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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ヤングルマ島【サレンキスト国】
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第二百九十八夜 おっちゃんと測量

 赤髭が神の座に戻り、島には平穏が戻った。赤髭はおっちゃんと別れる時に告げる。

「島は以前のように閉鎖はしない。でも、風や潮の流れを調節して、一年のうち、春から夏にかけての間しか、船が来られないようにする。だから、そのつもりでいてくれ」


 赤髭としては島を閉鎖してもよかったのだろう。だが、探険を終えた島に行けないでは、おっちゃんの立場がないと思っての措置だと感じた。

「そうか、わかった。今から春先まで時間はあるから、それまでに測量を終えて島から出るわ」


 赤髭が軽い調子で発言した。

「入航は制限するが、出航は自由だ。出たい時に島を出ればいい。もし、またなにかの折に島に遊びに来たくなったら春に来てくれ。その時は歓迎する」


「そうか。なら、達者でな」

 おっちゃんは赤髭に教えてもらった秘密の通路を通る。


 遺跡の裏口からマレントルクに出て、サリーマとヤスミナを連れて戻った。おっちゃんはヤスミナとサリーマに別れを告げると、久々にキャンプ地に戻った。

 

 おっちゃんはセバルを呼んで伝える。

「赤髭はんやけどな、ちいと理由があって、島に定住する事情になった。二番船の副船長を船長に昇格させる。あとは、測量が終わるまでは船は出さんといて」

「わかった」とセバルは神妙な面持ちで報告を聞くと、深く聞かずに船員に指示を出す。


 ホイソベルクに移動して測量班と合流する。

「測量の進み具合はどうや?」


 グリエルモが気楽な調子で答える。

「ホイソベルクの測量は池や湿地が多くて苦労している。だから、まだ掛かるかな」


「そうか。なら、悪いが神が住む山とサレンキストの『幻影の森』の測量を急いで終わらせてくれるか」

「いいけど、どうしたんだ急に」


「今なら、魔人の襲撃を受けずに測量ができる。そこさえ終われば、あとはゆっくり測量できる」

「全体的な日程は延びるが、許可の関係なら、やむなしだ、すぐに移動して測量をするよ」


 おっちゃんはそのままサレンキストに入って、シャイロックに会いに行く。

 訪ねて行くと、シャイロックは会ってくれた。


 シャイロックはさばさばした表情でおっちゃんを迎えた。

「よく訪ねてきてくれた。島は崩壊の危機を脱したんだろう?」

「せやな。神が戻ったから、しばらくは安泰や」


 シャイロックが清々しい顔で応じる。

「サレンキストがやらねばと肩肘張って頑張っていたが、もうそんな必要はなくなったわけか」

「なんや、心境が楽になったみたいやね」


 シャイロックが真剣な顔で語る。

「最初は気持ちの整理がつかなかった。しかし、立ち止まってはいられない。サレンキストは地震の影響を一番大きく受けた国だ。被害の爪跡はまだ残っている」


「他国との関係はどうするつもりや」


 シャイロックが穏やかな顔で伝える。

「サレンキスト王の亡霊がいなくなり、議会の空気も変わった。すぐには無理でも、これからはサレンキストの王として融和路線を歩んで行くよ」


「そうか。平和が一番やな」

「書状をここへ」とシャイロックが侍従に指示を出す。

 侍従が持ってきた書状をシャイロックが受け取り、おっちゃんに差し出す。


 シャイロックが毅然とした顔で、申し添える。

「我がサレンキスト議会から、ガレリア国王に当てた親書だ。受け取ってくれ。本当は土産を充分につけたかったのだが、なにぶん今は国内が混乱している。落ち着いたら持って行く」


「親書だけあれば、おっちゃんは充分や。ガレリア国王とて、大きな災害に遭った国にお土産を出せとは頼まんやろう。これからは貿易相手として互いに発展できるといいな」


 シャイロックが力強く発言する。

「そうだな。失った時間は取り戻せない。新たな気持ちで再出発する気概(きがい)が大事だ」


 おっちゃんはサレンキストの街を出る。すると、ギーザが待っていた。

 ギーザが穏やかな顔で告げる。

「ユーリアの願いを叶えてくれて、ありがとう」

「ええよ。そんで、ギーザは、どうする気や?」


 ギーザが微笑を湛えて答える。

「私は赤髭の許に行くわ。私が赤髭と共に時間を過ごしても、ユーリアのためには全然ならないかもしれない。でも、ユーリアの孤独を知る私だからこそ、赤髭の傍にいたい」


「そうか。なら、赤髭はんを支えてやってくれ」


 ギーザは微笑んだ。

「ええ、そうするわ。ありがとう、心優しき選ばれし者」


 おっちゃんはギーザと別れると、もう一度、マレントルクから順番にヤングルマ島を廻った。

 のんびりと観光をすると、ヤングルマ島の素晴らしい発見をいくつもした。


 年が変わり、冬が終わる頃に。おっちゃんたち調査団は島の測量を終えて地図を完成させた。

おおよそ、一年に亘るヤングルマ島の冒険は終わった。

 完成した地図は三カ国の王と賢人ゲタにも贈られた。


 時間が少し進み春になる頃、おっちゃんたち調査団は船に乗ってヤングルマ島を後にする。

島は揺らぐことなく存続し、今も『産岩』、『始祖の木』、『幻影の池』のような奇跡を生み出し続ける。


 巨人に託されたユーリアの夢が終わるのは、まだずっと先になるだろう。

【ヤングルマ島・サレンキスト国編了】

©2017 Gin Kanekure

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