表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
サバルカンド編
26/548

第二十六夜 おっちゃんと説明責任

 ザサンと別れて、冒険者ギルドに戻った。


 ギルドに戻ると、酒場には百人以上の冒険者が待ち構えていた。コンラッドがおっちゃんの前に進み出て、強い口調で切り出した。

「おっちゃんが、街の人のために働いている態度は理解している。街の人のために働く尊さもわかっている。だが、俺たちは冒険者だ。いつまでも、復興の名目に囚われた仕事だけはできない」


 ついに冒険者の不満が爆発したと思った。コンラッドが冒険者の代表だ。アリサがはらはらした顔で見守っている。


 コンラッドが眉間に皺を寄せて言葉を続けた。

「それに、ダンジョンの出入りを禁止にした人間はおっちゃんだと聞いた。もういいだろう。ダンジョンの封鎖を解くように領主に頼んでくれ。冒険者は冒険の日常に帰るべきだ」


「そうだ。そうだ」と、いくつもの合いの手が入る。


 冒険者の顔を見渡す。冒険者のほとんどがコンラッドに賛成していた。

(ここいらが良いタイミングやな。おっちゃんの演技力を見せたろう)


 おっちゃんは床に膝を突いて土下座した。

「すまん、みんな。おっちゃん、皆に隠していた情報があるんや。ダンジョンでモンスターの流出は止まった。だが、それは、おっちゃんの仕業じゃない」


 コンラッドが真剣な顔で訊ねる。

「それはいったいどういう意味だ」


「実は皆に隠していたんやけど、ダンジョンの地下十階に祖龍が出現したんや。祖龍のせいでダンジョンが今おかしくなっている」


 誰かが不審も露に口にする。

「おい、ちょっと待て、祖龍なんて本当にいるのか」


 おっちゃんは顔を上げて、真剣な表情を作る。

「確かな筋からの情報や」


 他の誰かが口にする。

「もしかして、祖龍がダンジョンに出現したから、モンスターが逃げ出そうとして、街に出てきたのか」


 ちょうど良い具合に間違っているので、誤った道に話を持っていく。

「そうかもしれないし、違うかもしれん。だが、ダンジョンから魔物はほとんど姿を消し、祖龍が居座っている状況に変わりはない」


 コンラッドが腕組みして、咎める口調で訊ねる。

「なんで、黙っていたんだ」


「祖龍がいると話しても、誰にも信じてもらえんかったやろう。それに、祖龍がいたとしても、倒せる実力があるもんが、当時はおらんかった。幸いに、祖龍は地下十階の外周をうろうろしているだけ。ダンジョンから出てこん。なら、ダンジョンを閉鎖したほうが、被害は少ないと思ったんや」

「なら、なんで、今になって、祖龍の話を」


「祖龍を放っておけん事態になった。祖龍を三日以内に倒さないと、サバルカンドが滅びる」


 酒場がざわめいた。コンラッドが振り向いて場を鎮める。


 コンラッドが腕組みしたまま、懐疑的な口ぶりで聞いてくる。

「その話は、本当なのか?」


「本当や」とおっちゃんは答え、立ち上がる。ギルド・マスターから貰った委任状を、コンラッドの目の前に突きつける。


「ギルド・マスターには、ダンジョンの現状を報告してある。判断を仰いだら、ギルド・マスターに指揮を任せられた」


 再びざわめいた。


 おっちゃんからアリサが委任状を受け取る。委任状を確認したアリサが真剣な表情で口早に話す。

「この委任状は本物です。ギルド・マスターは祖龍の出現を知っていたのね。まさか、ギルド・マスターは祖龍が現れる未来を予想して、対策を講じようとしていたんですか」


 真相は、わからない。もしかしたら、故意に祖龍を出現させた可能性もあった。ダンジョン・マスターは祖龍の素材を頂こうとしているのかもしれないが、真意は不明だ。


 おっちゃんは困っている態度を力強く熱演した。

「ギルド・マスターの胸中は、わからん。祖龍の出現を相談したら、委任状を渡された。こんな言葉を言えた義理やない。でも、頼む、サバルカンドを救うために、皆の力を貸して欲しい」


 冒険者たちの間でざわめきが大きくなった。コンラッドが振り返り、場を静める。


 コンラッドが難しい顔で訊いて来た。

「おっちゃん、作戦はあるのか」


「ない。祖龍に通用する策があるとは思えん。相手は伝説の祖龍や。勝ち目のある戦いやない。おっちゃん、死にたくない人間を無理に戦わせたくない。祖龍戦は志願制にする。祖龍と戦ってもええパーティはアリサに申し出て欲しい」


 すぐに、アリサに声を掛ける者はいなかった。頃合いよしと思ったので、皆に背を向ける。

「それじゃ、おっちゃんは、お城の人に事情を説明してくる」


 冒険者ギルド内で議論が開始される。冒険者をコンラッドが纏めてくれる空気だったので任せた。

 冒険者ギルドを出て、お城に移動、「火急の用や」と衛兵に伝える。


 エドガーはまだ起きていたので会ってくれた。エドガーは平服を着て、おっちゃんと向かい合う。

 夜中に会いに来たにも拘わらず、エドガーは不機嫌な顔一つしないで応じた。


「こんな夜更けに、なんの用だ。夜中に届く報告だ。良いものではないのだろう」


「実は頼みたい内容があって来まして。ダンジョンの出入り禁止を解いてください」


「ダンジョン出入り禁止解除の触れを出す行為は構わない。そろそろ、いい時期だと思っていた。用件はそれだけか」


「実はダンジョンに祖龍が出ました。祖龍を三日以内に倒さないと、サバルカンドは滅びると、冒険者ギルドのギルド・マスターは断言しています」


 エドガーが疑いも(あらわ)に訊ねる。

「祖龍が出たなどと、本当なのか」


 おっちゃんは頭を下げた。

「本当だから、こんな夜更けに来ました。冒険者ギルドは持てる限りの力で、明日から戦います。ですが、相手は伝説の祖龍。勝てるかどうか、わかりません」


 エドガーは険しい顔で、唸ってから命じた。

「そうか、わかった、下がっていいぞ」


 おっちゃんは一礼してお城を出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