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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ヤングルマ島【アーヤ国】
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第二百六十八夜 おっちゃんと見えない謎

 翌日、おっちゃんはホイソベルクに旅立つ前に寺院に寄った。

 寺男のイサムにヤスミナを呼んでもらう。


 おっちゃんは宿坊でヤスミナと会った。

 ヤスミナは姉のサリーマより少し背が低く、肩まで伸ばしたオレンジ色の髪を後ろで縛っていた。姉と同じく紫色の瞳をして、眉は細く二重瞼(ふたえまぶた)で、端正な顔立ちをしている。


 ヤスミナと話そうとする前に、誰かが窓の外で立ち聞きしている気配を感じた。ただ、相手は隠れるのが下手なので、おっちゃんからしたらまるわかりだった。


 おっちゃんはそれとなく気付かない振りをして、相手を確認する。

 隠れている人間はサリーマだった。


(なんや、サリーマはんか。聞きたいなら、一緒に聞いたらええやろうに)

 おっちゃんはサリーマも一緒に話を聞いてもらうか迷ったが止めた。

(隠れているのには、事情があるのかもしれんな)


 おっちゃんはヤスミナに向き直る。あまり話をした過去がないヤスミナは緊張した顔をしていた。

「急に呼び出して御免な。ちょっと訊きたい話があるんよ。以前に『夜の精霊』に呼ばれて巨人の石の前で何かを告げられたと教えてくれたやろう?」


「内容はよく思い出せないのですが」

「もしかして、その内容って、新たに生まれるヤングルマ島の継承者の話やなかったか?」


 ヤスミナがはっとした顔をする。

「そういわれれば、そんな話だった気がします」


 ヤスミナの顔に記憶が戻ったのか、とても(おび)えた顔をした。

「そうです。思い出しました。私はそこで『夜の精霊』からユーリア様が死に、次の継承者が決まる。その、継承者の候補が、サリーマお姉さまか私だと告げられました」


「そうか。それでヤスミナはんは、なんて答えたんや」

 ヤスミナが強張(こわば)った顔で告げる。


「『夜の精霊』は告げました。サレンキスト人は別にして、正統な継承者を除いてヤングルマ島で生まれた人間には巨人に託された夢は継げない。継承者が決まらない場合は島は滅びると。でも、私は島の未来を背負うほどの重圧に耐えられないと答えました」


「そうか。そしたら、『夜の精霊』はんはなんて答えた?」

「今はまだ決めなくてもよい。だが、いずれ時が来る、と」


(継承者は、サリーマかヤスミナやったんやな)

 ヤスミナの話にはまだ続きがあった。ヤスミナが困惑した顔で告げる。


「そう、それで、サリーマ姉さんが現れて。香水のようなものを私に吹き付けました。その後、私は『夜の精霊』に連れられて、神殿のような場所に連れていかれました」


(サリーマは『夜の精霊』と繋がっておったやと!)

「そんで、『夜の精霊』とは、神殿で何を話したんや?」


 ヤスミナが表情も暗く答える。

「すいません。『夜の精霊』との話は覚えていません。でも、『夜の精霊』と別れたあとは街の外にいたので、寺院に戻りました」


「そうか、わかった。ここで話した内容は秘密にしてや」


 ヤスミナが不安そうな顔で尋ねる。

「おっちゃん。ヤングルマ島は、どうなるんでしょうか?」


「おっちゃんかて、わからん。せやけど、おっちゃんはもっと情報を探ってみる。島を救う手懸かりはきっとあるはずや」


 ヤスミナとの話を終えると、立ち聞きしていたサリーマが静かに立ち去る足音がした。

 おっちゃんは、ヤスミナと別れてから考える。


(サリーマと『夜の精霊』が繋がっていたのなら、おっちゃんとサリーマの出会いは、仕組まれた出会いや。『夜の精霊』には、何かしらの意図があった。おそらく、サリーマとの接点を持たせるためにやったんやろう)


 現時点では『夜の精霊』が何者で、おっちゃんになにをさせたかったかは、不明だった。

 おっちゃんは頭を切り替えて、別の問題についても考える。


(ヤスミナを発見した時には靴を履いていなかった。あれはヤスミナが街を抜け出して歩いている最中に靴が脱げたんやない。ヤスミナは眠っている時に空を飛んで街から出た可能性がある。誰にも見つからんかった状況は、ナニルが使ったのと同じく『透明』の魔法が使える魔道具やな)


 では、『幻影の森』へと続いていた足跡は誰のか?


(サリーマの足跡やったら、どうやろう? サリーマは空飛ぶ靴を履き、まずは歩いて『幻影の森』まで移動する。そんで、途中から空を飛んで、ヤスミナと合流する)


 おっちゃんは、サリーマが採った行動の推理を続ける。

(サレンキストの薬をサリーマはヤスミナに吹き掛ける。意識が抜け出したヤスミナの意識体は、『夜の精霊』に連れて行かれた。その後、ヤスミナの体から証拠となる『透明』の魔法が使える腕輪と空飛ぶ靴を、サリーマは回収する)


 おっちゃんは、イネーフの話を思い出す。


(吹き付けられると意識が実体を伴なって体から抜け出す香水はサレンキスト人のシャイロックが持っていた。謎の香水をサリーマが持っとったとするなら、『夜の精霊』は、すでにサレンキスト人とも何らかの取引をしている可能性があるのかもしれん)


 実体を伴なった意識体のヤスミナを『夜の精霊』は遺跡に連れていった。そこまでは推測が付く。だが、そこで何があったかは、不明だった。


 おっちゃんは謎を横に置いて、推理を続ける。


(『幻影の森』には、マレントルク人は入れない。ヤスミナの体を『幻影の森』に隠しておけば見つからない。おそらく誰かが、ヤスミナの体を回収に来るはずやった。ところが、おっちゃんが先に見つけた。それで、ヤスミナが二人いう事態になったんやな)


 現時点では色々わかる情報もあったが、肝心な点が不明だった。

「サレンキストは接触したから、ぼんやりと動きがわかる。でも、ホイソベルクの行動は全くの未知や。それに、赤髭はんが攫われた理由も、全然わからん。ホイソベルクには、いったい何があるんやろう?」


 おっちゃんは、更なる情報を得るために、ホイソベルクに向った。

【アーヤ国編了】

©2017 Gin Kanekure

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