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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ポルタカンド島編
302/548

第三百二夜 おっちゃんと『ポルタ貝』

 翌日、混雑している時間帯を避けて冒険者ギルドに顔を出した。

「アルティはん。依頼のほうなんやけど、鮫は退治した。せやけど、本命は熟練漁師が仕留めたほうやろう。報酬って、どうなるん?」


 アルティが、にこやかな顔で告げる。

「依頼を出していた観光組合でも、どうするか話があったようだけど、青鮫も危険だから、という理由で報酬が出たわよ。金貨一枚だけどね」


 おっちゃんはアルティから、小さな袋を渡された。中には金貨一枚と銀貨十二枚が入っていた。

「あれ、金貨一枚の報酬を半分やから、銀貨五十枚やないの?」


 アルティが機嫌よく応える。

「多い分は、鮫を売った代金の半分よ。ロロが置いていったわ。鮫の身は安いけど、形のよい鰭は良い値段が付くのよ。この島のレストランでは、金持ち用の高級食材として使っているわ」


(美食家の考える内容は、わからんわ)

「そうかー、鮫の鰭なんか、美味しいのかな」


「食べた経験がないから、わからないわ。もし、興味があるなら、レストランに行ってみるといいわよ。ここのレストランは高級レストランだから、いくら取られるかわからないけど」


 レストランはおっちゃんの取っている宿に併設されている。

 鮫の鰭の料理がどれだけするか、気になった。

(話の種に食べてみるか)


 レストランに行くと「『生ポルタ』はありません」の貼り紙がしてあった。

「なんや、『生ポルタ』って? 酒か?」


 注文を聞きに来た年配のウェイターに尋ねる。


 年配のウェイターは申し訳なそうな顔で告げる。

「『生ポルタ』とは、生の『ポルタ貝』でして。レモンを加えた塩タレを掛けて生で食べると美味しい貝なのです。夏でも生で食べられる貝なのですが、どうも貝に異変が起きておりまして、食べると(あた)るのです」


「そうか、そんな名産品があったんか。でも、生の貝は中ると怖いから、要らんわ。この鮫のコースを頼むわ」


 コース料理は味と量ともに充分な量があった。おっちゃんは料理を堪能すると、眠りに就く。

翌日と翌々日は浜で泳いで時間を潰す。だが、二日も泳ぐと飽きた。


 冒険者の格好で冒険者ギルドに行く。

 椰子酒(やししゅ)を飲みながら、吟遊詩人(ぎんゆうしじん)の歌など聞いていた。


 ロロがやってきて、アルティと話す。アルティが表情を曇らせて首を横に振る。

 暗い顔でロロが席に着く。気になったので声を掛ける。

「どうした、ロロはん? 何か、悩みごとか?」


 ロロが困った顔で告げる。

「『ポルタ貝』だよ。『ポルタ貝』。今年の夏は『ポルタ貝』が毒化して、生で食べられないんだ。だけど、大陸からやってきた食通の大司教が、是非とも『生ポルタ』を食べたいと言い出して、レストランが困っているんだ」


「そんな危ないもんを食べたいなんて、食通は変わっとるの」


 アルティも表情を曇らせて同意する。

「そうなのよ。火を通せば食べられるんだけど、絶対に生がいいって、聞かないんだって」

「そんなの放っておいて、違うもの出せばええやろう」


 アルティが弱った顔で発言する。

「ところが、その食通、下手に知識があるものだから、『生ポルタ』がないなら『岩ポルタ』を出せって言い始めたのよ。『岩ポルタ』は『ポルタ貝』の一種で、ポルタ貝より美味いと評される、夏が旬の貝なのよ」


「そんな、貝もあるんか。なら、出してやったらええないの」


 アルティが困った顔で教えてくれた。

「ところが、『岩ポルタ』はバファイ島で採れるんだけど。バファイ島は今年に入って付近に半魚人の活動が活発で採りに行けないのよ。採取専門の冒険者さんも、今はまずいと、避けているのよ」

