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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ポルタカンド島編
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第三百夜 おっちゃんと観光地の島

 ポルタカンドは、ジャングルを切り開いて造られた島だった。島の半分はバナナ園になっていた。人口は千人。主な産業は漁業とバナナの輸出からなっていた。


 ポルタカンドの港に下り立つ。港は漁船が多く停泊しているが、大きな帆船でも三隻は停泊可能な造りになっていた。


 ポルタカンドにはマサルカンドから来る船が定期的に出ており、生活必需品を積んでやって来ていた。

 船は帰りに魚の加工品とバナナを積んで戻っていく。ポルタカンドの気候は暖かく、晩春の頃でも充分に暑い。


 おっちゃんは当座の生活費を渡され船から下ろされた。船から下りると迎えの人間が来ていた。

 迎えの人間は日焼けして頭が禿げ上がった老人だった。

「ようこそ、ポルタカンドへ。領主のパルダーナ様がお待ちです」


 おっちゃんは牛車に乗せられ、のんびりとした速度で街の中央に向かう。

 街は木造の平屋建てが多く家屋も密集していない。通りでは子供が遊び、魚の焼ける匂いが漂っていた。


 おっちゃんは迎えの人間に尋ねる。

「ポルタカンド島って、冒険者ギルドってあるの?」


 老人は愛想の良い顔で、おっちゃんの質問に答える。

「一応、ありますよ。もっとも、酒場の主人のマグウさんが趣味でギルド・マスターをやっている、小さなものですが」


「冒険者ギルドがあるんか。宿とかはあるの?」


 老人がニコニコ顔で訊いてくる。

「浜辺に観光客用のコテージ、宿屋などがあります。オウル様さえよろしければ、当館に宿泊も可能ですが、どうします?」

「気を使わせると悪いから宿屋を使うわ。金ならある。だから、ええところに泊まったろう」


 老人が気持ちのよい笑顔で応じる。

「わかりました。それでは、後ほどこちらで宿屋を手配しておきます」

「ここいらへんって、冒険者の仕事ってあるの?」


 老人が表情も穏やかに告げる。

「ありますよ。家の修理、バナナの採取、漁師の手伝いなんかですかね。半魚人と呼ばれるモンスターはおりますが、彼らの住処の近くで漁をしない限り被害はありません」


(半魚人が異種族やなくてモンスター扱いか。ポルタカンドは離島やから、まだ教皇の勅旨が浸透しておらんようやね)

「そうか。平和な島なんやね」


 老人は笑って相槌を打つ。

「はい、いたって平和そのものです」

(平和で冒険者の仕事自体がないなら、完全にバカンス・モードでええね)


