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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
アルカキスト編
333/548

第三百三十三夜 おっちゃんと荷物の回収

 翌日、冒険者ギルドの掲示板を見る。

 人足が捨てた荷物の回収の仕事があった。報酬は回収した荷物の半額。やり手はいないようだった。


(危険度もわからなければ、報酬も未知では、やり手はいないか)


 おっちゃんは襲撃された場所を知っていた。なので、荷物が捨てられていそうな場所がだいたいわかっていた。危険はあるがいい収入になるかもしれんと考えた。


 おっちゃんはアロソンを訪ねる。

「アロソンはん、今日は暇か? 時間があるようやったら、ちょいと儲けに行かんか」


 アロソンが機嫌の良い顔で応じる。

「なんだい、儲け話って」


「荷主さんが密林で落とした荷物を持って来てくれたら、半額で買い取ってくれるんよ。おっちゃんだけやと持てる量に限りがあるから、象と一緒に参加して欲しい」


 アロソンが渋い顔をする。

「密林に行くのかい」


「おっちゃんだけやと密林に詳しくないから、ようわからん。アロソンはんが従いてきてくれると嬉しい」


 アロソンが不安な顔をして尋ねる。

「強盗に襲われないかな?」

「ワー・ウルフを気にしてるん? 向こうは襲撃を成功させたから、もう、いないやろう」


「そうかな。それなら、いいんだけど、なんか不安だよ」

「なんなら、別の象使いを紹介してくれてもええで。話が纏まったら仲介料を払うわ」


 アロソンが真剣な顔で決断した。

「俺が一緒に行くよ。おっちゃんには世話になった。密林は経験がない人には危険な場所だからね」

「一緒に行ってくれると心強いな」


 アロソンの象に荷物を積む準備をして密林に入った。

 途中、トイレに行った帰りに『物品感知』の魔法を唱えて紐を指定しておく。


 襲われた場所に来る。

「さて、探すで」


 おっちゃんは紐の場所を頼りに歩く。

 密林には背が低い木も、背が高い木も様々に生えていた。上を見上げれば、どの木もびっしりと葉を付けているので緑の天井が見える。ただ、下を見れば地面に枯葉が溜まり茶色だった。

 

 背負い紐がついた、大きな木の樽が落ちていた。

「お、さっそくあったで」


 匂いを嗅ぐと油の匂いがした。アロソンが容器を調べる

「これは、椰子油だな、猿人たちが油椰子の実を絞って作った油だよ」

「なら、落し物やな。貰っておこう」


 次に紐がついた袋を発見する。中は石が詰まっていた。

「おっと、これは鉱石やな。これも、貰っておいて問題ないやろう」


 鉱石の袋を積む。象を連れて密林をウロウロと探索する。

 同じように緑の天井が続く木々の間を探索する。背の高い木が姿を消し、空から光が射す。木々の密度が低い場所に出た。


 油の詰まった樽と鉱石の詰まった袋を次々と発見する。袋や樽は手が付けられていなかった。

「加工が必要な鉱石が捨てられている理由は、わかる。椰子油は、あの独特の油の匂いが嫌いなんかな」


 アロソンが苦い顔をして告げる。

「狼の気分はわからない。けど、おそらく、そうだよ。俺も椰子油の匂いは好きじゃない」


 しばらく、歩くと高さ八mで幹の太さが八十㎝ほどある大きな木があった。木の幹には人足役の冒険者が抱きつくようにして死んでいた。


 人足役の冒険者は荷物を背負ったまま死んでいた。

「なんや? 奇妙な死体やな。木に抱きついて死んどる」


 おっちゃんが近寄ろうとすると、アロソンが怖い顔で止める。

「駄目だ、近寄っちゃ。マーダー・ツリーだ。近寄った人間を殺して養分に変えて育つ木だよ」

「おっと、それは近寄ったらあかんな。荷物は惜しいがしゃあない」


 おっちゃんは木から離れる。

 また密林を歩くと、人間が入れるくらいの大きな棘のある葉があった。葉の上端から人の手首が出ていた。明らかに怪しいので近寄らんかった。


 アロソンは険しい顔で注意する。

「あれは、金貨モドキ。葉を広げて、中央に金貨に似た花を咲かせるんだ。そうして花を摂ろうと近寄ると、毒の棘を持った葉が閉じる。毒の棘で人間を殺して養分にするんだよ」

「人間を罠に嵌めるために作られたような植物やな」


 また、しばらく捜索を続ける。

 人が蔦に絡まって、空中に浮くようにして死んでいる人間がいた。


 アロソンは神妙な顔で注意する。

「あれは、足取り蔓草。足に引っ付く蔦を地面に下ろしておいて、踏むと絡まって宙に獲物を吊すんだ。そうして、動物が腐った汁を吸うんだ」

「ここも、危険か。危ない場所が多いな。アロソンはんに従いてきてもらって正解やで」


 荷物の探索を再開すると、アロソンが足を止める。

「おっちゃん。これ以上は先には進めないよ。怖れハチドリがいる」


 アロソンが指を差した方角には体長十㎝のピンクの鳥が枝に止まっていた。鳥は小さく黒い顔を持ち、長い舌をちょろちょろ出している。

「あれ、そんなに危険なん」


 アロソンが怖れた顔で教える。

「怖れハチドリは危険じゃない。でも、怖れハチドリがいるんなら、エンペリウムの花が先に咲いているんだ」


「エンペリウムが危険なん?」

「エンペリウムは空中に麻薬成分のある毒の花粉を放出するんだ。花粉を吸った生き物は良い心地のまま動けなくなる」


「毒を空中に撒くとは厄介やな」

「その内に、花粉の毒で呼吸が止まるんだ。唯一、怖れハチドリだけが耐性を持つんだよ」


「なんや、アルカキストの密林って恐ろしいところやな」


 アロソンが真剣な顔で語る。

「中でも恐ろしい存在は呪われたゴールデン・バウムだよ。この密林の呪われた木の王様さ」

「危険植物に王様級がおるのか。どんな奴なんや?」


「とても美味しい木の実をつけるんだけど、食べたら呪いに掛かって、おかしくなるんだ。並の僧侶や魔法使いでは解けない呪いをかける」

「そうか。眼に見える危険より、眼に見えない危険のほうが怖いからな」


 おっちゃんたちは暗くなる前に、回収した荷物を持って商会に向かった。

 荷主、荷物が戻ってくると喜んだ。

「椰子油が八樽に鉱石の袋が二つ。いや、よくぞ回収してきてくれた。さあ、これが報酬だ」


 受け取った報酬は金貨が二十四枚と銀貨三十枚にもなった。

 アロソンと顔を見合わせる。

「すごい金額になったで。大儲けや。折半でええか?」


「多分、回収した鉱石の袋に、宝石の原石が入った袋があったんだと思うよ」

「これは、思わぬ結末になったで。金貨の三枚もいけばええと思うとったからの」


 アロソンと儲けを半分ずつして、冒険者ギルドに戻る。

 おっちゃんは、その日はアルカキストでは高級とされる豚肉料理を注文して、麦酒の入ったジョッキを片手に、一杯やった


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