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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ヤングルマ島【ホイソベルク国】
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第二百七十四夜 おっちゃんと『火の試練』

 翌朝、おっちゃんはゲタに石造のある場所を聞いて移動する。

 ゲタに教えられた場所には、ホイソベルク人の石像が建っていた。石像は長い年月に亘って風雨に(さら)されていたが、形を残していた。


 台座にある扉を開けると、地下へ続く階段があった。『暗視』の魔法を唱えて、階段を下りる。

 マレントルク国やアーヤ国の『地下宮殿』と同様に、正面には縦横二mの石版が嵌っていた。石版には、文字が書いてあった。


「試練が終わるたびに、真実が明かされる。六つの試練を終えた時に、真実は目の前に現れる」

(マレントルクやアーヤと同じやな。これで、クリアーした試練への扉が塞がっていれば、確実に同期を採っているね)


 部屋を見回すと、他の『地下宮殿』と同様に横と斜の六方向に通路があった。『石の試練』のプレートの下にある通路を進む。


 おっちゃんの予想通りに、扉はなく行き止まりになっていた。

『闇の試練』と『風の試練』にも試しに行ってみるが、やはり扉はなく行き止まりだった。


(残っている試練は、『火の試練』『水の試練』『光の試練』か。『光の試練』は後回しにするとして、『火の試練』と『水の試練』か。先に、危険な試練を済ませておこうか)


 おっちゃんは『火の試練』に続く通路を歩いていった。

『火の試練』の扉の右にはプレートが設置され、左には長さ五mほどの手摺(てすり)が設置されていた。


 プレートの文字を読む。

「水桶を使え。水を使え。さすれば、火は静かになり従うであろう」


 おっちゃんは目を凝らして、プレートの文を読んだ。

「これは、第一ヒントやね。第二ヒントは、おそらく、これや」


 おっちゃんが手摺を調べると、手摺が外れた。外れた金属の棒を確認する。

「なるほど。この頑丈な金属の棒が、第二ヒントやね」


 おっちゃんは金属の棒を片手に『火の試練』の扉を開けた。

 部屋は縦が二十五m横が六mほどの部屋だった。部屋の正面奥の窪んだ場所にレバーが見えた。


 また、正面奥の床には直径十㎝ほどのバーがあった。バーの側面は蛇腹(じゃばら)のようになっていて、壁の端から端まで届くほど長かった。


 部屋に入って左斜め方向に、人間が二人は入れるほど大きな水瓶があった。水瓶には金属製の水桶が引っかかっていた。

 他に何かないか見渡すと、部屋の四隅と中央に大き目の換気扇が設置されていた。


 おっちゃんは床に顔を近づけて床面を観察する。床は入口に向かって緩やかに傾いていた。入口の右隅と左隅には排水溝のような穴があった。


おっちゃんは部屋をざっと見渡して、罠の概要を理解した。

「だいたい、わかったで。部屋に入ると、奥のバーから天井に向って炎が噴出して、炎の壁が生成される。そんで、水瓶から水桶で水を汲んで火を消そうとしても消えない」


 おっちゃんは水瓶とバーを交互に観察する。

「慌てて水瓶の中に入って、炎をやり過ごそうとする。すると、蛇腹のバーが曲がって水瓶を取り囲み、水瓶を沸騰させて、中に入った人間を茹で殺す仕掛けや。なら、攻略法はこうや」


