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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ヤングルマ島【サレンキスト国】
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第二百九十三夜 おっちゃんとヤングルマ島の神(後編)

 サレンキストの街に戻って風呂に入り、身だしなみを整える。

 シャイロックに会いに館に行くと、小さな応接室に案内された。数分待たされた後にシャイロックが現れた。

「魔人はんとの交渉は、うまくいったで」


 シャイロックは驚きを隠さなかった。

「なに本当か、あの魔人たちが折れたのか」


「残りの捕虜を解放したら、三十日間は襲撃をせんと約束してくれたで。三十日で道を復旧させて、一気に巨人の夢まで行ければ島は救われる。そんで、いつ捕虜を釈放するん?」


 シャイロックは苛立った顔をして発言した。

「明日にでもだ。議会は地震から七日以上が経過した今、これ以上の生存者は望めないと判断した。すぐにも、大門への道の復旧を望んでいる」


(疲労、住民に対する後ろめたさ、議会からの突き上げ。シャイロックはんも、追い詰められているな)


「残酷な決定のようやけど、そこらへんは政治判断やから、おっちゃんは口を出さん。それに、島に何かあった時の脱出用の船も、半分以上が壊れてもうたしな」


 シャイロックが釈然としない顔で話す。

「議会は『これ以上の街の復興に力を入れるより、巨人の夢を手に入れるほうに力を注ぐべきだ』と判断した。島の崩壊を止めないと、また、大きな災害が起きるとの考えだ」


「わかった。ほな、明日、魔人さんたちを村に送る。魔人さんを渡して、わいが戻ってきたら、工事の再開する――で、いいか?」

「わかった。そうしてくれ」


 翌日、おっちゃんを先頭にサレンキストの兵隊が五人の捕虜を伴って進む。

 なにごともなく魔人たちの村に着くと、マルポロが出迎えてくれた。


 マルポロの前で五人の捕虜を解放する。

「約束通りに捕虜を解放したで。三十日間は襲わんといてや」

「約束は守る」


 マルポロが真面目な顔で承諾する。マルポロと別れて街に戻る。

 街の入口にはシャイロックを先頭に、工兵の集団がすでに待っていた。

「マルポロと話は着いたで。魔人はんは三十日間は邪魔しないと誓ってくれたで」


「ご苦労だった」と、おっちゃんに声を掛けて、シャイロックは後方の集団に「出発する」と号令を掛ける。

『幻影兵』と工兵の一団が幻影の森に進んで行った。


 おっちゃんは一団の行進を見守る。

 一団の中で、三人の使用人を連れ馬に乗って進むベルンハルト議員の姿を見つけた。

「あれ? ベルンハルトはんも仕事しはるんですか?」


 ベルンハルトは馬を止めて、気取った態度で返事をする。

「私は議会から派遣された監視役ですよ。復旧工事が遅れないようにね。それでは、仕事があるので失礼するよ」


 ベルンハルトは機嫌もよく馬を進めていく。

 おっちゃんは一度、宿屋に戻った。するとお客が待っていた。お客はギーザだった。おっちゃんは人がいなかったので、食堂でギーザと話す。


「なんや、珍しいお客さんやな。なにか仕事の依頼か?」


 ギーザがテーブルの上に二個の木の実を置き、柔らかな表情で申し出る。

「中には『願いの雫』が入っている。必要になると思うからあげるわ」

「くれるなら貰うけど、タダやないんやろう? 代わりに何が欲しいんや?」


 ギーザが憂いの残る顔で依頼した。

「サレンキスト王を始末して欲しい」


「穏やかな頼みやないな。赤髭はんも、そうやけど、なして、そこまでサレンキスト王を嫌うんや?」


 ギーザは陰のある表情で話す。

「サレンキスト王の望みは巨人の夢を手に入れること。島を手に入れる野望だけが、サレンキスト王を支えている」

「皆の島やのに困った王様やな」


「サレンキスト王には手に入れた後のプランがないのよ。手に入れたら、誰にも渡すまいとするでしょうね。ヤングルマ島は単に存在するだけの島になる」


「皆の島を独り占め、島は巨人の夢を守るだけの施設にねえ。ゲタはんに近い発想やね。ただ、ゲタはんは無理には進めんかった。だが、サレンキスト王は国民を騙してでも巨人の夢を奪おうとするんやな」


 ギーザが涼しい顔をして席を立とうとする。

「話はそれだけよ。賢明な判断を下す未来を願うわ」


「待ってや。赤髭はんに聞いたで。赤髭はんはユーリアはんが生きている間に戻れんかった結果を悔いている。赤髭はんの願いはユーリアはんの亡骸(なきがら)を葬ってやる弔いや。ギーザはんの願いって、なんや?」


 ギーザが暗い顔で告げる。

「ユーリアの最期の望みは二つ」

「どんな望みなん」


 ギーザが悲しみを帯びた口調で、しんみりと語る。

「一つ。どんな形であれ、赤髭が再びユーリアと会うこと。二つ。島が今と変わらず存続すること。でも、私には資格を継承する力はなかった」


「そうか。あと、教えて欲しい。残された時間はどれくらいあるんや?」


 ギーザは素っ気ない態度で教える。

「時間はまだあるわ。ユーリアが亡くなって魂が去る前に、巨人の夢に入った人物が巨人の夢を支えているわ」


 驚きの事実だった。

「なんやて? すでに誰かがユーリアの後を継いでいるんか! だったら、その人が継承者になるんやないの?」


 ギーザが悲しげな顔で漏らす。

「その人の肉体は既に死んでいるのよ」


「巨人の夢の中では肉体が死んでも。意識はしばらく残る。そんで、その人が今、精神だけになって、島を支えているんやな」


 ギーザが冷静な顔で意見を述べる。

「ええ、そうよ。だから、時間はまだある。でも、意識体はいずれ消える。だから、継承者にはなれないのよ。ヤングルマ島は、どのみち継承者を必要とする」


 ギーザは言いたい内容を伝えると立ち上がった。宿屋を後にする。

(ユーリアが死んでから島の崩壊が遅い理由がわかった。せやけど、継いだ人間が意識体やとしたら、それほど長うは()たない。決断の時は近いか)


 おっちゃんは迷っていた。

(継承者は別として、ヤングルマ島で生まれた人間に巨人の夢は継げん。かといって、わいは島の継承者はできん。継承者のサリーマやヤスミナもやりたないなら、やはりサレンキスト人のシャイロックはんに巨人の夢を託すしかないんやろうか?)


 シャイロックがマレントルクやアーヤをどう扱うかが心配だった。だが、他に名案は浮かばなかった。

「やっかいな問題に首を突っ込んでしまったのう」


 おっちゃんは宿屋で精算を済ませ、グリエルモに測量班と合流するように手紙を残した。おっちゃんは宿屋を出てシャイロックの後を追った。


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