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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ポルタカンド島編
311/548

第三百十一夜 おっちゃんと巨大な物体

『嵐鳥』は七日間でだいぶ回復した。されど、『嵐鳥』はレストランの料理を気に入ったのか、島から出ていかなかった。


 ひとたび怒って鳥の姿になれば大嵐を呼ぶので、無理に出ていけとも命令できない。

(なんか、島に大きな爆弾を抱えさせるような事態になってしもうたな)


 かくして、『嵐鳥』は、おっちゃんの金で宿に泊まり、おっちゃんの金で飲み食いをする。

奇抜な格好で目に付く『嵐鳥』は街ではいつしか、おっちゃんの愛人のストームさんとして噂される状態になった。

『嵐鳥』には小遣い程度の銀貨を渡して、おっちゃんは放っておいた。


 冒険者の店で椰子酒を飲んでいると、アルティが確認するかのように話し掛けてくる。

「おっちゃんって、ストームさんみたいな女の人が好みなんですか」


(完全な誤解なんやけどな。真実を話すわけにいかんからな)

「ちゃうよ。ストームはんは兄貴の娘。おっちゃんからしたら姪や」

「ふーん」とアルティは口にするが、顔にはありありと疑いの色が出ていた。


 冒険者ギルドの扉が開き、ターシャが機嫌よく入ってきて、おっちゃんの横の席に着く。

「論文を、サバルカンドのギルドに送ったわ。『嵐鳥』に関する論文が認められれば、弟子の面目(めんもく)躍如(やくじょ)よ」

「そうでっか。認められるとええですな。お師匠さんも、どこかで見ているかもしれへん」


 ターシャはにこにこしながら話した。

「でも、北方賢者の弟子として立ち止まってはいられないわ。次は『島魚』の生態調査をするわ」

「もう次の論文に懸かるんでっか? 少し休んでもええんとちゃいますか?」


 ターシャがにこやかな顔で命じる。

「情熱が消えないうちに行動するのが成功の秘訣よ。論文は書けるときに書いておかないと。というわけで、明日の昼に浜辺に集合ね。海中に行くから泳ぎ易い格好で来て」


 翌日、おっちゃんは海水パンツを穿いてベルトポーチを着け、パーカーを羽織って行った。

 ターシャもビキニ型の水着を着て、パレオを腰に巻いて、上からパーカーを羽織っていた。


 二人で島の人が来ない場所に移動する。ターシャは海面に近づくとなにやら呪文を唱えた。

 海中から上部に突起がある、全長五mの大きな樽のような物体が浮上した。


「なんですの? この、けったいな物体は?」

「海中を探索するための潜水艇よ。ここから入るのよ」


 潜水艇の突起からターシャが内部に入る。

 おっちゃんもターシャに続いて中に入った。中には前後で座席が二つあり、前面にはいくつかの計器が付いていた。


 内部を見て思い当たる品があった。

(これは、あれや。ダンジョン通販のカタログにあった奴や。ダンジョン製のむっちゃ高価な乗り物やん。こんなの、一介の魔術師がそう簡単に所有できる物やないで、ターシャはん何者なんや?)


 おっちゃんの心中をよそに、ターシャが元気よく発言する。

「さ、出発するわよ。いざ、行かん。海底の神秘へ」


 ターシャがペダルを踏むと、潜水艇は前に進み出し、ゆっくりと海中に潜行を開始した。

 数mも潜行すると艇体の上半分が透明になった。また艇体には六箇所の魔法の灯が点いているので、海中を見渡せた。


「半端なく金が掛かっとる」が、おっちゃんの感想だった。

おっちゃんは初めて乗る潜水艇にいい気がしなかった。


「ターシャはん。こんな乗り物を使わんでも、ターシャさんなら人魚になれますやろう。おっちゃんも魔法で魚人に変身しますから、泳いでいかへん?」


 ターシャはおっちゃんの言葉を軽い調子で否定する。

「泳いで行くより、潜水艇のほうがずっと速いし楽よ」


 潜水艇が海中を進むこと二時間。ターシャが嬉しそうな顔をする。

「探知機に反応があったわ。かなり大きな物体が、海中を移動中よ。『島魚』よ。これより接近するわ」

「いきなり近づいて、危なないの?」


 ターシャが気楽に答える。

「大丈夫よ。『島魚』からすれば、全長五mの物体なんて、少し大きな魚みたいなものよ」


 ターシャはハンドルとペダルを操作して進行方向を変える。

 近づくと、相手は山ほどの大きさがある岩のような塊だった。

「これが、島魚かー。随分とでかいのお。まるで海中を移動する山のようや」


 艇内に甲高い警告音が鳴り響いた。艇体が突如として衝撃を受けて大きく揺れた。魔法の灯が消えて、艇内に赤い光りが灯る。

「なんや、どうしたんや」


 ターシャが焦った声を出す。

「魔法による攻撃よ。潜水艇が攻撃を受けたわ。あれは『島魚』ではないわ。あれは、巨大な建造物よ」


(『海洋宮』がやって来たんか。ダンジョンならまずいで。オープンしとらんなら、向こうはなんでもありや)


 ターシャが潜水艇のペダルを目一杯に踏み込んでハンドルを操作する。

 再び警告音の後に潜水艇が大きく揺れた。壁に亀裂ができて海水が潜水艇内に入ってくる。

 ヒビの入った透明の壁には、こちらに向かってくる半魚人の集団が見えた。


「半魚人が追ってきとる。このままやと、追いつかれる」

 潜水艇は半魚人に背を向けて逃げ出すが、半魚人は追って来ていた。


 浸水しながらも前に進む潜水艇を半魚人が狙ってくる。潜水艇内に警告音が鳴り響く。

「海流に乗って引き離すわ」


 ターシャの発言と共に艇体が加速する。

 振り切れるかと思ったところで、ターシャの緊迫した声が響いた。

「だめ! 艇体が破壊される」


 すさまじい衝撃を受けて艇体がバラバラになった。おっちゃんはターシャの傍に行こうとした。

速い海流に乗っていたために、身動きがままならない。ターシャと離される。

 おっちゃんは魚人に変身して全速でターシャを追おうとした。されど、数秒で引き離され、ターシャを見失った。


「これは、まずい事態になったで」

 おっちゃんは『物品感知』の魔法を唱えて、対象に水着を指定する。けれども、ターシャの物と(おぼ)しき反応がなかった。


「ターシャはんが着ている水着は特殊な魔法が掛かった水着か。これ、見つけられんぞ」


 それでも、おっちゃんは探せる範囲を目視で探した。

 暗くなるまで捜索したが、ついにターシャを見つけられなかった。念のために半魚人の村に顔を出す。人を捕えておく檻の近くまで行く。

 檻の近くには見張りはおらず、檻の中も空だった。


 ターシャは魔術師だ。もしかしたら、潜水艇が破損した際に魔法を使って、水中で呼吸できる魔法を使っていたかもしれない。

 こればかりはターシャの実力がものを言う。だが、ターシャの実力は不明なので淡い期待でしかなかった。


 おっちゃんは暗い気持ちで、朝焼けのポルタカンドに戻った。


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