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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ヤングルマ島【マレントルク国】
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第二百四十五夜 おっちゃんと凶獣(前編)

 ロニイを救出した夜におっちゃんは不思議な体験をした。意識があるのに体が動かなかった。そんな闇の中で、おっちゃんは男の声を聞いた。


「巨人の見る夢が終わる時、世界に終末が訪れる。巨人が見た夢が終わらない時、それでも、世界は続かない。世界は紡ぐ物語。物語は終わらない」


 男の声が言いたい内容を話すと、おっちゃんは深い眠りに落ちた。

 おっちゃんがロニイを連れて戻ってきた翌日には、ロニイの帰還とおっちゃんが試練を一つクリアした情報が街に流れた。


 街は帰還した王子様と新たな王が誕生する期待に沸いた。

 おっちゃんは街の熱気が収まるまで宿坊でごろごろと過ごそうと決めた。


 おっちゃんの食事を持って来たイサムが何気なく質問する。

「こんな宿坊に寝泊まりせんでも、お城に行けばもっといい暮らしができますのに。なぜ、この宿坊に逗留なさるんですか?」


「ここかて、天国やで。それに、おっちゃんは、イサムはんが作る飯は美味いから好きや」


 イサムが笑って答える。

「私の料理なんて、本職の料理人に比べたら天と地ですよ」

「おっちゃんは、素朴な味が好きやねん。それに、この宿坊は手入れが行き届いて、とても居心地がええねん」


「そうですか。変わったお方ですね」


 おっちゃんが宿坊で二日を過ごすと、ロニイが訪れ殊勝な顔で頭を垂れる。

「スフィアン兄さん、助けてくれて、ありがとうございました」


「おっちゃんはスフィアンやないよ。呼び名も、おっちゃんでええよ。でも、元気になれてよかったな。王様も『王石』を持った人間が戻ってきてくれたら、嬉しいやろう」


 ロニイが暗い顔で答える。

「王位の件ですが、僕は試練に臨みあえなく失敗しました。この命だって、スフィアン、いえ、おっちゃんが救ってくれなかったら、『地下宮殿』で消えたでしょう。僕には王位に就く資格がありません」


「どういう形であれ、生きて帰ってきたのなら気にしなさんな。ダンジョンでは生きて帰ってきた者は形を問わず勝者なんや。幸運も実力のうちや。もっとも、ダンジョンの怖さを知って、もう行かんいうなら、それでええ。ダンジョンに無理は禁物や」


 ロニイが表情を曇らせておずおずと口にする。

「おっちゃんの言葉はありがたく受け取ります。それで、その、おっちゃんとサリーマの結婚の話なんですが――」


「心配せんでも、おっちゃんはサリーマと結婚する気はないよ。王様や巫女長から話が来ても断ったる。だから、心配は要らない。ロニイはんが好きなら、サリーマと結ばれたらええ」


 ロニイが安堵した顔をして、次に躊躇いがちな表情になる。

「そうですか。でも、正直、僕はサリーマからの告白を受けて戸惑っています。サリーマは妹のような存在でした。でも、戻ってきたら、いつのまにか、僕より年上になっていた」


「ロニイはんは、戻ってきたばかりなんや。少しの間はのんびりしたらええ。心配せんかて失われた時間はきっと埋まるで」

「ありがとうございました。このお礼は必ずします」


 ロニイが帰ると、グリエルモが入れ替わりにやってきて、怖い顔で告げる。

「おっちゃん。『幻影の森』に入った測量班からの報告だ。『幻影の森』と平野の境に小山のように大きい黒岩を見つけた、との連絡があった」


「黒岩ってモンスターが出てくる岩やろう。大きいなら早めに対処せなあかんな」


 グリエルモは真剣な顔で訊く。

「先ほど寺院の人間には事情を伝えた。これから見に行くけど、おっちゃんも一緒に来ないか?」

「ええで。一緒に行って確認するわ」


 巫女長、グリエルモ、測量班の人間を伴って『幻影の森』に向う。測量班の人間が森の境界に沿って西に数㎞ほど進んだ。


 森と平野の境目に大きなクレーターのような地面があった。クレーターの中心には、直径五十mはある巨大な黒光りする岩の塊があった。


 巫女長が岩に近づき、触って暗い顔で告げる。

「この大きさの黒岩を大地に戻す術はない。しかも、この大きさ。これは凶獣を生み出すやもしれん」


「凶獣ってなんやの?」


 巫女長が鬼気迫る顔で告げる。

「数十年あるいは数百年に一度、生まれる、恐ろしく強い魔物だ。記録によれば、百年ほど前にも出現したとある。今、中身を透視してみよう」


 巫女長は黒い岩の前で印を組み、なにやら呪文を唱える。巫女長が目を閉じて、厳かに告げる。

「見える、見えるぞ。中にいる魔物は、百年前マレントルクを襲ったのと同じ亀の凶獣じゃ。むむ、この凶獣が(かえ)る日は近い。七日後に孵るであろう。残された猶予は、わずかじゃ」


「巫女長はん。百年前は亀の凶獣をどうやって倒したかわかる?」


 巫女長が暗い顔で告げる。

「亀の凶獣には炎も武器も通じない。百年前は街の人間の命を犠牲にする禁断の秘術にて巨人を呼び出して、海に凶獣を投げ捨てた。すると、亀の凶獣は海に沈んで溺死した、と記録にある」


「もしかして、『亀の入江』って、凶獣を投げ捨てた歴史が関係しとるんか」


 巫女長が苦しそうな顔で告げる。

「そうじゃ。伝承では『亀の入江』にある崖より巨人が亀の凶獣を投げ捨てた。まさか、儂が生きているうちに、禁断の術に手を出さなければいけない日が来ようとは」


「七日も猶予があるなら、禁術を使って島の人間を犠牲にしなくもよろしい。おっちゃんたちで、この亀の凶獣を海に捨ててこよう」


 巫女長が呆れた顔をする。

「これほど大きな黒岩だぞ。どうやって捨てるのだ」


「浮遊石や。マレントルク中の浮遊石を集めるんや。黒い大岩に浮遊石を付けて軽くする。そんで、地面に丸太を敷いて上を滑らせ、人の手で『亀の入江』まで運んでいく。そこから海に落として、船で引っ張って、沖合に運べばええやん」


 巫女長が険しい顔をする。

「理論的には、できるかもしれん。だが、一大事業だぞ」


「人間が大勢いれば、やってやれない話やない。巫女長はんは、浮遊石を集めるの手伝って。丸太の伐り出し準備と、輸送経路の算出は、グリエルモはんに任せる。おっちゃんは王様に話をつけて、人を集めるわ」

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