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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
アルカキスト編
332/548

第三百三十二夜 おっちゃんと密林からの帰路

 夜が明けて、『七日市』が開催される。雑用係であるおっちゃんは売買された商品の運搬役になった。

 酒樽と鉱石を運ぶのには苦労したが、それ以外は、たいして苦にならなかった。取引は活発で、金貨や銀貨が頻繁にやり取りされる。市は盛況の内に夕方前に終わった。


 仕事の合間に猿人や蟻人にムランキストの街の場所を聞いたが、誰も知らなかった。

「聞き込みは、完全な空振りやな」


 取引が済むと、猿人はワイバーンで、蟻人は地下道を通って、その日の内に帰っていく。

 人間は陸路を歩いて帰らなければいけない。人間だけがモルモル村で夜を明かす。


 一夜を明かして、交易で手に入れた荷物を商人たちが背負う。おっちゃんも薬草の束を背負った。アロソンの象も鉱石の入った袋を積む。


 一列になって商隊は進む。モルモル村とアルカキストの中間地点で事件は起きた。

 密林を進んでいると、突如として矢が飛んできた。

 護衛の冒険者が「襲撃だ」と叫んで剣を抜いた。


 矢はあちらこちらから散発的に飛んでくる。象に矢が当ると、象が暴れ出す。

 アロソンの象には矢が当らなかったが、象が暴れ出しそうになる。アロソンが必死で象を宥める。


 冒険者は商隊を守ろうとした。ところが、暴れ出す象に踏み潰されないように散開するので戦力を集結できない。


 密林のあちこちから剣戟の音がする。アロソンが怯えた顔で尋ねる。

「どうしよう、おっちゃん? 強盗団がやってきた」


 おっちゃんは剣戟の音に耳を澄ます。

(なんや。思ったより戦闘音が少ない。密林で相手の数は見えないが、襲撃者の数は多くない。相手の目的は、こちらの戦力を分散させるつもりか、陽動の可能性があるな)


 慌てて人足たちが荷物を捨てて後ろへ逃げようとする。象を操る人間も、逃げ出すなら今と、前へ進もうとする。

「待て。慌てて動いたらいかん。集団から離れたら危険や」


 おっちゃんが警告の声を上げるが、アロソン以外に訊く者はいない。

「あかん。完全に浮き足立っておる」


 アロソンが恐怖した顔で告げる。

「駄目だ、おっちゃん。前か後ろに逃げないと、俺たちだけここに取り残される」

(前に行くか、後ろに行くか、正解は、どっちや?)


 おっちゃんは迷ったが、アロソンに指示を出す。

「一旦ここは後方に退避や」


 おっちゃんとアロソンは象を連れて後方に逃げる。後方に逃げると、前方の異変を察知した冒険者が人を掻き分けてやってきた。


 アロソンは冒険者を見てほっとしたが、おっちゃんは指示を変える。

「あかん、これ以上、後ろに行ったら危険や。反転して前に進むで」


 アロソンがびっくりして訊き返す。

「なんで、前なんだ。前方は戦闘が続いていて危険だよ」

「逆や。今、後方が手薄になった、おそらく次は後ろが狙われる。だから、前に行かんと危ない」


 アロソンは迷ったが、象を反転させた。

「わかった前に行こう」


 アロソンと象を反転させて冒険者を追うように道を前に進む。

 敵がいるかもしれない方向に進む決断は賭けだった。前進すると、剣戟の音はほとんどしなかった。


 後方から走って逃げてくる人間が現れた。完全に手薄になった後方が狙われていた。

 前方から敵がいなくなったのか、冒険者の集団が戻ってくる。


 冒険者のリーダーが声を上げる。

「止まれ。止まるんだ。このままだと、やられる。一塊になるんだ」


 おっちゃんは、アロソンに指示を出す。

「よし、このまま、後方の人間を待つ。そんで、纏まって進んだほうが安全や」


 二十分ほどかけて人が集まるのを待った。

 人が集まると、冒険者を先頭に街に向かった。


 街の入口が見えると、全員が安堵した。

 おっちゃんとアロソンは荷物が無事だったので、荷物を荷主にそれぞれ渡す。


 荷物の引渡し場所では、三人の商人が険しい顔でぼやいていた。

「完全にいいようにやられたな。うちは無事だった荷物が半分もない」

「象も一頭を残して、そっくり荷を奪われた。人足が捨てた荷物も馬鹿にならないぞ」

「護衛をもっと増やすしかないな。経費がかさむが奪われるよりはいい」


 三人の商人は全て暗い表情をしていた。

 おっちゃんとアロソンは、きちんと荷物を運べたので、満額の報酬を受け取れた。


 アロソンと別れて冒険者ギルドに戻る。

 冒険者ギルドでは護衛として参加した冒険者と、荷を捨てた雑用役の冒険者が報酬を減らされて愚痴っていた。


 おっちゃんはテレサに尋ねる。

「モルモル村から帰ってきたんやけど、被害ってどれくらいになるんかな」


 テレサが心配した顔をする。

「今はまだわからないけど、結構な額になると思うわ。まだ、帰ってきていない冒険者さんもいるからなんともいえないけど、もう簡単に斡旋(あっせん)できる仕事ではなくなったわ」

「密林でワー・ウルフって、前からおったんか?」


 テレサが浮かない顔をして肩を竦める。

「今回が初めてよ。多分、南東部で進んでいる砂漠化の影響だと思う。砂漠化で土地を追われて北西部に出てきたのよ」


「北東部にも密林はあるやろう? なんで南東からまっすぐ北に行かずに、アルカキストがある北西に進出したんやろう?」


「砂漠化が進む北では密林が異常繁殖を続けているわ。でも、異常繁殖する密林は人や動物が住むには不適格な環境なのよ。危険な植物モンスターの宝庫だといえるわ。アルカキストの東のほうが、まだ住みやすいんだと思う」

「そうか。なら、今後も住みつくんやろうな?」


 テレサが冴えない表情で語る。

「どうかしら? モルモル村を除いて、アルカキストの東の密林は猿人と蟻人の支配地域よ。密林に住もうとしたら、猿人と蟻人が許さないと思うわ」


「人間、猿人、蟻人によって築かれた密林の安定が崩れるか」


 テレサが眉を(ひそ)めて語る。

「アルカキスト南西部の砂漠化の影響はワー・ウルフだけに留まらないわ。アルカキスト南部のバレンキストや、砂漠との境界の街デネキストでも、西から流民が増えているんだって」

「アーベラも大変やな」


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