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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ヤングルマ島【ホイソベルク国】
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第二百七十六夜 おっちゃんと島の継承者候補

 ゲタのいた『幻影の池』がある場所に戻る。ゲタは戻ってきており釣りをしていた。

「こんにちは。少しの間、見なかったけど穴場でも探しに行ってたんか?」


 ゲタが柔和な笑みを浮べて答える。

「私にとって、ここは永遠と釣りができる場所だ。ここ以上に最適な釣り場はないよ。ここで待っていたのなら、私になにか話があったのだろう? なんの話かな?」


 おっちゃんはバック・パックの中を探って、王石を取り出した。

「これはマレントルクで手に入れた『王石』や。確認やけど、これって、ほんまに王様になるための石なん? 違う可能性が出てきたから、知っていたら教えて欲しい」


 ゲタは『王石』を受け取って、目を細めて石を鑑定する。

「この石は、時を釣っていて手に入った過去で見たな。これは、島やマレントルクの王を決める石ではない。ヤングルマ島の王になれる石でもない。これは『地下宮殿』の中に入るための資格証だ」


(『王石』が王になるための石やないとすると、意味合いが変わってくるね)


 ゲタが『王石』を返して、過去の記憶を繰りながら話す。

「ユーリアに子孫はいない。ユーリアの後を継げる者は、賢人ホイソベルクの血を引く人間だ。ホイソベルグの子孫はマレントルク人の中にいる」


(マレントルクでは、やはりいつのまにか王と神職の役割が逆転しておったんやな)

「ホイソベルクの子孫については目星がついとる。『王石』を出せる人間とは、なんなん?」


 ゲタが静かに語る。

「ホイソベルクの子孫は神職との結婚により血を繋いできた。おっちゃんが持つ『王石』は本来は神職に足る人物が、継承者が絶えた場合にこれと見込んだ人間を試練に送るための資格証だった」


(長い年月を経て、伝承が変わりよったな。『王石』を出した人間は、自分で『地下宮殿』に挑まなくてもよかった。資格があると認めた人間に渡す役割だったんやな。せやけど、いつのまにか渡す方法が忘れられ、捨てても戻ってくる。せから、出した人間が試練に挑むと、間違った解釈になったんか)


「『炎の試練』と『水の試練』は終えた。島の事情は見えてきたから収穫はあった。せやけど、なにをどうしたらいいか、見えてこん」


 ゲタは真剣な顔をして語る。

「私も少し調べさせてもらった。おっちゃんの仲間の赤髭がヤングルマ島の神と同一人物だと判明した。赤髭はホイソベルクの血縁に巨人の夢を継がせようと画策している」


(『火の試練』の後に見たレリーフは、赤髭はんで間違いなかったか)


「巨人に託した夢をヤスミナかサリーマに継がせて島を維持する計画やろう。うまく行けば島は救われる。赤髭はんに協力する気にでもなったんか?」


 ゲタは渋い顔をして告げる。

「赤髭の当初の計画は少し違ったようだ。赤髭に当初は、島を救う気はなかった。ただ、ユーリアを解放するために試練を制覇できる人間、ないしは資格を継承できる人物が必要だった」


(ユーリアを解放するためには巨人の夢に入る必要があるんやな。赤髭はんには、ホイソベルクの血を引く人間がまだ島にいるかどうか、わからんかった。なら、試練を六つ制覇できる人間が赤髭はんには必要だったわけや)


「なるほど。おっちゃんが赤髭はんを、この島に連れてきたと思うとった。せやけど、赤髭はんにしたら、六つの試練を制覇できる人物として、おっちゃんを島に導いたわけか。さっぱり気付かんかったわ」


「おっちゃんの役目が資格を継げる人間がいなかった時の予防措置なのは間違いない。だが、ヤスミナやサリーマに資格があると知った時にはユーリアは亡くなっていた。赤髭にはこれが大きな誤算だったのだろう。赤髭は時がまだあると思っていた」


「おっちゃんかて試練はまだ五つ目や。まだ、巨人の夢には入れん。マレントルク王かて試練六つは制覇はしておらん。赤髭はんがユーリアに残された時間を知った時には、時すでに遅しやったんやな」


 ゲタが神妙な顔で頷く。

「赤髭は当初の計画を変更したようだ。赤髭は今、ユーリアが残したこの島を残そうと画策中だ。ユーリア亡き今なら、次に巨人の夢に入った人間がこの島の神となれる」


「なら、赤髭はんに協力したら、ええやないか」

(ホイソベルクの血筋なら試練を受けなくてええはず。赤髭はんはヤスミナかサリーマを巨人の夢に送り込んで、島を維持させようと動いておるんやろう)


 ゲタが渋い顔をして考えを述べる。

「赤髭の計画が成功すれば、島はこの先しばらくは安泰なのは認める。私も穏やかにここで釣りをして暮らせるだろう」

「そうか。なら、問題ないやろう」


 ゲタは渋い顔のまま首を横に振った。

「私の考えはあくまでも島の封印だ。巨人の夢などないほうがいい。巨人の夢は危険過ぎる。赤髭に協力する気は一切ない」


「皆が幸せで、ゲタはんも幸せなら協力したらええのに」


 ゲタは少しおどけた顔で評した。

「残念だがホイソベルク人の年寄りは天邪鬼(あまのじゃく)なんだよ」

「サレンキストは、どう思っとるの?」


「サレンキスト人の中にはホイソベルクの血縁者はいない。ユーリアの夢から創造された人間でもないので、巨人の夢にも入れる。資格証を持つ人間はいるが、果たして試練を六つ終えられるかは、不明だ」


(サレンキストの王子のシャイロックの話やな。シャイロックも『王石』持ちや。シャイロックがどこまで試練を進めているかによっては島の未来は変わってくる)


「試練はわかれば簡単やけど、失敗すればどれも致命的な結果をもたらすものばかりやからな。六つクリアーは難しいかもしれん、おっちゃんかて次に『光の試練』に失敗すれば、全てパーや」


 ゲタが難しい顔をして告げる。

「ないとは思うが、サレンキストの計画がうまくいっても、島は残るだろう。ただ、マレントルク、アーヤ、ホイソベルクで過す人間にとっては劣悪な環境になるかもしれないがな」


「全てが無になるより多少はマシの選択やね。でも、ヤスミナもサリーマも、島の神様いう重圧には耐えられないと思うとるようや。だから、島の継承は困難を極めるかもしれんな」


 ゲタが何気ない顔で告げる。

「なら、おっちゃんが『光の試練』をクリアーして、資格を手に入れたらどうだ。大門を越えて巨人が住む宮殿まで辿り着ければ、おっちゃんがこの島の神になれるぞ」


「王様の次は、神様か。もう、おっちゃん、そんなたいそうな役職に就きたくはないよ。これは、サレンキストのシャイロックはんが有力候補かもしれんな」


 ゲタが素っ気ない態度で告げる。

「無理には頼まんよ。おっちゃんは、おっちゃんの進みたい道を進めばいい。だが、もし、気が変わって、島を神が来る前の姿で封印したくなったら教えてくれ。その時は喜んで協力しよう」


「島の封印は選択肢にはないのー」

 おっちゃんなりに島にとっての最良の選択肢はなにかを考えた。だが、夜まで考えても結論は出なかった。


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