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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ヤングルマ島【ホイソベルク国】
281/548

第二百八十一夜 おっちゃんと消えた街の人

 何事もなく、朝を迎えた。

 起きて下に行くが、ハイレの姿は見当たらなかった。


 居間に行くと朝食が用意されていた。朝食と一緒に置き手紙と金貨があった。金貨を財布にしまい、『翻訳』の魔法を唱えて手紙を読む。


「急用で家を空けます。鍵は掛けなくていいです。朝食の食器も下げなくていいです。ハイレ」


 用意された朝食はすでに冷めていたので、一時間以上は前にハイレが出かけたと思った。

 一人で味気ない食事を終える。鍵は掛けなくていいとあったので食事を終え、釣り道具屋を出た。


 ゲタのいる場所に歩いていくが、誰とも出会わなかった。

「おかしいの。昨日はちらほら街の人がおったのに、今日は誰とも会わん」


 朝靄の中を歩いて行くと、黒っぽい服装をした人影を見た。

 小走りに近寄っていくと、相手はギーザだった。

「ギーザはん」と声を掛けると、ギーザは立ち止まって振り返った。


 ギーザは穏やかな顔をしていた。

「あんたは、何者なんや?」


 ギーザが感傷の篭った表情で話す。

「私はユーリアの影。ユーリアの最後の願いから生まれた存在。今は、消え行くホイソベルク領内を思い出に留めるために見回っている」


「ユーリアの影って、おっちゃんに何をやらせたいんや?」


 ギーザは冷たい顔で話す。

「舞台は整ったわ。役者も揃いつつある。神が捨てた土地であるサレンキストで事件は始まり、神が住む山で全てが終わるのよ」


「なんや? 意味ありげな言い方やな。ギーザはん、おっちゃんにサレンキストに来てほしいんか?」


 ギーザは微笑み頷く。

「でも、その前に『光の試練』をお忘れなく。六つの試練が終わった時に、神が住む山の宮殿の扉が開かれる。おっちゃんも重要な役者なのだから」


 ギーザはそれだけ言うと、朝靄に溶けるように消えた。

「なんや? ユーリアの最後の願いって?」


 ゲタの許に行くと、ゲタは昨日と変わりなく釣りをしていた。

「街の人がいなくなっているんやけど、どこに行ったかわかる?」


 ゲタは驚きも怖れもなく、淡々とした顔で告げる。

「『夜の精霊』にでも呼ばれたんじゃないかな。どのみち、どこに行こうが未来は変わらない。私だって、時が来れば消えるのかもしれない」


「ゲタはん、ホイソベルクにも守護のなんとかってある? ユーリアの託した夢が今どんな状態にあるか知りたい」


 あまり興味がないといった顔で、ゲタが告げる。

「少し前まで守護の泉があった。だけど、今はもう四つともないね」


(まずいで。守護シリーズが消えたんなら、島の崩壊が始まったのかもしれん。そんで、ホイソベルク人に、まず影響が出たのかもしれんな)


 ゲタが普通に声を出す。

「心配しても、どうしようもないさ。おや、お客さんだね」


 ゲタの視線の先には、シャイロックがいた。

 シャイロックは、ゲタとおっちゃんに、気軽な調子で挨拶をする。

「おはよう、お二人さん、いい朝ですね。賢人ゲタ、残っているホイソベルク人のほとんどは、サレンキストで保護しました。貴方もサレンキストに逃げてきてはどうですか?」


 ゲタが柔らかな表情で頼む

「保護は私には必要ない。島の崩壊の時が来たら消えるさ。それより、私の隣にいる友人が街の人が消えた状況を心配している。説明してやってくれ」


 シャイロックが明るい顔で語る。

「いいでしょう。ユーリアが巨人に託した夢が消えれば、ユーリアに造られた血統のホイソベルク人は消滅する。肉体が消滅すれば人は死ぬ。意識もいずれ消えてなくなる。ここまでは、いいですか?」


「意識単独では存在できないから、そうなるやろうな」


 シャイロックが意気揚々と計画を教える。

「だが、我がサレンキストには、意識と肉体を切り離す技術がある。意識はユーリアに造られたものではない。だから、ユーリアが消えても、すぐに消えない。そこで、実体を伴なった意識体になっていただく手法で、死をかなり先送りできるのです」


「なるほど。その間にサレンキストが巨人の夢に人を送り込んで、巨人に夢を託して失われた肉体を造って意識を戻そういう作戦か。シャイロックはんの作戦なら、島の人を救えるな」


 シャイロックが自信に満ちた顔で伝える。

「そうです。それが、サレンキストによる島の救済計画であり、サレンキストしか島を救えない理由です。もちろん、サレンキストが島を救うのですから、今後はサレンキストの方針に島の人間は従ってもらいます」


 シャイロックはいかにも素晴らしい話として語った。

「ヤングルマ島にある四カ国を統一して、一つの国家にする。それぞれの地域の特色は残しつつ、統一したほうが効率的なところは、統一する。島全体が、新たに素晴らしいものに生まれ変わるのです」


「そう、うまく行くと、ええけどな。統一には混乱は付き物や」


 シャイロックは、自信たっぷりに答える。

「上手く行きますよ。それに、島の統一は、ガレリアにも有益です。統一通貨、共通規格、同一商法があれば、貿易をしやすい。協定を結ぶ相手は我がサレンキストと話をすれば事足りる。サレンキストはガレリアとの貿易を望んでいます」


(サレンキストは、島を掌握した後の展開も考えているんやろうな。だが、赤髭はんやギーザはんの動きが読めんから、ちと気が早い気がするの)


「話だけ聞くと、いいことずくめのように聞こえる。せやけど、ええ内容ばかりに聞こえる話は、どうも怪しいな」


 シャイロックは誇らしげに語る。

「なら、サレンキストに一度、来てください。サレンキストを見ていただければ、私たちの真摯(しんし)な思いと善良なる行動が、わかるでしょう」


「わかった。今すぐには行けんけど。近いうちに行くわ」


 シャイロックは気分よく、おっちゃんとゲタの許を立ち去った。

 おっちゃんは街の人がまだ残っていないか探した。すると、ホイソベルク人はいないが、サレンキスト人をよく見かけた。


 サレンキスト人は、何かを探していた。サレンキスト人は躊躇(ちゅうちょ)することなく、民家に入り、倉庫を探す。墓まで(あば)いていた。


 夜になり、ゲタにサレンキスト人が街に入っている状況を教える。

「巨人が眠る山にある宮殿の扉を開く『大門の鍵』を探しているんだろうな。『大門の鍵』は、ホイソベルクの宝だからな」


「なんや。もうサレンキストは、遺跡に入る段階まで進んでいるんか。これは、うかうかしてられんな。最後の試練も終えておこうかの」


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