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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ヤングルマ島【サレンキスト国】
291/548

第二百九十一夜 おっちゃんとサレンキストの『幻影の森』(後編)

 魔人に囲まれて魔人の村に到着した。魔人の村はアオハブの木によってできた木の家だった。

 おっちゃんは、村外れにある空き家に連れていかれた。


 マルポロが厳しい顔をして告げる。

「皆で今後の対応を話すから、ここで待っていろ」

「わかりました。ええ返事を期待しとります」


 何もない家で待たされる。入口には見張りなのか、金棒を持った若い魔人二人が控える。

 おっちゃんはしばらく待つ。暇なので、見張りの若い魔人に話し掛ける。

「暇やね。何か話でもしようか。この村ってどれくらい魔人はんがおるん?」


 どちらからも返事はなかった。

「ユーリアはんは今の島の状況を、どないに思っているやろうね?」


 片方の魔人が、ぶっきら棒に返す。

「サレンキスト人と話す言葉はない」


「おっちゃんはサレンキスト人やなくて、海の向こうから来たんよ。よかったら、おっちゃんの国の話をしようか」


 若い魔人たちが顔を見合わせる。興味がある雰囲気なので勝手に話し出した。

「おっちゃんのいた国には、シバルツカンドと呼ばれる寒い街があるんよ」


 おっちゃんは話が面白くなるように脚色して、シバルツカンドの話をした。おっちゃんが冒険譚を話すと、内容が面白かったのか魔人たちは黙って聞いた。


おっちゃんが話していると、声が漏れるのか他の魔人も寄って来る足音がした。

「――そんで、どうにか『夏の精』を封印して街は救われた」


 話が終わった時には、十人の若い魔人が、おっちゃんの話を聞いていた。

「どうや? おっちゃんが外国人やと信じてくれるか?」


 十人のうち一人が声を上げる。

「他に行った都市はないのか?」


「あるよ。シバルツカンドが雪と氷の街なら、砂の街といえばバサラカンドや。バサラカンドにはハガンいう悪い領主がおってな」


 おっちゃんはバサラカンドでした冒険の話をした。おっちゃんが話していると、魔人は黙って話を聞いた。

「――と、言う具合にして、バサラカンドは異種族との共存を決めたんやで、今ではバサラカンドは木乃伊(みいら)も働く街としてやっておる」


 若い魔人の一人が、目をキラキラして尋ねる。

「おっちゃん、俺もバサラカンドに行ったら、冒険者になれるかな」


「冒険者になるのは簡単や。せやけど、やっていくのは、難しいで。中でも、ダンジョンは生きるか死ぬかの大博打(おおばくち)やからな」


 別の魔人が軽い調子で質問する。

「おっちゃんは、ダンジョンに行かんの?」


「わいか? わいは駄目や。こう見えても、ビビリやし、しがない、中年しょぼくれ冒険者や。ダンジョンなんて行ったら、死んでまう。それでも、どうにか冒険者としては、やっていってるんやけどな」


 一番小さな魔人がせがむ。

「ねえ、他には冒険の話は、ないの?」


「あるよ」と声を出したところで、年が行った魔人がやって来る。

「こら、お前たち、見張りは二人でいいといっただろう」


 若い魔人たちが不満を漏らす。

「だって、会議には入れてくれないじゃん。それに、サレンキストの奴等も来ないから、暇なんだよ」


 年が行った魔人が苦い顔をする。

「いいから、持ち場に戻るんだ」


 非常に不満な顔をして八人の魔人が帰っていった。


 年が行った魔人が残った二人にも渋い顔をして釘を刺す。

「いいか、お前たちも、余計な話はするんじゃないぞ。その男の処遇はまだ決まっていないんだ」


「はい」と残った二人の若い魔人は不満そうに口にする。

 年の行った魔人は最後におっちゃんをジロリと見る。

「お前も無駄口を閉じろ。村の若いものを(たぶら)かそうとすると心証が悪くなるぞ」


「わかりました。静かに沙汰を待ちます」


 ただひたすら待つ。昼飯は出なかったが、夜には蒸かした甘藷とミルクティーが出た。

見張りが一度、交代して、夜になった。だが、迎えは来なかった。

(今後の対応を巡って、議論が紛糾(ふんきゅう)しとる状態やな。魔人たちの間でも、使命と未来との間で揺れているのかもしれんな)


