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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ヤングルマ島【ホイソベルク国】
283/548

第二百八十三夜 おっちゃんと『大門の鍵』

 翌朝、悲しい気分で起きて朝食を摂る。ハイレは帰ってこなかったので、そのまま釣り道具屋を出て、ゲタの許に行こうとする。


 釣り道具屋の反対側にある倉庫では、サレンキスト人が不用品の中から何かを探そうと懸命だった。

 ゲタの許に行くと、シャイロックがゲタと話していた。二人の雰囲気は険悪だった。


 ゲタが冷たい態度で突き放す。

「『大門の鍵』が欲しければ、『幻影の池』で釣るしかないね。ホイソベルクの釣り場は万人に開かれている。釣るぶんには自由だ。なんなら竿が余っているから、竿を貸そうか?」


 シャイロックが苛立った顔で答える。

「いつ出るかわからない釣りで入手を待つなど、悠長な行動は採っていられない。事態は思ったより早く進展している。急がねば、ヤングルマ島は救えない」


 ゲタが「興味がない」の顔をして、取り合わない。

「なら、マレントルクやアーヤにも正直に話して、協力を求めたらいい。理屈の上では『大門の鍵』は『産岩』や『願いの木』からでも、超低確率だが出るはずだ」


 シャイロックが怒りをぶつける。

「望むものが出せる『始祖の木』も『産岩』も、育成にはサレンキストでも成功はした。だが、サレンキストの『始祖の木』は挙動が不安定で、まだ使える代物ではないんだ」


「だろうね。あれは、アーヤ国の人間が使う前提で作られたものだ。他の種族では上手く使えなくても無理ないことだ」


 シャイロックが怒鳴る。

「どうあっても、協力する気はないのか!」

「残念だが、私は単なる釣り人だ。島を救う立場にはない。する気もない」


 シャイロックは憤然とした表情で立ち去った。

「なんや、険悪な空気やったの?」


 ゲタが飄々(ひょうひょう)とした顔で教えてくれた。

「サレンキストの連中の計画ではまだ半年くらい猶予があると考えていた。だが、昨日になって、それほど猶予がないと知って、慌てたんだろう。また、計画を指揮していたサレンキスト王の死も関係している」


「随分とサレンキストの内情に詳しいんやな」


 ゲタが不快感も露に語る。

「ここの『幻影の池』では過去も未来も釣れる。だが、誰の過去と未来かは選べない。数を多く釣れば、知らなくてもいい情報にも精通する。おかげで、賢人扱いだ。ただの釣り人にはいい迷惑だよ」


(賢人には賢人の悩みがあるか)

「さっきの話やけど、わいでも『大門の鍵』を釣れるかな?」


 ゲタが軽い調子で答える。

「可能性は否定しない。だが、ここは上級者向けだから、難しいだろうね。もっとも、腕が良くても道具が良くても、釣れない時は何も釣れない。それが釣りだ」


「釣りやからなあ。誰に文句を言うても釣れるものでもないか」


 予備の竿を借りて釣り糸を垂れると、ゲタがのんびりと構えて訊いてくる。

「おっちゃんはなんで『大門の鍵』を欲する? ヤングルマ島を救うためか?」


「せやな。なんでやろうな? 別に島がなくなってもわいは困らん。島が消えても、なぜ、ヤングルマ島がなくなったか理由もわかれば、探検の依頼を出した国王かて納得するかもしれん」


「なら、危険を冒して島を救う必要はないだろう?」

「ゲタはんの釣りと同じや。必要やからやるんやない。やりたいから、やっているんや。ゲタはんが釣り人なのと同じや。おっちゃんは冒険者やからね。冒険をしたくてやっとる」


 ゲタが表情も穏やかに語る。

「冒険者とはわからん人間だな。だが、私の釣りと同じ意味を持つなら共感もできる」

「釣り人と冒険者は違う。せやけど、わかってくれるなら嬉しいわ」


 ゲタは横にあった収納箱に手を入れて何かを取り出す。ゲタが淡々とした表情でおっちゃんに木製の大きな鍵を渡した。

「『大門の鍵』だ。そういう理屈なら、持って行くといい」

「なんや、やっぱり『大門の鍵』を持っとんたんか」


 ゲタがふっと笑って答える。

「誰も持っていないとは発言していない。サレンキストは本来なにもない土地だった。だが、今は違う。おっちゃんが冒険を終えるには必要な場所だ。その鍵を土産に訪ねてみるといい。きっと歓迎してくれるだろう」


「ええのか、ゲタはん? わいに『大門の鍵』を渡せば、巨人の夢を封印はしない展開になるで」


 ゲタが気にしたような様子もなく語る。

「別に、いいよ。島をどうこうしよう等と、釣り人の私が考えるほうがおかしかったんだ。『大門の鍵』は冒険に必要な品だ。なら、最近できた冒険者の友人に譲ったほうが親切だ」


「そうか。なら、友情に感謝して、もろうておくわ」


 おっちゃんが鍵を手にすると、頭の中に男の声が響く。

「全ての試練を制覇した者よ。大門を(くぐ)り、定めの地を目指せ」

「なんや、今の声?」


 ゲタが穏やかな調子で応じる。

「私には、なにも聞こえなかったな。巨人の声でも聞こえたかい?」

「どうやら、わいにだけ聞こえたようやな。誰かがわいを待っておるようや」


「最後に一つ、釣り人からアドバイスだ。存続、革新、廃止。どれも願っても後悔は残るかもしれんが、どれを決めても問題ない。そこまでの責任を巨人は求めないだろう。私も求めない」

「そうか。なら、ちいと冒険の旅に行ってくるわ」


 釣り道具をゲタの横に置く。

 おっちゃんは『大門の鍵』を手に最後の土地、サレンキストに向うべくホイソベルクを後にした。

【ホイソベルク編了】

©2017 Gin Kanekure

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