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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ヤングルマ島【サレンキスト国】
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第二百八十七夜 おっちゃんと荒れる議会

 翌日、グリエルモを探しにいこうとしたら、グリエルモのほうから、おっちゃんのいる宿屋にやってきた。

「グリエルモはん、よくここがわかったな」


「ギーザと名乗るサレンキスト人の密偵が接触してきた。おっちゃんに会いに行けってメッセージを貰ったよ。親切に場所まで教えてくれたから、探す手間が省けた。それで、なんの用? 緊急の用事?」


「サレンキストにある潮の流れを変える魔道具の使い方を探って欲しい。そんで、魚がサレンキストの近海に戻ってくるようにしてもらえんやろうか?」


 グリエルモはさばさばした顔で答える。

「潮の流れを変える魔法は使えるよ。魔法で潮の流れをまず変えてから解析を始めれば、明日からでも、魚は戻ってくるだろう。でも、いいの? 巨人の夢と、夢の世界に関する調査は遅れるよ」


「しゃあないわ。島の危機を回避する仕事も大事やけど。孤立しているサレンキストを支えてやらんと、島に真の平和は来ない」


 グリエルモは興味なさそうな顔をする。

「政治的な話だから、俺は口を挟まない。おっちゃんがしたいようにすればいい」

「助かるわ。ほな、頼むわ」


 グリエルモを伴って館に行く。礼装用の黒い服に着替えたシャイロックが現れた。

 おっちゃんから話を振る。

「グリエルモはんに話を付けたで。潮の流れを変える魔道具を見せて。魚だけは満足に喰えるようにしとこうか。魚は、サレンキストのソウル・フードらしいからの」


 シャイロックが明るい顔で声を掛ける。

「ちょうどよかった。おっちゃん、一緒に議会に来てください。魚の問題も重要だが、別の問題も持ち上がっています」


「なんで、おっちゃんが一緒に行かなならんの?」


 シャイロックが真剣な顔で伝える。

「議会で外国とどう付き合うかが議題に上っているんです。おっちゃんの意見を聞かせてください」


「一緒に行ってもええけど、シャイロックはんに都合のよい内容ばかりは話さんよ。耳の痛い話もするかもしれん。それでも、ええの?」


 シャイロックは真剣な顔で了承した。

「それでいいです。ヤングルマ島は危機的状況だが、危機の乗り切ったあとの展望がないと、すぐに行き詰る。これから付き合う未来があるガレリアの話は重要です」


「わかった、先読みは政治に必須やからね。それに、ガレリアにも利益になる話や」


 シャイロックはおっちゃんを伴って議会に行った。

 議場には傍聴席はない。赤を基調として議場は円卓になっており十席があった。


 議長の他に議員が八人、それにシャイロックが加わり、十名で議会は運営されていた。

 シャイロックは黒の礼服だが、他の九名も黒の礼服を着ていた。


 おっちゃんの姿を見ると、議員は一様に眉を(ひそ)めて渋い顔をする。

 議長と思われる年寄りが、おっちゃんを厳しい視線で見つめて口を開く。

「崇高な議会には似つかわしくない格好をしていますな。その男はいったい誰です?」


「ワイの名はオウル。西大陸の強国ガレリア国の国王の命令でヤングルマ島を調査しに来た調査団の団長をしている者ですわ。今回は非公式な出席いう話やから平服で来ました。正式な接触やと具合が悪いいう判断ですわ」


 議長が難しい顔をしてシャイロックを見る。

「外国からの秘密裏の接触ですか。なるほど、それなら、その兵士のような格好も理解できますが、オウル殿の話は本当ですか?」


「本当です。今日の議題には外国との話題が上ると聞いて、特別に意見を述べてもらうべくお越しいただきました」


「席を用意してくれ」とシャイロックは官吏に命令し、おっちゃんの席を用意させる。


 おっちゃんとシャイロックが席に座ると、議長が口を開く。

「それでは開会します。議案ですがオウル殿がいらしているので、まずは外交懸案から議題にしたいと思います」


 頭が禿げ上がった老議員がムスッとした顔で挙手して、発言を開始する。

「議員のベルンハルトです。昨日の段階では外国人が島に上陸した報告は上がっていました。ですが、要人がやって来ていたとは初耳です。まさか、王家のほうでは既に交渉を始めているのですか?」


