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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ヤングルマ島【アーヤ国】
252/548

第二百五十二夜 おっちゃんと『始祖の木』

 翌日、マナンが食べ終わった食器を回収に来た時に尋ねる。

「『始祖の木』を見たいんやんけど、どこに行ったら見られるかの?」


 マナンが素っ気ない態度で答える。

「変わっているわね。『始祖の木』を見たいなんて。『始祖の木』なら家にもあるわよ」

「そうなん、各御家庭に一本あるような木なんか?」


 マナンがツンとした態度で答える。

「そんなにどこにでもあるものではないけど、庭が広い家には一本あるわよ」

「やっぱり、マレントルクの共用採石場のように、皆が使える共用の『始祖の木』とかあるの?」


 マナンが馬鹿にしたような顔で怒り気味に発言する。

「貴方は全く『始祖の木』についてわかっていないわね。大勢の人で『始祖の木』を共用なんかしたら、木が病気になっちゃう。下手すれば『始祖の木』から魔物が出るわよ」


「そうなんや。『始祖の木』は鉱物以外なんでも出る便利な木やと思うとった」


 マナンが自慢げな顔で講釈する。

「いい? 『始祖の木』ってものはね、三日、祈りを捧げると、四日目に花が咲いて、五日目に実がなって、七日目に熟して割れるのよ。たいていは願いを懸けた物が出るわ。でもね、時折おかしな物も出るの」


「そうなんか? 実がなるまでけっこう時間が掛かるんやね」


 マナンが得意気な顔で語る。

「そうよ。大きすぎる実は最悪、魔物が出る時もあるから、注意が必要なのよ。魔物の出現を避けるためには、大きすぎる実が熟して落ちる前に、こちらから実を割ってやらなければならないのよ」


「単純に欲しい物が欲しいだけ手に入る木やないんやな」


 マナンが思いついた顔で命令する。

「口でいうより見たほうが早いわね。いいわ、今日一日、おっちゃんには『木の実番』をやってもらおうかしら。ご飯を作って上げているんだから協力しなさいよ」


「家の手伝いは構わんよ。おっちゃんも『始祖の木』には興味あるから」

「協力してくれるのね。なら、待ってなさい。準備してくるから」


 マナンが気分も良い顔で、おっちゃんの家を後にする。一時間後にマナンがやってきた。

 おっちゃんはマナンに案内され、マナンの家に行く。


 マナンの家の庭には幹の太さが八十㎝、高さが三mほどで、枝葉が横に広く拡がっている木が立っていた。木には、人間の赤ん坊が入れるくらい大きな虹色の実が五十近くも(みの)っていた。


 マナンが誇らしげな顔で語る。

「どう? これが『始祖の木』よ。家は樹医をやっているから木は健康そのものよ」

「木は普通の木やけど、実は確かに変わっとるね。虹色の実なんて初めて見たわ」


 マナンが残念そうな顔で告げる。

「樹医がいる家庭の人間に言わせてもらえば、普通の木なんて名前の木はないわ。だけど、外国人にはわからないのね」


「すまんの。おっちゃんには、特徴のある椰子の木や白樺の木なら区別が付く。せやけど、他の木は区別が付かん」


 マナンがいささかがっかりした顔で指示をだす。

「そんなものかもしれないわね。おっちゃんの仕事は木を見ていて実が熟して落ちたら、実を拾う。それで、このハンマーで実を割って中から米を取り出して、こっちの袋に入れるのよ」


 マナンが庭の隅ある麻袋とハンマーを指し示して、教える。

(木から米が穫れるって、異常やけど、ここはヤングルマ島やからね)


