第三百十六夜 おっちゃんとダンジョン荒らし(前編)
料理で困ったら、料理人に話を聞くに限る。
レストランが暇になった時間に料理長に話を聞く。
「あんな、食通のロシェ大司教って、おるやろう。その、ロシェはんが食べた経験がない料理って、なんか出せる」
調理長は浮かない顔をする。
「ロシェ大司教は島にいる間に、うちの料理を一通り食べたからね。それに、あっちこっちで美味いものたくさん食べているから、難しいな」
(料理長でも、だめか。さて、後は誰やろう?)
料理長は気軽に教えてくれた。
「もしかしたら、ストームさんなら知っているかもしれないよ。あの人も意外と通だからな。え、こんなものを食べるの? って思える品も食べてた経験があるって、話していたからね」
(それは、食通じゃなくて、悪食なんやないの?)
不安だったが、一応、部屋に行ってみる。
部屋では『嵐鳥』は大の字になって寝ていた。だが、おっちゃんが部屋に入ると目を覚ました。
「『嵐鳥』はん、ご相談なんですけど。この辺で取れる美味いものって、なんか知っとります?」
『嵐鳥』が半分ほど寝ぼけた顔で意見を述べる。
「なに、ご馳走してくれんの?」
「いやね、人間の世界には、食通と呼ばれる、美味いもの仰山食べた人間がおるんですけど。色々とありまして、そんな人間を料理で唸らしたいんですわ」
「なんだ、じゃあ、私は関係ないね」
『嵐鳥』が再び寝ようとしたので、言葉を掛ける。
「待ってくださいよ。もし、教えてくれて手に入るなら、ご馳走しますから」
『嵐鳥』が顔だけをおっちゃんに向けて、不機嫌に尋ねた。
「食べられるなら話は違うけど。その食通って、出身は西大陸、東大陸、南大陸?」
「西やと思います」
『嵐鳥』が上半身を起こして、素っ気なく答えた。
「あるね。海鼠の内臓よ」
海鼠は知っていたが、食べた経験はなかった。
「海鼠って。あのぶよぶよした海鼠でっか? あんなん、喰えんの?」
「西の人間は喰わないけど、東の人間は喰うね。中でも、レッド・スターと呼ばれる、ヒトデに似た海鼠の内臓を三晩、塩に漬けた料理は珍味として高値で取引されているよ」
「そうなんか。あんなグロテスクなもんがねえ。わかりました。探してみます」
おっちゃんは、ターシャの部屋を訪問する。
ターシャは部屋で『島魚』から聞き取り調査をしている最中だった。
「忙しいところ、すんまへん。ちと、海鼠の生態について教えて。ここらへんで食用の海鼠って獲れる? なんでも、レッド・スターがいると嬉しいんやけど」
ターシャが「気味が悪い」とばかりに嫌な顔をする。
「え、海鼠? 海鼠なんて、食べられるの?」
「おっちゃんも、怪しいと思う。せやけど、『嵐鳥』さんが仰るには、内臓を三晩、塩に漬けると、えらい美味くなるらしい」
おっちゃんの言葉を聞いて、ターシャは思いついた顔をする。
「あ、レッド・スター、いるかもしれないわ。でも、場所は『海洋宮』の中よ」
「ダンジョン中におるんか。これまた、きつい場所におるな」
ターシャが浮かない顔で告げる。
「いる場所は一階だけど、レッド・スターがいる場所は、中ボスの潮騒の精霊がいる部屋よ」
「しかも、中ボスの部屋におるんか、これは、ちと捕獲が難しいの。でも、考え方によってはええのかもしれん。簡単には採れんのなら、食通かて食うた経験ないやろう」
ダンジョンには冒険者として行きたくなかった。おっちゃんは元ダンジョン・モンスターである。
もし知り合いと遭えば、気まずいし、お互いにやり辛い。かといって、ダンジョン・モンスターとして働きに行くのも難しい。働きに出れば、どこに配属されるかわからないし、レッド・スターを獲ったからといって、すぐには辞められない。
(ほんまは新規オープンのダンジョンではやりとうないけどな。ダンジョン荒らしをやるしかないんかな)
ダンジョン荒らしとは、武者修行者モンスターを指す業界用語である。ダンジョン荒らしは強いモンスターと戦うためにだけやってくる。慣例的に武者修行者は宝に手を出さず、試合以外では殺されはしない。
ダンジョン側からすれば迷惑だが殺せない。それでいて、好き放題に暴れ回るので、場を荒らす以外の働きをしないから嫌がられる。
中には武者修行歓迎のダンジョンもあり、ダンジョン内に闘技場があったりもする。されど、一般的なダンジョンでは煙たがられる。
おっちゃんは部屋に戻って『嵐鳥』に話を持って行く。
「『嵐鳥』はん、レッド・スターがこの近くにいるようなんやけど。獲りに行くのを手伝ってもらって、ええ?」
『嵐鳥』が機嫌の良い顔で答える。
「レッド・スターがいるの? あれの塩漬けの内臓を肴に酒を飲むと、酒が進むんだ。私も料理を食べられるなら、手伝ってもいいよ」
「ほんじゃ、準備があるんで、夜にでも行きましょうか」
おっちゃんは白い服と真っ白な布を買った。白い布で幟、襷、褌、鉢巻を作った。幟には黒い染料で『天下無双 挑戦者歓迎』と書いておいた。




