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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ヤングルマ島【ホイソベルク国】
272/548

第二百七十二夜 おっちゃんとゲタの夢

 おっちゃんが目を覚ますと、陽は高くまで昇っていた。

 ゲタはおっちゃんに構うことなく、釣り糸を垂れていた。ゲタがおっちゃんの背後を指差す。見ると、そこには小さな鍋が火に掛かっていた。


 ゲタが穏やかな顔で声を掛ける。

「おっちゃんが寝ている間にマーカスが来てシチューを作っていった。腹が空いているなら食べるといい」


 昼食にシチューを食べる。おっちゃんはシチューを食べながら、ゲタと話す。

「マーカスはんを助けて凶龍を倒してきたで。そんで、赤髭はんが心配なんやけど、話してくれる時は、まだ来んの?」


 ゲタが飄々とした顔で告げる。

「赤髭の身柄なら心配ない。だが、心配はないといっても不安だろう。そうさな、あと、三日したら、またここに来るといい」


「ゲタはん、ユーリアはんが亡くなった情報を知っとるの?」


 ゲタがいたって普通に答える。

「知っているとも。ここでは、未来も過去も釣れるからね」

「だったら、あんまりのんびりしていたら、島が救えなくなるとか、思わんの?」


 ゲタが微笑んで質問してきた。

「私は逆に聞きたい。外国から来たおっちゃんは、なぜ島を救いたいと思うのかね?」


 おっちゃんは正直に胸の内を語った。

「探検に来た島が、探検を終える前になくなったら、寂しいやろう。それに、ヤングルマ島には友人もできた。友人のために、できるならなにかしてやりたいと思う心は、自然やと思うけどね」


 ゲタが表情を曇らせて質問する。

「自然な心ね。でも、島を救う行動は、常に危険を伴う。おっちゃんにしたら、ヤングルマ島は、それだけの価値がある存在なのかね?」


「なにを当然の話をするん。人が住んでいる島やで。価値があるに決まっているやろう」


 ゲタは渋い顔をして伝える。

「おっちゃんは島の価値を疑わないんだな。ここがなぜホイソベルク国というか、教えてあげよう。ここは、賢人ホイソベルクが住んでいた場所なんだよ」


「賢人が住んでいた場所ね。それで、それが島の価値となんか関係あるん?」

「ホイソベルクは島の外から来た人間だ。だから、ヤングルマ島の異常性をよく理解していた、危険性も同じく知っていた」


「異常性はわかるけど、危険性ってなに?」

「おっちゃんは、こう考えたことはないかな? 巨人の夢がなんでも叶う魔法の道具ではなく、実は巨人の夢の正体は、恐ろしい兵器ではないか、と」


「兵器やとは考えた過去は、ないな。でも、言われればわかる。凶獣、凶鳥、凶龍。あないな化け物を量産できれば、軍事転用も可能やな。物資が湧くなら、兵站の心配も要らん」


 ゲタは沈んだ顔で、考えを語った。

「誰かにとっては夢の道具でも、誰かにとっては、悪夢の兵器工場になりうる。巨人の夢にはそんな危険性が含まれている。なら、いっそ、誰の手も届かない場所に封じられたほうが幸せなのかもしれない」


「ユーリアの夢が終わるなら、悪人の手に渡る前に、島を滅亡させてでも封印したほうがええ言うのが、ホイソベルク人が出した答えいうわけか」


 ゲタが真剣な顔で告げた。

「正確には、私と数人の友人たちが到達した答えだ。もし、おっちゃんが島の封印に賛成なら、島を封印して二度と現れないようにする方法を教えよう」


「ずるいで、ゲタはんの考え。ゲタはんがやりたいと思うなら、ゲタはんがやったらええやん。なぜ、おっちゃんに、そんな(ひど)所業(しょぎょう)をさせようとするん?」


 ゲタが真剣な顔のままで告げる。

「巨人の夢によって創造された私には頭はあっても資格がない。だから、誰かが来たら考えを述べるが、実行はできないんだよ。その点、おっちゃんは違う」


「どう違うん?」


 ゲタが真剣な顔のまま語る。

「おっちゃんは神と同じく、ヤングルマ島の外から来た人間だ。これは重要だ。おっちゃんは望めば、王どころか、神にもなれる資質がある。ユーリアを継ぐ者だ。継承者だ」


「残念ながら、ゲタはんは思い違いをしておる。おっちゃんは、おっちゃんや。しがない、しょぼくれ中年冒険者や。それでええ。神様になんて、なりとうは思わん」


 ゲタが残念そうな顔をする。

「新たな神となってヤングルマ島を封印して欲しかった。だが、これでいいのかもしれん。私の考えは私の考え。私の夢は私の夢だ。私の夢は人に託す(たぐい)のものではないのかもしれん」


「すんまへんな。ご希望に添えなくて」


 ゲタが表情を柔らかくして述べる。

「何、いいってことだ。私の考えは選択肢の一つとして考えていてくれ。赤髭については知りたければ三日後に来てくれればいい。それくらいの時間では島は滅亡したりはしない」


 ゲタは微笑んで告げる。

「やる仕事ないなら、釣りでもして時を待つといい」

「今は釣りをする気分やないな」


「なにもないところだからな。釣り好きではないと暇かもしれんが、ゆっくりしていってくれ」

 おっちゃんは食器を綺麗に洗って鍋の横に置いた。おっちゃんはゲタのいる場所を離れた。


(三日後に来い言われてもな。なにをしよう)

 おっちゃんは街の人に赤髭について訊いた。だが誰も、赤髭の情報を持ってはいなかった。


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