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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ヤングルマ島【アーヤ国】
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第二百四十八夜 おっちゃんと座敷牢

 太い格子状の竹が並ぶ座敷牢の中に、男が一人、寝転がっていた。

 男性の身長は百七十㎝、厚手の青の服を着て武器は取り上げられている。歳は四十三と、いっている。丸顔で無精髭を生やしており、頭頂部が少し薄い。おっちゃんと名乗る冒険者だった。


 おっちゃんはサレンキスト人の間者だと間違われ捕えられていた。マレントルク国王の書状は持っていた。だが、アーヤ国の国王チョルモンは書状を偽物だと断じて、おっちゃんを牢に入れていた。


「参ったのう。マレントルクには確認すると話していたけど、もう五日。これ、座敷牢から出られるのがいつになるかわからんで。飯が麦飯と漬物だけやから飽きてきた」


 外が騒がしくなった。しきりに笛が響く音がする。建築物が壊れる大きな音がした。人々の悲鳴も聞こえてきた。

「なんや? 外で事件か? お城が襲撃されとるみたいやな。こうしてはおれん」


 おっちゃんは竹の格子に近づくと、着ていた服を脱いだ。裸になり猫の姿を念じた。おっちゃんの体がみるみる縮み猫になった。


 おっちゃんは人間ではない。おっちゃんは『シェイプ・シフター』と呼ばれる、姿形を変化させられる能力を持ったモンスターだった。


 猫になったおっちゃんは座敷牢の外に出る。今度は人間の姿を念じて人の姿に戻る。

 格子の隙間に手を突っ込んで下着や服を引っ張り出して着る。


 次いで、おっちゃんは『通訳』と『透明』の魔法を唱えた。おっちゃんは魔法が使えた。どれほどの腕前かというと小さな魔術師ギルドのギルド・マスターが務まるくらいの腕前だった。


 おっちゃんは透明になって通路を進む。

 兵士の詰所には見張りの兵士はいなかった。兵士の詰所にはおっちゃんの剣が置いてあった。回収して牢を出て外に行く。


 短弓を手にしたアーヤ人の兵士が戦っていた。アーヤ人は身長百五十㎝。肌の色は緑色で河馬のような顔をしている。頭髪はなく、金色の眼をしている。兵士は木の蔓を編んだ鎧を着て、木の兜を被って腰には鉈を下げている。


 アーヤ人の相手は全長二十mほどもある巨大な烏だった。アーヤ人の弓は烏に当たっているが矢は全て弾かれていた。


 烏が口を開くと衝撃波が下方向に発射される。衝撃波の威力は強く、木造建造物を破損させ兵士を吹き飛ばす。


 兵士は果敢に戦っていたが、戦況は烏が一方的に押していた。別の兵士たちが車輪の付いた大きな竹筒をいくつも押して戦場に現れた。


「蔓草砲が届きました」「撃ち方用意」と兵士の間で会話が飛び交う。兵士が竹筒についているレバーを操作して発射角度を調整して、烏に砲身を向ける。


 兵士が竹筒の尻を叩く。「ビョン」の音がして、蔓がついた丸いココナッツが飛び出し、烏に飛んでいく。


 弾の速度が遅いためか大烏はやすやすと回避する。兵士が竹筒についているハンドルを回すと、蔓が引っ張られココナッツの球が砲身に戻る。


 再び、兵士が竹筒の尻を叩くと弾が飛んでいく。だが、烏は楽に回避する。兵士が再度、砲身に弾を戻すが、次は烏の衝撃波で兵士が吹き飛ばされた。


 兵士が泣きそうな声を上げる。

「駄目です。バータル隊長。蔓草砲が当りません」


 年配で金色の髭を生やした、アーヤ人の隊長のバータルが悔しそうな声を上げる。

「おのれ、弾さえ当ればあんな烏など」


 傍からみれば、ココナッツの弾が当っても烏にダメージが与えられそうには見えなかった。だが、兵士たちの間では蔓草砲に一縷の望みを懸けていた。


(大した威力がなさそうやけど、あの弾が当ったら、爆発でもするんやろうか)


