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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
アルカキスト編
337/548

第三百三十七夜 おっちゃんと薬草の仕入れ

 二日後、象使いのアロソンが一人の身なりの良い年配の商人を連れて現れる。

 年配の商人が挨拶をする。

「私の名はフェリペ。モルモル村とアルカキストを往復する商人だ。もうすぐ、次の『七日市』が開催される。そこで私は薬草を買い付ける話になっているんだが、護衛を頼みたい」


 不思議な依頼に感じた。

「『七日市』の護衛なら商隊主が募集して付けるやろう。なんで、個別の護衛を頼むん?」


 フェリペが神妙な面持ちで答える。

「実は私は反解呪組合の有志から調合に使う薬草の仕入れを頼まれている」

「それはまた、大変な仕事を請けましたな」


「この仕事を受けるに当たっても、色々な妨害があった。それでも、商隊に参加できるところまでは漕ぎ着けた」


「なるほどの。前回は襲撃があった。おそらく、今回も襲撃がある。そうなった時に、解呪組合の息の掛かった冒険者に背後から刺されんための措置か?」


 フェリペは渋い顔で話す。

「護衛の冒険者が襲ってくるとは考えない。だが、見捨てられる可能性は多いにある。その時に身を守ってくれる冒険者が必要だ」



「でも、おっちゃんは一人やで。もっと大勢で行動する冒険者パーティに依頼を出したほうが、いいと思うよ」


 フェリペが苦い表情で語る。

「商隊主から『護衛を別個に雇うなら、商隊には参加させられない』と釘を刺された。表向きは特別扱いはしないとの判断だ。だが、おそらく真意は違う。連れて行ける人間は雑用が一人だけなんだ」


「連れて行ける人間は一人ね。それは、パーティで行動する冒険者には頼めんな。でも、個人で活動する有名どころの冒険者かておるやろう。なして、おっちゃんなん?」


 フェリペが苦い顔のまま告げる。

「何人か当たったが、全て断られた。理由は教えてもらえなかった。だが、大体の見当は付く。解呪組合が手を廻しているんだ」


 理解できる話だった。地元に根ざす冒険者なら(しがらみ)がある。

「地元の有名どころは解呪組合との軋轢(あつれき)を避けたか。無理のない話やな」


「それだけじゃないんだ。どうも、個人で活動している冒険者は解呪組合から何か別の仕事を請けている。それも何人もだ」

「囲い込みか? なんの仕事かわからんが、仕事を貰っているなら無理やな。依頼人には義理がある」


 フェリペは真摯(しんし)な態度で頼んだ。

「そこで、まだ、アルカキストに来て日が浅く、解呪組合の息が掛かっておらず、腕の立つ冒険者を探していた。そうしたら、アロソンが紹介してくれた」


 アロソンが真剣な顔で頭を下げる。

「おっちゃん、どうだろう? フェリペさんの依頼を受けてもらうわけには、いかないだろうか?」


 困っているフェリペを助けてやりたい気持ちはあった。

 おっちゃんとて解呪組合には反発心があった。それに、フェリペの依頼はヤーゴの依頼と違う。犯罪ではない。

「他にやる奴がおらんのやから、しゃあない。受けてもいいで」


 フェリペは深々と頭を下げた。

「そうか、助かる。俺も解呪組合には頭に来ている。あの組合ができてから解呪破産なんて言葉もできた。もし、解呪組合が街の水を汚染するような真似をしているなら、早急に止めたい」

 フェリペとアロソンは帰って行った。


 おっちゃんはテレサと話す。

「なあ、テレサはん。個人で活動している腕の立つ冒険者がおるやろう。彼らが解呪組合から何か依頼を受けているらしいんやけど、どんな依頼か知っているか?」


 解呪組合の動きを把握しておきたかった。

(仕事を受けておるなら、なにか動きを知っているやろう。何人か当たれば、一人くらいポロっと話す奴もおる)


 テレサは困った顔をして詫びた。

「御免なさい。私たちにも守秘義務があるから教えられないわ」

「なら、おっちゃんから直接に仕事を引き受けた冒険者に訊くわ。冒険者同士なら教えてくれる話もあるやろう。誰でもええけど、誰か酒場におるか?」


「いないわ」と、テレサが表情を曇らせて答える。

(時間帯が悪かったかな)


「そうか。なら、名前と簡単な人相だけ教えてもらえるか。酒場で待つとったら会えるやろう」

テレサが弱った顔で告げる。

「違うのよ。個人で解呪組合の指名依頼を受けた冒険者で帰ってきた人間がいないのよ」


 驚きの事実だった。

「それ、ほんま? 指名を受けた冒険者が一人も帰ってきておらんの?」


 テレサが陰鬱な顔で頷く。

(これは、まずいで。解呪組合の中で何かが起きている状況は間違いないの。影響は思ったより、でかいのかもしれん。しかも、かなり危険な流れや)

「なんか、まずい事態に足を突っ込んだかもしれんの」


『七日市』に向けて出発する日が来た。

 フェリペとおっちゃんは、薬草と交換するための品として、塩漬けにした鶏を背負う。おっちゃんたちは列の最後尾に配置された。


 最後尾には護衛の冒険者が配置されていた。だが、態度はよそよそしかった。

(これは守ってくれるかどうか、怪しい態度やな)


 モルモル村には無事に着いた。

 だが、モルモル村では異変が起きていた。前日入りして明日の『七日市』を準備する猿人と蟻人が来ない。


 フェリペたち商人は商隊長に呼ばれる。

 一時間ほどして、フェリペが戻ってきて、困った顔で告げる。

「まずい事態になった。取引相手が来ない。しかも、理由がわからない」

「取引相手が来ないなら、仕入れはどうするん?」


 フェリペが苦い顔で語る。

「モルモル村の採取家の家に行った。だが、すでに他の商人に品物を押さえられていた」

「どうにか、売ってもらうわけにはいかんのやろうか?」


 フェリペは沈痛な表情で首を横に振る。

「無駄だろう。それに、採取家が仮に品物を売ってくれたとしても、肝心ないくつかの薬草が村にないんだ」

「なら、どうするんや」


「採取家から必要な品は猿人の縄張りに行かねばないと教えられた。最悪、猿人の集落まで行くしかない」

「なんか、えらい展開になってきたで」


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