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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
アルカキスト編
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第三百五十夜 おっちゃんとワー・ウルフ(後編)

 おっちゃんは貧民街を後にすると、フェリペの家を訪ねた。

「フェリペはん。ちと、話がしたい。塩王の野望を挫いた報酬が欲しい」


 フェリペが愛想よく応じる。

「俺が海運王と話したが、話は決裂した。モルモル村が守られた現状は、おっちゃんが代官を選出している解呪組合と交渉した結果だ。それで、いくら欲しいんだ?」

「金は要らん。せやから、琥珀糖の木からの樹液の採取の仕事をする人間を雇って欲しい」


「そんな些細な報酬でいいなら、歓迎だ。いったい誰だい?」

「四十人からなるワー・ウルフの集団や」


 フェリペは顔を曇らせ、二の足を踏んだ。

「モンスターなのかい。それは、ちょっとな」

「まあ、待って、よく考えて。ワー・ウルフなら危険な森の中を、人間より安全に進める。力も、人間より強い。ワー・ウルフなら、もう少し奥の琥珀糖の木から樹液を採取しに行ける。利益になる話や」


 フェリペが苦い顔で告げる。

「樹液採取は重労働だから、人間より強靭なワー・ウルフのほうが向いているだろうな。でも、ワー・ウルフはつい先日まで強盗だったんだぜ」

「せや。仕事がないから強盗をやった。仕事があれば強盗はせん。そうなれば、モルモル村からアルカキストまでも安全になるで」


 フェリペは、なおも渋った。

「うーん、でもな。ワー・ウルフを雇うとなると、モルモル村の人間がどう思うか」

「大丈夫やろう。モルモル村の人間は猿人や蟻人とも、うまくやって来たんや。ワー・ウルフかて、違いはあらへん。なんなら、おっちゃんが話を付ける」


 フェリペの表情が和らぐ。

「わかった。おっちゃんには世話になったからな。モルモル村とは、俺が窓口になって話を付ける。それで、ワー・ウルフたちはどこから通うんだ」

「モルモル村が理想や。せやけど、いきなり同居は無理やろう。近くにワー・ウルフの集落が必要やな」


 フェリペは穏やかな顔で決断した。

「よし、そっちも、モルモル村と話を付けよう。ちょうど、明日、モルモル村で七日市の仕切り直しについて、商人同士の会談がある」

「ちょうどええタイミングやね」


「猿人、蟻人、モルモル村の村長が出席して、琥珀糖の木からの樹液採取事業の話も出る。俺が全部、纏めて筋道を付けてやるよ」

「そうしてくれると助かるわ」


 フェリペは照れたように笑って答える。

「なに、おっちゃんには世話になっているからな。これくらいは、安いもんさ。それに、おっちゃんの話が纏まれば俺たち商人にも利益になる。なら、俺たちが率先して動かないとな」


 おっちゃんはフェリペとの話が終わったので、冒険者ギルドに戻る。おっちゃんは疲れたので、その日は早くに眠った。


 翌朝、起きて冒険者ギルドに行く。テレサがほがらかな顔で話し掛けて来る。

「おっちゃん、今朝早くに荷物が届いているわよ」


 テレサが小さな袋を、おっちゃんに差し出した。

 おっちゃんは袋の中身を確認すると、拳大の印が入っていた。

(おっちゃんと組むと決めたんやな。案外、見る目があるな。よっしゃ、信用には応えてやらんとな)


 おっちゃんは袋を持って、解呪組合に行く。ゴルカを呼ぶと、ゴルカがやって来た。

「盗まれた聖印の話はどうやった?」


 ゴルカが沈痛な面持ちで話す。

「最悪に近い結末です。金は奪われずに済みました。ですが、聖印は戻りませんでした。聖印の行方も不明です」

「そうか。ひょっとして、聖印ってこれか?」


 おっちゃんが印を見せると、ゴルカが驚いた。

「まさしく、これです。これをどこで手に入れたんですか?」

「冒険者には色々と(つて)があるんよ。出所は秘密やで。呪われたゴールデン・バウムをこれで伐れるやろう。今度はなくしたらあかんよ」


「わかりました。早速、呪われたゴールデン・バウム討伐の準備を再開します。おっちゃんにも同行をお願いします。うまく行った暁には、充分な報酬をお支払いします」


「期待してるで」と、おっちゃんは軽く口にして解呪組合を出る。

 夜になってフェリペの家を訪ねると、フェリペが帰ってきていた。


 フェリペが笑顔で答える。

「ワー・ウルフを雇用する方向で話が纏まった。居住地の選定もモルモル村が協力してくれた。猿人や蟻人との調整も問題なく決着した」

「そうか。苦労を掛けたな」


 フェリペははにかむように笑って答えた。

「なに、おっちゃんが今まで働いてくれていたから、話がスムーズに行ったようなものだ。それで、ワー・ウルフの代表者と話がしたい」

「ほな、フェリペはんを訪ねるように頼んでおくわ、いつぐらいに来たらええ」

「明後日の昼にでもこっちに来てくれるように伝えてくれ」


 おっちゃんは一夜を宿で明かすと、貧民街のボルクの許に向かった。

 ボルクはおっちゃんを待っていた。

「こんにちは、ボルクはん。賢い選択をしたな。話は順調や。明日の昼に商人のフェリペを訪ねてくれ。フェリペはんが琥珀糖樹液の採取の仕事と、住む場所の話を詰めたいと待っとる」


 ボルクが不安を滲ませて訊いてくる。

「大丈夫なんだろうな? こっちはおっちゃんに乗ると決めた以上、もう後戻りはできない」

「実際に密林に住んでみたら、色々と問題があるやろう。でもそれは、その時、その時で、解決していくしかないよ。粘り強く交渉すれば、道も開けるやろう」


 ボルクが感慨も深気に述べる。

「我が民の道は我が民で切り開いていくしかないか」

「せやな。でも、そんなに暗い道やないやろう」


 おっちゃんはボルクの集落で呪われて困っている人間の呪いを解く。残っている呪われた品には手を出さないよう告げた。

 呪われた残りの品は翌日におっちゃんが梱包し直す。厳重に梱包された品を荷車に載せて解呪組合に送り届けた。


 二日後、呪われたゴールデン・バウムを伐る話が、おっちゃんの許に届けられた。


【書籍化します】 第一巻が2018年2月23日に、HJノベルスより発売予定

         三巻までは出る予定です。

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