第二百六十七夜 おっちゃんと夢の終わりの始まり
翌日、おっちゃんは朝食を摂り終えると、対象に測量機器を選んで『物品感知』の魔法を唱える。
反応が街の中にあったのでグリエルモに会いに行く。グリエルモと合流すると、街の外で話をする。
「グリエルモはんに、お願いがある。ちょっとばかしヤングルマ島で調べて欲しい情報があるんよ。巨人の夢と、夢の世界についてや」
グリエルモが思案する表情で確認する。
「巨人の夢と、夢の世界についてか? 別に、いいけど。俺が測量班から抜けると、測量が遅れるかもしれないけど、いいのか」
「ええよ。このままやと、島に大きな変化があって地形すら変わるかもしれん。そうなったら、測量は無意味になる」
グリエルモが表情を曇らせる。
「地形が変わるとは、穏やかじゃないな。わかった。測量はイエル副班長に任せて俺は情報を集めてみるよ。おっちゃんはどうする?」
「おっちゃんはチョルモン王からガレリア国への親書を受け取り次第、一度キャンプ地に戻る。それから、マレントルク国経由でホイソベルクに入って、情報を集める」
おっちゃんはユーリアが亡くなったので、守護の木がどうなっているか見に行く。
守護の木は、まだ二本とも残っていた。
(ユーリアが死んでも、簡単には巨人の夢は終わらんのやな。守護の木が無事なら、巨人の夢はまだ続く。ポッペはんの言葉が正しいなら、守護の木が枯れても三日から一年の猶予があるらしいから、まだ時間は充分に残されている)
グリエルモと別れた二日後に、おっちゃんはお城から呼ばれた。
お城に出向くと、官僚からマレントルク王への返書とガレリア国王への親書を渡された。ガレリア国王へのお土産として、珍しい薬の数々を貰った。
おっちゃんは礼を述べて、親書とお土産を受け取る。家に帰って、マナンとダイルにお礼を言う。
「今日まで、ありがとうございました。おっちゃんはこれからマレントルクに戻って、ホイソベルクに行くわ」
マナンが寂しそうな顔をする。
「帰っちゃうんだ。もっと、ゆっくりしていけばいいのに」
「おっちゃんは冒険者やさかい、一箇所の場所には長くいられんのや。それに、まだ、ホイソベルクとサレンキストの調査が残っている」
「ホイソベルクの連中はわけわからない奴ばかりだし、サレンキストは危険な連中よ」
「それでも、行かなならんねん。島の探検はガレリア国王との約束やからな」
おっちゃんはマナンとダイルに別れを述べると、街の外から『瞬間移動』でマレントルク国にあるキャンプ地に飛んだ。
おっちゃんが戻ると、二番船の副船長がすぐにやってきて、困った顔で告げた。
「大変です、団長。赤髭船長が、奇妙な男に攫われました。奇妙な男は『赤髭船長を返して欲しければ、団長にホイソベルクに来い』とメッセージを残して消えました」
(赤髭はんほどの猛者を攫うとはな、奇妙な男、なかなかやりおるで)
「セバルはんはまだ戻ってこんか?」
副船長が弱った顔で告げる
「航路を考えると、あと数日は掛かります。どうしましょう?」
(これで、セバルはんも戻ってこんかったら、キャンプ地が不安やな。キャンプ地になにかあれば、本国と島との連絡が途絶える)
「わかった。マレントルクで用事を済ませたら戻ってくるわ」
おっちゃんはガレリア国王への親書とお土産を預けると、マレントルクへ向った。
マレントルクの街に戻って、マレントルク王に会う。
「ただいま、戻りました。時間が掛かりましたが、チョルモン王からの返書を持ってまいりました」
マレントルク王が鷹揚に頷く。
「ご苦労であった。それで、このあとはホイソベルクに行くのであろう? 儂からホイソベルクの賢人ゲタに宛てた親書を用意しておいたぞ」
「お気遣い、ありがとうございます」
おっちゃんは礼を述べて、親書を受け取った。親書を受け取ると、キャンプ地でセバルの帰りを待った。
一日、二日と待つが、セバルは帰ってこない。赤髭が遣り残した残務をこなしながら待つ。
キャンプ地に着いてから四日後に、セバルの船が戻ってきた。
「セバルはん、無事でなによりや。ちと、問題が起きた。二番船の船長の赤髭はんが、奇妙な男に攫われた」
セバルが驚いた顔をする。
「赤髭ほどの男が攫われたのか。それで、どうした? 身代金の要求とかがあったのか?」
「いや。わいに、ホイソベルク国に来い、とだけ指示された。それで、おっちゃんはホイソベルク国に旅立たねばならん。キャンプ地の運営をセバルはんに任せて、ええか?」
セバルが自信たっぷりな態度で請け合う。
「そういう事情なら、任せておけ。後方は、心配するな」
「マレントルク国からの土産と親書を受け取った国王の様子はどうやった?」
「今のところは、ガレリア側の心配はない。国王は満足している。引き続き島の情報を集めるようにとの仰せだ」
「わかった。ほな、キャンプ地の運営を頼む」