 麻袋を確認していると、マナンが別の小さな袋をおっちゃんに見せる。

「家の木は優良木だから米以外が出る確率は少ないわ。けど、違うものが出たら、こっちに入れておいて。袋に入らないものが出たら、それはその都度に対処して」


「魔物が出たら、退治するん?」


 マナンが素っ気なく教える。

「この大きさの実なら魔物は出ないわよ。魔物が出る実はもっと大きいから」


 おっちゃんは庭に用意された椅子に腰掛けて、木を見張る。二時間ほど観察していた。

 実の一つが落ちた。実を縦に置いて軽くハンマーで頂点を叩く。


 実がぱっくりと割れて、中からザーッと玄米が零れ落ちてきた。

「本当に中から、米が出てきたで。しかも、玄米で出てきよった。これだと、脱穀する手間が省けるね。それに、米が一週間でできるなら、これまた便利やわ」


 おっちゃんが袋に米を詰めていると、次の実が落ちる。次の実を割っていると、他の実が落ちる。そこから、実がどんどん落ちてきて、地面に転がる。


「落ち始めるとほぼ同じ頃に落ちるんか。これ大変やで」


 おっちゃんは落ちた実を拾う。実を割って米を出して袋詰めにする作業を終えた。

 実の中身のほとんど米だった。されど、粟と稗が入っていた実が二個。空の実が一つ。内臓を抜かれてスモークされた鶏肉が入っていた実も一つあった。


「粟や稗が出るのは、わかる。せやけど、スモーク・チキンが出る実があるとは思わなかったわ。畏るべきは『始祖の木』やね」


「どう、終わった?」と、全ての実が割り終わる頃、マナンが機嫌よくやってくる。

「分別完了しました。米が百㎏、粟と稗が八㎏、スモーク・チキンが一羽、出ました。あと、空の実が一個や」


 マナンが、まずまずの顔で語る。

「当たりが一個に、外れ一個か。上出来ね。いいわ、米だけを荷車に積んで。荷車を引いて税務署と市場に行くわよ」


「『始祖の木』から出た物に、税金が掛かりますの?」


 マナンが「なにを当然の内容を聞くんだ?」の顔で言い放つ。

「当たり前でしょ。『始祖の木』を持つ家が税を納めなかったら、どうやって国がやっていくのよ。『始祖の木』を持つ家は、国を支える義務があるのよ」


「そういう制度なんやね」


 おっちゃんはマナンの指示通りに、米を荷車に積む。

 積み込みが終わると荷車を引いて、木造二階建ての倉庫のような建物に行く。


 建物の入口には『アオハブの木』でできた建物があった。

「納税に来ました」とマナンが入口の建物で元気よく声を掛けると、老いたアーヤ人が出てくる。


 老いたアーヤ人がニコニコ顔で書類を確認する。

「マナンさん、ご苦労様。今回は米の納税だね。次回は大豆か小豆の納税をお願いできるかな」

「わかりました。次回は小豆を作って持ってきます。おっちゃん。米を半分、下ろして納税して」


 おっちゃんは言われた通りに、米を税務官に渡した。税務署の帰りに訊いた。

「次回は小豆を持ってくるって、『始祖の木』から好きな物を作ったらあかんの?」


 マナンが得意げな顔で語る。

「皆が皆、好きな物を作ったら、物資に過不足が出るでしょう。だから、偶数月に作るものは、指定されるのよ。そうして、特定の物資が不足しないように役所で調整しているの」


 マナンはおっちゃんを連れて市場に行く。マナンが市場の穀物商に今日も米の売値を訊く。

 売値を訊いたマナンは考えてから、おっちゃんに指示を出す。

「米の値段が上がっているから、一袋を残して全部を売るわ」


 おっちゃんが米を下ろして、マナンが木貨を受け取る。

 家に帰って残りの米を家に戻す。マナンが感謝の色を顔に浮かべて、礼を述べる。

「助かったわ、おっちゃん。女手一つだと荷車を引くの大変なのよ」


「なんの、なんの。手が空いていたら手伝うさかい、気軽に声を掛けてや」


 その日の夕食はスモーク・チキンと雑穀粥が出た。

 スモーク・チキンを齧るが、塩気が薄いだけで、普通に食べられた。



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