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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ポルタカンド島編
324/548

第三百二十四夜 おっちゃんと東の帆船(後編)

 港では食糧と水が入った樽を積んだ、五艘の艀が準備されていた。

 おっちゃんを乗せた艀が一番大きな軍艦に近づく。『通訳』の魔法を唱えた。

「ポルタカンドの領主パルダーナ様の遣いで、水と食糧を持ってきました」

「よし。上がって来い」


 甲板に上がると、武装した東大陸の冒険者が待っていた。

 冒険者は警戒していたが、乗り込んできた人間がおっちゃんと『嵐鳥』だけだと、緊張を解いた。

 冒険者が振り返って道を空けた。先には、パルダーナのところに来ていた赤い服を着た軍人と大柄な男がいた。


 大柄の男の年齢は三十代後半。赤い髪をして、立派な髭を生やしていた。大柄な男は、金属と革を組み合わせた軽装鎧を着て、大きな剣を背負っていた。


 大柄な男がおっちゃんをじっと見据えるので、おっちゃんから挨拶をした。

「わいの名は、オウル。おっちゃんの名で親しまれる冒険者です。今日は領主パルダーナ様の遣いで来ました」


 赤い服を着た軍人が、甲板から下を確認する。赤い服を着た軍人が不満そうな顔をする。

「こちらが要求した量より、随分と少ない量だな」

「これは贈り物ですから、タダです。でも、これ以上となると有料です」


 赤い服を来た軍人が表情を曇らせる。

「こちらの要求に従う気はない、と?」

「東の国ではどうかわかりませんが、西の国では、水も食糧も有料ですわ。あとは『海洋宮』のある浜を使うには使用料が発生するんで、その分も計算に入れておいてください」


 赤い服を着た軍人が眉を吊り上げ怒鳴った。

「『海洋宮』は、おまえたちのものではないだろう、業突く張りが」


「ここはガレリア国の領土であるポルタカンドです。なら、ポルタカンドの意見を聞いてください。ポルタカンド領内にあるものには、ポルタカンドの税法が適用されます」


 赤い服を着た軍人がなにかを言う前に、大柄な男が厳しい顔をして軽く手を上げて制する。

「払わない、と拒絶したら、どうする?」

「争いになりますな。争いになれば、お宅さんがたは『海洋宮』を封鎖して独占的に使えるかもしれん。ですが、こっちは、それを黙って見ているほど腰抜けではありまへん」


 おっちゃんは大柄な男を見据えて、こんこんと解く。

「『海洋宮』は季節性のダンジョンです。『海洋宮』を閉鎖しながら、攻略する人手はお宅さんにはない。最悪、時間切れになって、目的は達成できないんとちゃいますか」


 大柄な男が眼光鋭くおっちゃんを見つめる。

 おっちゃんも視線を逸らさないと、大柄な男が厳しい顔で赤い軍服を着た男に指示を出す。

「払ってやれ、ハーマン。攻略に掛ける時間が惜しい。金で時間を買えるなら、買ったほうがいい。そのために用意してきた金だ」

 

 ハーマンは渋い顔をして発言する。

「よろしいのですか、ヴィルヘルム殿下。高く付くかもしれませんよ」

「構わん」とだけ、ヴィルヘルムはムッとした顔でいい、場を去った。


 おっちゃんは水と食糧の値段を告げた。ハーマンが怒った。

「お前、足元を見ているだろう。そんな値段は、馬鹿げているぞ」

「そんな話あらへんよ。これでも安くしているよ。真心価格やで」


「嘘を()いて、あとで島の商人に聞けば、わかるぞ」

「ポルタカンドは離島や。交通の便は悪い。ただでさえ物資の搬入がうまくいっておらんくて、インフレなんや。これくらい貰わんと、割に合わん。別に、ええよ。自分たちで買いたいと啖呵(たんか)を切るなら、島の商店で買うたらええ。邪魔はせんから」


 ハーマンは、おっちゃんを睨みつける。おっちゃんも睨み返す。ハーマンが先に折れた。

「わかった。そこまで言うなら、おっちゃんから物を買おう。すぐに、水と食糧を用意してくれ。ああ、あと、酒もだ。冒険者は酒、酒とうるさいからな」


「水は、どうにかなる。だけど、食糧を一度に大量に搬入する仕事は無理や。生鮮食料品は今の時季は(いた)みやすい。食糧は毎日、届ける。支払い、きちんと毎回払ってな。お互いに信用がない立場やからな」


「わかった。わかった」とハーマンは投げやりに発言した。

「あと、冒険者を大勢に連れてきているようやな。ポルタカンドにも冒険者ギルドがあるから、使うなら、きちんと登録して」


 ハーマンがツンとした顔で拒絶した。

「我々は我々のやりかたでやる。『海洋宮』の攻略については、指図は受けん」

(独自に攻略するつもりなんか。それだけの冒険者を連れて来ているなら、無理に登録は勧められんな。これは、どっちが先に、どこまで攻略できるかの争いになるかもしれん)


 おっちゃんは妥協できる内容と妥協できない話がわかったので、船を降りる。

 争いにならず、『嵐鳥』は不満そうだったが、ことなきを得たので、おっちゃんは安堵した。


 おっちゃんは椰子酒だけは今日の内に届くように手配しておく。

 明日の食糧と水の搬入の手筈を整えてから、領主の館に向かった。


 パルダーナとターシャに報告をする。

「東の連中やけど、食糧と水に金は払うと約束してくれた。どうも、東の奴らは『海洋宮』になにか目当ての物があって『海洋宮』を早期に攻略したいようや」


 パルダーナは報告を聞いて、安堵した顔をする。

「そうですか。戦いには、ならないんですね」

「残念やが、それはまだわからん」

 パルダーナの表情が曇った。


「東の奴等が目当ての物を取れたのなら、ええ。それなら、帰りの水と食糧があれば、素直に帰るやろう。問題は西の冒険者が東の奴らの目当ての品を取った時や」


 パルダーナがおどおどしながら訊く。

「そんな時は冒険者から買い上げて渡せばいいのでは?」


「それは手に入れた冒険者が、うんというかどうか、や。冒険者からの戦利品をこちらが無理やり取り上げれば、西の冒険者の反発は必至や」


 パルダーナが暗い顔で、おずおずと申し出る。

「どうにか、東のかたに目当ての物が行くように、できないんでしょうか?」

「心苦しいようやけど。こればかりは皆目わからん」


 パルダーナが苦しそうな顔をした。



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