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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
アルカキスト編
334/548

第三百三十四夜 おっちゃんとアルカキストの祭り(前編)

 アルカキストの街の郊外には、温泉が湧く場所がある。温泉街は観光地となっていた。おっちゃんは纏まった金が手に入ったので、温泉街に足を向けた。


 アルカキストには浜辺に近い場所に温泉と海の水が交わる場所があった。温泉と海水が交わる場所は秋でも水温が暖かく、水着を着たお客さんで賑わっている。

「秋やいうのに海水浴か。こんな場所もあるんやねえ」


 温泉街には看板が出ていた。看板に絵が付いていたのと、なんとなく知った文字だったので、読めた。

「アルカキスト、温泉、祭り、か。ほおー、祭りがあるんか、あるなら行ってみたいの」


 おっちゃんは、そこでふと考える。

「あれ? でも、冒険者の酒場では話題になっておらんかったな。下級冒険者が屋台とか出さんのやろうか?」


 おっちゃんは温泉に入った帰りに冒険者の酒場に顔を出し、テレサに訊く。

「近々、温泉街で、温泉祭ってあるやろう。あれ、どんな祭りなん?」


 テレサが冴えない顔で答える。

「温泉街全体でやる祭りよ。前は地元の住民も参加していたんだけど、今は富裕層と観光客以外は、あまり参加しないわ」

「なんや。庶民の祭りと違うんか?」


 テレサが悲しみを滲ませて語る。

「五年前までは、温泉組合だけでやっていた、素朴な祭りだったわ。でも、代官が祭りを仕切るようになってからは、入場料を取るようになったの。祭りの質が変わったのよ」

「お役人が仕切る祭りか。それは、冒険者も出ていきづらいな」


 テレサが寂しげな顔で語る。

「出し物や出店は洗練されたっていうけど、値段も上がったわ」

「綺麗に格好良くやろうとすれば、金が掛かるからな」


「混雑解消には良かったかもしれない。だけど、活気はなくなったわね。私も代官主催になってからは行っていないわ」

「代官は良かれと思ってやったのかもしれんが、活気のない祭りは寂しいな。ほな、冒険者とはなんの関係もないんか?」


 テレサが浮かない顔で切り出した。

「それが、あるのよ。冒険者ギルドに代官の名前で、祭りの警備の依頼が来ているわ。それも、頭痛の種よ」


「なんで? 祭りの警備なんて普通の仕事やろう? 仕事を選り好みできん下級冒険者ですぐに、上限枠まで埋まるんやないの?」


 テレサが歯切れも悪く語る。

「祭りには代官を筆頭に、代官職を持ち回りで選出する御三家と呼ばれる存在が来るわ。塩商人の塩王、海運業者の海運王、解呪組合長よ。それで、今の代官は、解呪組合出身でしょ」

「あの、評判の悪い解呪組合か」


 テレサが困った顔で告げる。

「そう。それで、祭りの日に聖職者や知識人がデモ行進をやる、って息巻いているのよ。冒険者の一部も参加するわ。その、デモ隊の向かう先は当然、祭りの会場よ」


「冒険者はデモ隊を排除する先兵にされる、いうわけか。デモに参加する人間の心情がわかるだけに、やりたない仕事やな。それで募集が埋まらんのか、同じ冒険者の排除なんて、やりたないもんな」


 テレサは苦しげな顔で内情を教える。

「冒険者ギルドとしてはデモに参加するなとは命令できない。付き合いがあるから、代官からの依頼を断るわけにもいかない。もう、板挟みよ」

「辛いところやな」


 テレサが幾分か気を取り直して伝える。

「ところで、おっちゃん。祭りの警備の仕事をやらない? あと、一人で、募集上限枠の半分は埋まるわ。半分未満だと体裁が悪いのよ」

「内情を聞いてしまうとな、やりたない仕事やな」


 テレサが心底、困った顔で、拝むように頼んできた。

「そこを、何とかお願いできないかしら? 半分は集まらないと、冒険者ギルドとしても格好が付かないのよ。逆に言えば、あと一人いれば格好が付くのよ。どうにかならない?」


 冒険者相手に鎮圧の仕事はやりたくなかった。なにせ、祭りの翌日には酒場で顔を合わせるかもしれない。


 だが、困っているテレサも助けてやりたい気もあった。

「やりたくない仕事やけど、あと一人かー。せやなー。しゃあない。おっちゃんが助けたるわ」

テレサが安堵した顔で告げる。

「ありがとう、おっちゃん。恩にきるわ」


 おっちゃんはテレサから職印章を受け取る。

 祭りの当時、朝早くに剣を置いて、おっちゃんは祭りの会場に向かった。


 メイン会場は周囲千六百m。メイン会場に続く道は三本を残して封鎖されており、人の出入りは制限されていた。

 正面ゲートでは売り子が入場券を売る準備をしていた。入場券の価格を見ると、大人が銀貨二枚で、子供が銀貨一枚と中々良い値段がした。


 おっちゃんたち警備班の班長と一緒に、会場外の目立たない場所で待機となる。

 警備班は三班あった。一つの班が班長を入れて十三名で構成されていた。服装から察するに一班と二班が冒険者による班だった。


 冒険者には、簡単な造りの鉄兜と大きな木製の盾が渡される。

(警備会場の外に固まって、これだけの配置って、これ、完全にデモ隊への壁役やな。やりたない場所に配置されたけど、しゃあない。これも仕事や)

 温泉から離れた場所なので、秋風が身に染みた。


 班長は体格のよい年配の男だった。班長だけは腰から鎚をぶら下げ、ムスッとした顔で告げる。

「まだ、楽にしていていいぞ。本番は昼過ぎだ。昼過ぎに、御三家が揃っての芝居観覧がある。デモ隊が繰り出してくるとすれば、その時だ」


 警備員が不安げな顔で尋ねる。

「三十九名で、抑えきれるものでしょうか?」


 班長が不機嫌に応える。

「抑えきるのが俺らの仕事だ。俺らが抜かれたら、デモ隊は会場内にいる軍とぶつかる。そうなれば、必ず死傷者が出る。どちらにも死者を出さないために、我々はいる」


 警備員が肩を竦めて発言する。

「俺たちだって、怪我はしたくないんですけどね」


 軽く昼食を摂って秋空の元で待っていると、伝令が入ってくる。

「御三家の要人、会場に入られました」


 班長が怖い顔で命じる。

「各自、用意をしておけ、デモ隊も昼食を終えて、そろそろ集まり出すぞ」


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