 シャイロックが真剣な顔で答える。

「オウル殿と面会したのは昨日です。端的に現状を教えて情報交換をしました。別に議会を飛び越えて何かを決めたりはしない」

「なら、いいのですが」とベルンハルトが厳しい顔で釘を刺し、おっちゃんに向き直る。


「ヤングルマ島自体はつい最近まで、ある事情により外部との連絡が取れなくなっていました。なので、ガレリアとはどんな国か存知あげません。ガレリアとはどういう国ですかな?」

(これは、ガレリアを侮っているね。ちょっと脅したろう)


「ガレリアは船で二週間ほど北に行った場所にある西大陸にある国です。人口は百万人。国土は広く、金銀は豊富。五万の陸軍と一万の海軍を要する軍事国家です。魔法技術にも優れ、賢人と勇者を数多く召し抱えとります」


 おっちゃんの言葉に議場は一瞬シーンとなる。ベルンハルトが疑った顔で聞く。

「人口だけでもサレンキストの二百倍。軍にいたっては五十倍とは、本当ですか?」


 おっちゃんは堂々たる態度で答えた。

「本当ですな。正確な測量結果が出とらんから、わからん。せやけど、国土の広さだけでいうたら、ヤングルマ島の百倍~千倍くらいは、あるやろうか」


(ヤングルマ島に比べたら人が住めない地域が多く、異種族が住んどって実効支配できていない地域も入っとる。せやけど、ガレリアの発行する地図からすると、そうなるんよ)

「とんでもない規模だ」と議長が、おっちゃんの言葉を信じたのかたじろいだ。


 おっちゃんは尊大な態度を装って話す。

「国王のヒエロニムス陛下のお考えは、わからん。ただ、マレントルクとアーヤは既に手土産を添えて、友好を望む親書を出したで。ホイソベルクは放っておくとして、サレンキストさんはどうしますか?」


 ベルンハルトが険しい顔で確認する。

「まさか、マレントルクとアーヤはガレリアに下って庇護を求めるつもりですか?」


 おっちゃんは両方の書状を読んでいるので、中身を知っていた。マレントルクの書状やアーヤの書状には、そこまで踏み込んだ内容は書かれていない。


 おっちゃんは(とぼ)ける。

「さあの。国王から国王に当てた書状やから、中身は知らん。でも、最初は違ったが、マレントルクの王様もアーヤの王様も、わいが国を出る時には随分と友好的になってくれたで」


 シャイロックが怖い顔をして質問する。

「まさか、ガレリアはこの島を支配するつもりなのか?」


 シャイロックの言葉に議員たちが息を飲む。おっちゃんは意地悪く答える。

「さあの。だが、サレンキストがマレントルクやアーヤを支配してええのなら、島全体をガレリアが支配してはいかん理屈が、わからんのお。もし、アーヤかマレントルクを庇護国にする決断をガレリアがして、そこにサレンキストが手出しすれば、ガレリアの面子(めんつ)がいたく傷つく状況は確かや」


 ベルンハルトが怒りの声を上げる。

「馬鹿げている。ヤングルマ島の未来はヤングルマ島の住人が決めるべきだ。断じて外国のガレリアが決めていいわけがない」


「わいも、ベルンハルトはんの意見には賛成や。島の四カ国が仲良う手を取り合って、ガレリアと友好的なお付き合いをしてくれれば、ええ。ただ、ねえ、ヒエロニムス国王はねえ。争いが収まらんなら統一しようかと、夢みるかもしれませんなあ」


 ベルンハルトが険しい顔で意見する。

「不愉快だ。実に不愉快だ。サレンキストはガレリアには屈しないぞ」


「そうでっか。それも決断ですから、どうぞ、ご自由に、としか言えません。ですが、わいもサレンキストを(いじ)めに来たわけやないから、手土産を置いていきますわ」


 ベルンハルトの顔が歪む。

「なんだ、手土産とは?」


「魚ですわ。潮流が狂って魚が獲れなくて困っているんでっしゃろ? これを、王家の人間と協力して、戻しましょう。早ければ、明後日にも魚が魚場に戻るように工夫しますわ」


 ベルンハルトが、おっちゃんの言葉にたじろぐ。

「王家が所有する潮流変化の魔道具は国王にしか使えないはずだ」


「それは、サレンキストさんの内での話。ガレリアの魔術師に見せたら、意外と簡単に使えそうやと報告を受けています。なんせ、ガレリアには賢人も勇者も()り取り見取りですからね」


 シャイロックが苦い顔で提案する、

「議長、とりあえず、ガレリアの意見はわかったとしてオウル殿には退席をお願いしたい。いいだろうか?」


 議長が他の議員を見ると、おっちゃんに出て行ってほしそうだった。なので、おっちゃんは退席した。


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