 烏が馬鹿にしたように空中で器用にホバリングして「アホー」と鳴き声を上げる。烏は蔓草砲の付近にいる兵士を衝撃波で狙い撃ちにしていく。


 おっちゃんは人がいなくなった蔓草砲にそろそろと近づく。烏の注意が逸れたときに、見よう見まねで、蔓草砲を操作して狙いを定める。


 烏が背を向けて油断したときに、弾を発射した。

 おっちゃんの『透明』の魔法が解除され、「ビョン」の音を上げ弾が飛んでいく。弾が命中する。弾が割れてピンクの液体が出て、弾と烏の身体が接着された。


 烏は竹筒を引きずって上昇しようとする。おっちゃんは『強力』の魔法を唱え、引き上げられそうになる蔓草砲を引っ張った。


 おっちゃんの力により烏が数秒、空中で動きが止まる。

 烏にできた隙を見逃さず、次々と蔓草砲から弾が発射される。二発目、三発目が命中する。


 兵士たちは蔓草砲に付いているハンドルを回す。

 蔓が引っ張られ烏の体が、地面へと引きずり下ろされた。

 おっちゃんも同じようにハンドルを操作して、蔓を巻き烏を地面に下ろす。


 烏が地面に下ろされると、兵士が一斉に地面に触れた。

 地面から尖った竹が勢いよく飛び出し烏を襲う。烏の体が竹に覆われて球状になる。


「やったか」とバータルが厳かな顔で声を上げる。

 竹の中から烏の翼と嘴が現れて、烏が暴れる。


「駄目です。竹槍が通じません」と兵士が悲壮な声を上げる。


 おっちゃんは駆け出す。

『高度な発見』の魔法と唱えると、烏の眉間に反応があった。おっちゃんは揺れる竹の上をするすると登る。おっちゃんは烏の上に陣取ると、剣を抜いて烏の眉間に突き刺した。


 烏が一声も上げることなく、ぐったりとし、黒い煙が発生する。烏は溶けるように消えていった。

 剣をしまうとバータルが満面の笑みでやってくる。

「お見事。よくぞ、凶鳥を退治してくれました」


 バータルがそこで、不審そうな顔をする。

「ところで、貴方は誰ですか?」


 兵士の一人が驚きの声を上げる。

「その男は脱走者です。マレントルクの王子を騙る偽者です」


 兵士たちが鉈を手に、おっちゃんを囲む。おっちゃんは両手を上げる。

 おっちゃんはそのまま武器を取り上げられて、座敷牢に戻された。


 武器を取り上げられて、二時間後。兵士が牢の前にやってきて、強張(こわば)った顔で牢を開ける。

「チョルモン国王がお呼びです」


 おっちゃんが牢を出ると剣を返された。

「武器を携帯してええの?」と訊くと、兵士が強張った顔のまま頷く。


 おっちゃんが兵士に従いていくと謁見の間に通された。

 謁見の間は木の床の部屋だった。木の床の一段階高い場所に、草で編まれたカーペットが敷かれていた。


 カーペットの上には蔓草でできた座椅子があり、身分の高そうなゆったりした赤い服を着た年配のアーヤ人が座っていた。年配のアーヤ人の周りには左右五人ずつ兵士が控えていた。


 おっちゃんを連れてきた兵士が緊張した顔で告げる。

「国王のチョルモン様の御前です。お座りなさい」


 おっちゃんは床に座る。

 チョルモンが疑いの篭った眼差しを向けて話し出した。

「お主はおっちゃんと名乗っているそうだな。先に烏の凶鳥が現れた際、お主は逃げられた。にもかかわらず、この国のために戦ったのだそうだな。何ゆえ戦った?」


「おっちゃんは友好国マレントルクからの遣いです。友人が襲われているのを見たら、助けるのが普通でっしゃろ」


 チョルモンがおっちゃんを見下しながら確認する

「あくまでもサレンキストの間者ではないと申すのだな」


「容姿がサレンキスト人に似ているから、間違えられても、しかたありません。前にも弁明しましたが、おっちゃんは海の向こうのガレリア国の人間でして、サレンキスト人ではありません」


 チョルモンが不審も露に話す。

「海の向こうに国があるなど、とうてい信用できない。だが、ここで、海の向こうにある世界を、信用する、しない、と議論しても時間の無駄だ。おっちゃんには神の試練を受けてもらう」


「なんですの? 神の試練って?」


 チョルモンは難しい顔をして告げる。

「この城の地下には六つの試練に綱がる『地下宮殿』がある。そこに下りて、試練を一つでも達成できれば、おっちゃんをマレントルクからの正式な使者と認めよう。海の外に国がある話も信じよう」


(なんや、アーヤ国にも地下宮殿があるんか)

「わかりました。その話をお受けしましょう」


 おっちゃんはその日は地下牢ではなくお城の一室をあてがわれた。


 部屋の入口には見張りがいたが、おっちゃんは気にしない。食事は麦飯だったが、おかずには漬物の他に汁物と揚げ出汁豆腐が付いていた。


 部屋には風呂もあったので、水風呂で汗と泥を流して明日に備える。



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揚げだし豆腐!!素晴らしい!
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