 朝になる。その日は朝から曇り空だった。

「なんや? 一雨やって来そうな湿った風やな」


 朝食に蒸した玄米と栗の炊き込みご飯が届けられる。

 見張りの魔人も同じ飯を喰っていたので、待遇は悪くないのだと勘ぐった。

 朝食を終えて昼ごろになると、マルポロを先頭に年配の魔人たち十名がやってきた。


 マルポロが真剣な顔で伝える。

「おっちゃんと言ったな。悪いが俺と一勝負してもらう。俺が勝ったら、捕虜になっている仲間の返還を求めない。道の復旧も認めない」


「わいが勝ったら?」


 マルポロが真剣な顔のまま告げる。

「おっちゃんが勝ったら、捕虜を返還するのなら、三十日間は襲撃を止めよう」


「よっしゃ。ほな、勝負しようか。勝負はどんなんや?」

「木剣を使った、一本勝負だ。魔法やそれに類するものの使用は、禁ずる」


 マルポロとおっちゃんは、村の広場へと進んだ。広場には直径十二mの円が描かれていた。

 おっちゃんとマルポロが中央に進んで、審判役の魔人から木剣を受け取る。


 五十人近い魔人が見守る中、勝負は行われた。

 マルポロの顔には殺気も余裕もなかった。ただ、戦う獣のように厳しい視線を向けてくる。

(油断も慢心もないか。腕も立つようやし、これは厳しい戦いになるかもしれん)


 審判の「始め」の合図がある。

 マルポロは静かに中段に剣を構え、おっちゃんも同じく中段に構えた。マルポロは、じっと構えたまま打ってこなかった。


 おっちゃんから積極的に仕掛けた。おっちゃんの繰り出す突きをマルポロが冷静に(さば)く。

 フェイントや斬り技、払い技を含めての連携攻撃だが、マルポロは全てを冷静に対処した。


 おっちゃんは攻め疲れて、一息の間を入れる。

 その隙を逃さずマルポロが今度は打って変わった激しい攻めに転じる。マルポロの攻撃は速くはないが、重たかった。


 剣で受け止めても威力が腕に伝わってくる。おっちゃんは必死にマルポロの攻撃を(しの)いだ。

しばらく、マルポロが打っていたが攻撃に隙ができた。


 おっちゃんは踏み込んで渾身(こんしん)の突きを打つ。

 だが、マルポロはぎりぎりで(かわ)す。


 おっちゃんは距離を取ると、マルポロも深追いせずに呼吸を整える。

(やりづらい相手やな。このままやと、持久力と集中力の勝負になる。持久力勝負になればマルポロはんに利があるの。さて、どうしたものやろうか?)


 おっちゃんが何か良い手はないかと考えていると、雨が一気に降り出した。

 雨脚は強く視界が悪くなる。地面は剥き出しの土なので足元も泥濘(ぬかる)む。天はおっちゃんに味方した。


 おっちゃんはダンジョン流剣術が使える。ダンジョン流剣術には技は三つしかない。だが、三つの技の中には、修めれば、足場の悪さを一切無視して移動できる『万地平足』が存在した。

 また、極めれば、聴覚、視覚、嗅覚、触覚が効かない状態でも相手の位置を知る『天地眼』もある。


 達人の域とは言わないが、おっちゃんは『万地平足』『天地眼』を使えた。

 視界の悪さと足場の悪さは、おっちゃんにとっては不利にならない。だが、マルポロは違う。

降りしきる雨の中でマルポロは苦い顔をして立っていた。おっちゃんは数分ほど掛けて足場が悪くなるまで待つ。


 おっちゃんの作戦を知らないマルポロは条件は同じだ、とばかりに、持久戦を採用して待ちに徹する。

 この決断が勝負を分けた。足場が悪くなってからの攻防は終始、おっちゃんに有利に働いた。


 二分ほどの攻防の末。おっちゃんの剣がマルポロの胸を突いた。

「勝負あり! 勝者、おっちゃん」審判の魔人による判定が下った。


 勝負は終わったがおっちゃんは気を抜かなかった。勝負の場を下りて安全になってから、やっと緊張を解く。

 腕は痛く、頭は疲労感を覚えた。


 おっちゃんは一度、家に戻されたので休息を摂った。

 昼食に焼飯が出て、夕食には根菜の煮物と玄米粥が出る。飯は出るが、誰もおっちゃんを迎えに来なかった。騒いでもしゃあないと構えて、その日はぐっすり眠った。


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