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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ヤングルマ島【サレンキスト国】
288/548

第二百八十八夜 おっちゃんと予期せぬ地震

 館で議会が終わるのを待つ。だが、シャイロックが帰ってこなかったので宿屋に戻る。

 翌朝、呼び出しに備えて待機するが、呼び出しはなかった。


 昼になるとアンネが気分よく帰ってくる場面に出くわした。

「アンネはん、なんか、いいことあったんか?」


 アンネは上機嫌で答える。

「魚だよ。今朝は魚が大量に水揚げされたんだよ。それはもう、船に入りきらないくらいさ。それで、魚が安く買えたの。今年に入ってこんなに安く大量に買えた記憶はないよ」


「そうか。それは、良かったな」

「今日は眠っている旦那を起こして栄養をつけさせられるってもんだよ」

(さっそく効果が現れたようやな)


 昼飯を宿屋で摂ると、昼には鰹の焼き物が出た。

 鰹の焼き物を食べ終わって部屋で一服していると、疲れた顔をしたシャイロックが訪ねてきた。

「おや、お疲れのようやね。なんぞ、大きな問題でもありましたか?」


 シャイロックが仏頂面をして告げる。

「おっちゃんのせいでもある。議会はガレリアとどう付き合うかで大いに揺れたぞ」


「でしょうね。でもね、外部から見れば、小さな島国で支配や主導権やと騒いでるほうが、滑稽(こっけい)や。四つの国家があって、それぞれに独立してやっていけるのなら、やっていったらええやないですか」


シャイロックが苛立った声を出す。

「おっちゃんの言いたい内容はわかる。だが、サレンキストにとって巨人の夢の解明とその利用は悲願なのだ」


(シャイロックはんは、頭の悪い人やない。話せばわかってくれるはずや。少々嫌われてもはっきりと教えたほうがええな)


「シャイロックはんの悲願は権力者の悲願やあって、市民の悲願やないでっしゃろ。サレンキスト人は巨人の夢を追ってやってきた。せやけど、争いに敗れた。そんで、島に定住してサレンキスト人になった。一般市民はサレンキストでの普通の暮らしを望んでいるんと違いますか?」


 シャイロックが表情を強張(こわば)らせて発言する。

「そんなことはない。市民もサレンキストによる統一と隆盛を望んでいるはずだ」


「あんな、シャイロックはん。シャイロックはんは市井の人と話した過去はありますか? 荷物を運んだり、魚を売ったり、個人商店を経営したりする人たちの声を聞いた経験や」


 シャイロックはむきになったように反応する。

「知っているとも。王宮や議会には日々陳情に訪れる人は多い。なにをやってなにを大事にするかは日々、市民と対話して決めている」


「ほんまでっか? 軍人、官僚、議員といった人から話を聞いただけやろう? 周りにやってくる人だけが市民やないよ。シャイロックはんの耳にしか届かない声だけを聞いていたらあかんよ」


 シャイロックは苛立った。

「おっちゃんは俺にどうしろといいたいんだ?」


「いっぺん、疑って欲しい。サレンキストだから、こう。サレンキストではこれが正しい。そんな考えを捨てて、本当に進むべき道はどこなのか考えてみて」


 おっちゃんは言葉を切って、目に力を入れてシャイロックを見据える。

「でないと、ほんまに最後には島を救ってもガレリアに飲み込まれる結末になりまっせ」


 シャイロックは「うんざりだ」の顔をして話を終える。

「わかった、わかった。時間がある時に考えてみるよ」


 地面が揺れた。揺れは十五秒ほど続いた。

「なんや、地震か?」

「サレンキストでは珍しいな」


 揺れが小さくなったので、シャイロックが立ち上がろうとした。

 今度は凄まじい揺れが襲った。食器が割れ家具が倒れる音がした。


 おっちゃんは倒れそうになるシャイロックを引き寄せて座らせる。

 揺れは四十秒ほど続いた。揺れが収まるとシャイロックは怖い顔で立ち上がる。

「こんな大きな地震は初めてだ。すぐに被害状況を確認しないと」

「そのほうがええで。これはあっちこっちで被害を出したはずや」


 おっちゃんはアンネが無事か確認しに行く。

 アンネは倒れてきた食器棚に体を挟まれていた。すぐに助け出す。

 アンネが震える体でおっちゃんに抱きつく。


 おっちゃんはアンネを落ち着かせると、外に様子を見に行った。

 岩山では崩落した箇所があり、街の中を照らす魔法の灯もところどころ消えていた。


 おっちゃんは声を上げて救助が必要な人がいないか確認する。だが、返事はなかった。

(なんや? 地震で街全体が死んでしまったようで気味が悪いで)


 おっちゃんは宿屋に戻る。

「通りからまるで人の声がしない。いったい、どうしたんや?」


 アンネが青い顔をしながらも教えてくれた。

「街の人間は食料を消費しないように、極力『幻影体』となって過ごしているんだよ」


「『幻影体』は外から『目覚めの石』を使って起こすか、『幻影体』が破壊されない限り、起きないんやったな。まだ、みんな体は眠ってとるんか」


 アンネが身震いして恐怖を語る。

「あるいは寝ている間に家具が倒れてきて、亡くなったのかもしれないね」


 アンネの傷の手当をして、戻ってきたホイソベルク人と一緒に、宿屋の片付けを手伝う。

 楽しいはずの夕食が一転、保存食と塩漬けの仙人掌(さぼてん)料理になった。宿屋で不安な一夜を明かした。


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