲み水には困らない程度の土地である。


「生活のほうはどうや? 何とかやっていけそうか?」

 ボルクがさばさばした顔で語る。

「生活は琥珀糖の価格次第だ。だが、こればかりは俺たちにはわからん。でも、今の水準なら、どうにか、やっていけそうだ。それに、飲み水と襲撃の心配がしないだけ、随分といい」


「そうか。早いとこ安定した生活ができるとええな。それで用件は何や? 何ぞ困りごとか?」

 ボルクが改まった態度で申し出た。

「今日は礼がしたくて、おっちゃんを呼んだ」

「そうか、それは嬉しいな、ありがたく受け取るわ」


「礼といっても些細なものだがな。おっちゃんはムランキストの街を探していると、人伝(ひとづて)に聞いた。実はムランキストの街を俺たちは知っている」

「ほんまか。なら、ボンドガル寺院の場所もわかるか?」


 ボルクが厳しい顔で告げる。

「詳しい場所は知らないが、ムランキストの街にそんな名前の寺院があった」

「まさしく、おっちゃんが欲しかった情報や」


「ただ、ムランキストの街には入れない。あの街は砂で覆われたうえに、病が蔓延する街だとの噂がある」

「砂漠化と流行り病で、捨てられた街になったんか?」


「そうだ。だから、場所がわかっても、そう簡単にボンドガル寺院には入れない」

「砂に埋もれた病の街なら、二重苦やな」


 ボルクが真剣な顔で伝える。

「そうでもない。病は法王庁にある『病除けの護符』があれば病は防げる。また、法王庁もムランキストの街を探しているから、情報を持っていけば探索隊に入れるだろう」

「法王庁もボンドガル寺院を探しているんか? 何のためやろう?」


 ボルクが渋い顔して忠告した。

「なあ、おっちゃん。おっちゃんの目的はもしかして『太古の憎悪』か。なら、止めたほうがいいぞ。あれは、危険だ」

「なしてや? 何ぞ、わけありか?」


「『太古の憎悪』は法王庁だけが狙っているのではない。王の兄フリードリッヒと皇太子のヴィルヘルムも狙っている。現に、村がある時に三者から接触があった」

「なかなか、ホットな話題やな」


 ボルクが神妙な顔で尋ねる。

「おっちゃんはどうして、『太古の憎悪』を蘇らせたいんだ? やはり、『太古の憎悪』を復活させて、北東の密林を焼き払ったり、砂漠化した土地を元に戻したりするためか?」


「おっちゃんは『太古の憎悪』が蘇ったときに封印する方法を探しているんや。何でも、噂やと『太古の憎悪』が蘇ると恐ろしい悲劇が起きる話やからね」


 ボルクが少しだけ表情を和らげる。

「そうか。おっちゃんの動機を聞いて安心した。村でも『太古の憎悪』は、蘇らせてはいけない存在として伝えられていた」


「よし、おっちゃんは、これから法王庁に潜入してみる。そんで、『病除けの護符』が手に入ったら、街の場所を教えてもらう」


 ボルクが凛々しい顔で伝える。

「場所は今、ここで教える。俺に何かがあってわからなくなったら困る」


 ボルクが二枚の古い地図を見せた。

 おっちゃんは『記憶』の魔法を唱えて、地図を暗記する。

「よし、これで地図を覚えた。ありがとうな、ボルクはん」


 おっちゃんはボルクと別れると、解呪組合のゴルカを訪ねた。

「ゴルカはん、呪われたゴールデン・バウムを伐るのに同行した報酬を貰いに来たで。金貨は要らん。代わりに、法王庁への紹介状を書いてや。特認冒険者に興味がある」


 ゴルカが渋い顔で答える。

「特認冒険者は簡単にはなれません。ですが、おっちゃんには聖印を取り戻していただいた実績があります。ならば、どうにかしてあげたい」

「何や、難しいんか?」


 ゴルカが表情を曇らせて伝える。

「特認冒険者の採用はあくまでも、法王庁にあるのです。ですから、解呪組合の紹介があっても、なれるとは限りません」


「ええよ。伝さえあったら、あとはどうにか考える」

「わかりました。では、三日後また解呪組合に来てください」


 おっちゃんは冒険の準備を整えて、三日後に解呪組合に行った。

 ゴルカが柔和な笑みを湛えて待っていた。ゴルカは解呪組合長からの紹介状を渡す。ゴルカは他に大きな袋と小さな袋を渡してくれた。


 ゴルカが優しい顔をして告げる。

「これは餞別です。些少ですが、持ってお行きなさい」


 小さな袋を開けると金貨が十枚、入っていた。

 大きな袋を開けると、二㎏ほどのゴールデン・バウムの塊が入っていた。

「おおきに、ゴルカはん。遠慮なく(もろ)うてゆくわ」

「旅の無事をお祈りしていますよ」


 おっちゃんはアルカキストの街をあとにして、法王庁があるバレンキストに向かった。

【アルカキスト編了】

©2018 Gin Kanekure

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