 島の中央にある木造の二階建て大きな屋敷が見えてきた。屋敷は部屋数が五十はありそうだった。屋敷の庭にはバナナの木が多数、植わっていた。

「屋敷の庭にもバナナの木があるんやね」


 老人が自慢げに語る。

「バナナはこの島のシンボルですからね。それに、この島のバナナ園の半分は当家の所有物なんですよ」


「島に広がるバナナ園の半分いうたらかなりの量やで。それまた凄いな」

「領主様は元々、バナナ貿易で財を築いた豪商の末裔。島一番のお金持ちですよ」


 牛車が屋敷に到着した。老人に連れられて、屋敷の居間に通される。

 居間には黒髪でふくよかな四十代の女性がいた。女性はゆったりした紫の色のワンピースを着ていた。


 老人が女性に声を掛ける。

「パルダーナ様、オウル様をお連れしました」


 パルダーナは愛想よく、おっちゃんを迎えた。

「ようこそ、ポルタカンド島へ。当主のパルダーナです」


「わいは、オウルいいます。おっちゃんの愛称で親しまれる冒険者です。しばらく島に滞在するのでよろしゅうお願いします」


 パルダーナが機嫌よく語る。

「ポルタカンド島はこれから夏を迎えます。ポルタカンド島の夏は暑いですが、過ごし易い夏です。是非ともポルタカンド島で楽しい夏を過ごしていってください」


 パルダーナは挨拶を終えると、昼食におっちゃんを招待した。

 昼食は豚肉料理とバナナを中心とする食事だった。豚肉料理の味付けは濃い目だったので、おっちゃんの口にとても合った。


 昼食会の後、使用人に連れられて街で一番大きい宿屋に案内された。宿屋にはレストランが併設されていた。

 一番広い四人用部屋を贅沢に借りて、宿代を前払いする。国王から貰った路銀はそれでも金貨にして二十枚ほど余っていた。仕事はしないつもりだったが、いちおう冒険者ギルドに顔を出す。


 冒険者ギルドは小さなものだった。専用の受付カウンターもなければ、専任の受付嬢もいない。依頼掲示板も一応あるにはあるが、三件しか依頼が貼っていなかった。


 酒場は四十席ほどあるが、冒険者らしい格好をしている人間はおっちゃんだけ。後は一般の人が十人ほどいて、エール、甘酒、椰子酒を飲んでいた。


 おっちゃんが席に着くと、ウェイトレスが注文を取りに来る。

 ウェイトレスは、十七くらいの小柄な小麦色の肌をした女性だった。髪は短く、ハーフ・パンツに臍の出るような短いシャツを着ていた。


「わいは、おっちゃんいう冒険者なんやけど、ここって、冒険者ギルドがやっている酒場なん?」


 女性は愛想よく応じる。

「私の名はアルティ。酒場のウェイトレス兼ギルドの受付嬢よ。どちらかというと酒場が冒険者ギルドをやっている、っていったほうが、実情は合っているかしら。冒険者への仕事なんて、日に十件も入らないから」


「おっちゃんは冒険者やけど、今回は島にバカンスで来たようなもんや。まあ、暇になったら採取依頼でも受けてみようかとは思うとる」


 アルティが笑顔で話す。

「採取依頼はあまりないわ。たいていは漁師さんが副業でやっちゃうから。そういうわけだから、遊びに来たんなら、思いっきり遊んでいくといいわ。そんで、お金を島に落としてってよ」


「そうか。なら、楽しませてもらうわ。ほな、椰子酒と、なにか軽いつまみを貰おうか」

 あまり待たされず、椰子酒とアンチョビと塩漬けオリーブが出てくる。


 アルティが暇そうだったので、話し掛ける。

「この島って、景気はどうなん?」


 アルティが気軽に教えてくれる。

「貧しくもなく、金持ちでもなくよ。これから夏の季節だから、大陸から観光客も来るわ。その時が稼ぎどきよ。普段は暇な店だけど、その時ばかりは従業員を増やして対応するの」


「そうか、夏本番が稼ぎ時なんやね。半魚人が出るって聞いたけど、被害はあるん?」


 アルティが冴えない顔で話す。

「魚を船で追っている漁師が半魚人の縄張りに入る事態が時々あるわ。けど、威嚇された時にすぐに出て行けば、それ以上の揉め事は起きないわよ」

「それほど好戦的な種族やないんやな。なら、問題ないの」


「でも、たまに観光客が溺れたり、島民が捕まったりする事態もあるわ。そんな時は、冒険者ギルドに救出依頼が来たりするわね」


「戦いになるんか?」


 アルティが表情をいくぶんか曇らせて答える。

「戦いになるかは、その時次第ね。半魚人は言葉がわかるから、身代金として、食糧や金貨を渡せば二回に一回は解放されるわ。でも、交渉に行った冒険者が殺される結末もあるのよ」


「交渉成功率が五割か。それは低いな」


 アルティが身震いする。

「半魚人との交渉は冒険者ギルドに持ち込まれる仕事の内では最も厄介な仕事で、最もやりたくない仕事の一つよ」


「そうか。半魚人は気を付けなあかんな」

 アルティとは気が合いそうなので、適当に世間話をする。

 椰子酒でほろ酔い気分になったおっちゃんは、そのまま宿屋に戻って、その日は休んだ。


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