「なら、諦めるしかないやろう」


 アルティが頭を抱える。

「それが、その食通の大司教はムキになって、大陸から冒険者を呼んで力ずくでも『岩ポルタ』を採るって言い出したのよ」


 ロロも厳しい顔で告げる。

「半魚人とは敵対してはいないけど、下手に刺激したら絶対に仕返しに魚場に出てくる。そうなったら、漁師が迷惑を被るのが目に見えている」


「なんや、大人気ない食通のせいで、島民は大迷惑か」


 アルティが苦しそうな表情をする。

「そうなのよ。頭が痛いわー」

「よっしゃ、なら、おっちゃんが採って来たる、とは安請け合いはできんな。問題は半魚人だけなん」


 アルティが参ったとばかりに告げる。

「バファイ島の付近では、海龍を見た人もいるのよ。海龍がいるから、船で近づけないのよ」

「そうか、船が出せんなら、難しいの。ちなみに場所だけは教えてくれるか?」


 おっちゃんは酒場の帰りに魚籠を買って帰る。

 夜になると、ナイフを片手に海水パンツ一丁になり、『飛行』『透明』の魔法を唱えて、宿の窓から空を飛んでバファイ島に向かった。


 バファイ島は、ポルタカンド島から西に十五㎞ほど行ったところにある小さな島だった。

 島の岸壁には貝がびっしりと付いていた。誰もいない状況を確認する。


 海水パンツを脱ぐと魚籠にしまう。半分ほど海水に浸かりながら、岩から貝を外していく。

「そろそろ満杯になったかの」


 急に光が、おっちゃんを照らす。おっちゃんは水面に体を隠す。

 頭上で「誰だ? 出てこい」の声がする。


 おっちゃんは魚に手足が生えた魚人の姿をイメージして、魚人になってから顔を出す。魚人の姿で頭を出すと、人間の体に鱗とヒレがついた半魚人の二人が銛を手に近寄ってきた。


 半魚人たちは、魚人のおっちゃんを見ると、安堵した顔をして銛を下ろした。

「人間かと思ったら、魚人か。ここで何をしているんだ?」


「へい、岩に張り付いている貝を採っていました。人間たちが『岩ポルタ』と呼ぶ貝ですわ。なんでも、たいそう美味いと聞いたもんですから」


 半魚人たちは首を傾げる。

「それ、そんなに美味いかな?」


「え、美味ないの? 人間たちが美味いと噂していたから食べてみようと思って、採りに来たんやけど」


「まあ、そこそこ喰えるといえば、喰えるけど、一番美味い貝は『龍ポルタ』だな」

「なに、それ?」


 半魚人がいたって普通の顔で教えてくれた。

「海龍の体に付着している貝だよ」

「そんなの採りに行ったら、無茶苦茶、危険やん」


 半魚人が気楽に応える。

「そんなに危険ではないよ。海龍にとったら、体に付着した貝なんてゴミみたいなものだから、機嫌がよければ、採らせてくれるよ」


「へー、いいこと聞いたで。ほな、そっちにしよう」


 おっちゃんは水に潜ったが、半魚人は追いかけてこなかった。

 海中を移動していると、海の中に横たわる巨大な物体を目にした。


 長い龍の体に鰭を持つ海龍だった。

 おっちゃんは、そろそろと近づいて話し掛ける。

「すんまへん。わいは、おっちゃんいうものです。痛くしませんから体に着いている貝を採らせてもらって、よろしいでっしゃろか?」


 海龍は、おっちゃんを一瞥しただけで、何も言わない。

「勝手にしろ」の合図だと思った。


『岩ポルタ』を捨てて、海龍の体に付着している『龍ポルタ』を外し、魚籠に詰めた。

 魚籠に満杯になったところで、海上に浮上して人間に戻って『瞬間移動』で宿屋に戻る。おっちゃんはタライに海水を入れて『龍ポルタ貝』を保存して眠りに就いた。


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