 おっちゃんが部屋に入ると、背後でドアに鍵が掛かる音がした。

 部屋の電気が点き、換気扇が廻った。部屋の奥にあるバーから天井まで勢いよく炎が吹き上がり、炎の壁を形成する。


 炎を吹き出すバーが、ゆっくりと部屋の入口に向けて移動を開始する。おっちゃんは金属の棒を、入口のドア付近に置く。


 水瓶の近くまで移動し、床を叩いて音を確認する。床下から乾いた音がした。

「やはり、水瓶の下に空洞がある」


 おっちゃんは水瓶を確認した。すると、水瓶の底に窪みを発見した。

「よっしゃ、想像通りや。窪みがあった」


 おっちゃんは、急いで水瓶から水を汲み出して、床にぶちまける。

 床に零れた水が、排水溝に向って流れていく。


「ヒントでは、水桶を使えと書いてあった。でも、水瓶を使えとは書いとらんかった。なら、こうや」


 おっちゃんは、ひたすら水瓶から水を汲み出す。水を半分ほど汲み出したところで、おっちゃんは水桶を床に伏せた状態で置く。


 入口に置いた金属の棒を拾って、水瓶の底の窪みに差し込む。床に置いた水桶を支点に梃子(てこ)の要領で重たい水瓶を倒した。水瓶が床を入口方向に転がる。

「まず、これでヒントの通り、水桶を使った。次は使う水の確保や」


 おっちゃんは床に置いた水桶を拾う。まだ水が残っている水瓶から、水を一杯分だけ掬う。おっちゃんは水桶を持って、現れた床の穴に隠れた。


 おっちゃんが穴の中で身を低くしていると、頭上を炎のバーが通過する

「よし、炎をやりすごした」


 おっちゃんは穴から這い出ると、水桶を持って部屋の奥にあるレバーに近づく。

 レバーが突如として炎に包まれた。おっちゃんは慌てずに、水をゆっくりとレバーに掛ける。


 火は消えた。おっちゃんがまだほんのりと熱気が残るレバーを引くと、声がする。

「無理に炎と戦わず、炎を制御した勇者よ。力の使い方を知るそなたには、真実を知る資格があると見なす」


 レバーの横の壁がスライドして開いた。おっちゃんは現れた出口を潜り、『火の試練』を終えた。

 出口の先は通路になっていた。通路の途中に、人の顔を彫ったレリーフがあった。


 レリーフは赤髭そっくりだった。

「なんで、ここに、赤髭はんのレリーフがあるんや?」


 通路の先から女性の声がした。

「それはユーリアを創造した神のものよ。神は巨人の夢に入り、夢を託すことで、ユーリアとヤングルマの島を作った。神は島を造ると、ユーリアに島の管理を任せて島を去った」


 通路の先を見るが、人の姿は見えなかった。ただ、女性の声だけが聞こえる。

「神は再びこの島に戻ってきた。なぜ、今になって戻ってきたのか、理由は知らない。だが、神は島を救おうとしているか不明よ。果たして、救済は善なのだろうか、いずれ決断の時が訪れるわ」


 おっちゃんは声のするほうに走った。


 再び女性の声が通路の先からする。

「アーヤ人とホイソベルク人は、神によってユーリアの世話をするために作られた。だが、ユーリアが必要としなくなると、その役目は忘れられたのよ。ただ、魔人だけがユーリアを慕い、役目を忘れなかったわ」


 おっちゃんが通路を進むと出た先の部屋は、六方向に通路が伸びる『地下宮殿』にある、最初の部屋だった。


「なんや、さっきの声は?」


 気配はなく、声も聞こえなくなっていた。

 おっちゃんは、ひとまず『地下宮殿』を出て石像の傍らに座って考える。


(さっきの声が話した内容が本当だったと仮定する。神は再びこの島に戻ってきたと教えた。神のレリーフは赤髭はんそっくりや。まさか、赤髭はんがヤングルマ島を造った神なんか?)


 赤髭は昔、遺跡に年を取らない状態で呪いに囚われて遺跡に閉じ込められていた。

(赤髭はんは、おっちゃんの探索団の船長になる前は大海賊やった。だが、大海賊の前は、なにをやっとったかは知らん。もしかして、大海賊の前はヤングルマ島を発見し神になった探険家やったとしたら、どうや?)


 証拠はなにもない。だが、赤髭が神なら、『地下宮殿』のレリーフに姿が残っていた説明は付く。

おっちゃんはゲタの許に行った。しかし、ゲタは留守だった。ゲタがどこに行ったのかは知らない。探す当てもないので、ゲタを待った。


 明け方になっても、ゲタは戻ってこなかった。疲れてきたので眠ると、意識があるのに、体が動かなかった。女性の声が聞こえた。


「これは遠い昔の物語」

 女性の声はすぐに終わり、おっちゃんは眠りに落ちて夢を見た。


 夢は遠い昔に船で航海する内容。夢の中で、おっちゃんは船員でホイソベルク人だった。

 船長は赤髭にそっくりの男だった。赤髭の船には赤髭以外の人間は乗っていなかった。乗員はほとんどが魔人で、ただ一人、おっちゃんだけがホイソベルク人だった。


 夢は船が島に着き、上陸して遺跡に入る前で終わった。

 目が覚めると、太陽の高さから、昼過ぎだとわかる。


「まさかと思うが、やはり赤髭はんが、ヤングルマ島を造った神やったんやろうか? そんで、マサルカンド近郊の遺跡に閉じ込められて出られなくなり、月日が経ったんやろうか?」


 もう一日、待った。だがゲタは戻らない。

 どこか他の場所で釣りをしているかと思って探すが、見つからなかった。他のホイソベルク人に、ゲタを見なかったか訊く。


 尋ねられたホイソベルク人は、だいたい似たような内容を話した。

「ゲタさん? 見ていないね。ゲタさんなら、いつも同じところで釣っていて、場所を動かない。だから、待つしかないね」


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