第二百三十七夜 おっちゃんと王石(後編)
外に行くと豪奢な馬車が待っていた。
馬車に乗ると、馬車はお城に着いた。おっちゃんは巫女長に連れられ謁見の間に行く。謁見の間に行くと、王と王の息子二人が待っていた。
王は厳かに尋ねる。
「おっちゃんよ。『王石』を掘り出したとは真か?」
「へえ」と返事をして『王石』を見せた。侍従が寄って来たので『王石』を渡す。
侍従が『王石』を持って王様の前に進む。王様が『王石』を確認する。
王様が眉間に皺を寄せて目を細める。
「間違いない。これは『王石』だ。王族でもないおっちゃんの前になぜこれが――」
王様がハッとした顔をする。
「おっちゃんよ。そなた、年は幾つで? 生まれはどこだ?」
おっちゃんは流しでダンジョン・モンスターをしている家に生まれたので、出生地は覚えていない。父親の話では、西大陸の西の外れにある『魔都イルベガン』だと聞かされていた。
(正直に答えても、ややこしくなるだけやな)
「おおまかな年齢は四十三やとわかっています。でも、どこで生まれたかは、わかりません。おっちゃんの生まれがどうかしましたか?」
王様が悲しみを帯びた表情をする。
「マレントルクには四十四年前、王宮から忽然と姿を消した赤子がいた。名をスフィアンと言う。おっちゃんよ。もしや、そなたの正体は儂の第一子のスフィアンでは?」
(あらー、王様は、とんでもない勘違いをしているよ)
おっちゃんは王様の息子の顔を窺う。
年下の王子はどうでもいい顔をしていた。だが、皇太子は非常に面白くなさそうな顔をしていた。
(これ、まずいね。下手すると闇夜で暗殺とかあるね。王様は利権の塊やからね)
「ちゃいますよ。おっちゃんはスフィアンではありません。人違いですわ」
王様が頑なな表情で食い下がる。
「では、『王石』の出現はなんとする。皇太子ウサマも、第三王子のナニルも、いまだに『王石』を出せてはおらん。大地が認めた王はおっちゃん、いや、スフィアンだけなのだ」
「ほな、こうしましょう。『王石』はおっちゃんが王様に献上します。王様が王になってほしい息子にあげてください」
王様は激しく怒った。
「馬鹿者。『王石』は譲渡ができる品物ではない。『王石』は王たる資質がない者の前には現れない。資質がないものが無理に手にすれば、災いが降り掛かる石なのだ」
(面倒臭い石を拾ってもうたな。ある意味、呪われたアイテムと一緒や。捨てられもしなければ、売れもせん)
「そうでっか。でも、おっちゃんは王座に興味がないから、こんな石は要らんのやけどな」
王様は厳しい顔で発言した。
「わかった。すぐに決断しなくてもいい。だが、スフィアンよ。覚えておけ。『王石』の決定からは逃げられない、とな」
おっちゃんは王宮を出ようとした。すると、皇太子のウサマが寄ってきた。
ウサマがおっちゃんをきつく睨み言い放つ。
「おっちゃんよ。余は絶対にスフィアンとは認めんからな」
「そうか。ほな、ちょっと向こうで話ししましょうか」
おっちゃんはウサマを宮殿の柱の陰に引っ張っていく。
「あんな、おっちゃんな、ほんまにこの石は要らんねん。よかったら、買い取ってくれへん。価格はなんぼでもええわ」
ウサマは驚いた顔をした。
「本当にいいのか? 王たる資格を認める石だぞ」
「ええねん、ええねん。王座なんて、おっちゃんにとっては、重いだけや」
ウサマは人が見ていない情況を確認する。ウサマは真剣な顔で胸ポケットに手を入れ、大粒のダイヤモンドがついた金の鎖を取り出す。
「金は持ち合わせていない。だから、ダイヤモンドをやる。ここまで大粒のダイヤモンドは滅多に見られない貴重品だ」
「話がわかるな。ほな、交換しよう」
おっちゃんは『王石』と大粒のダイヤモンドを交換し、わざとらしく声を出す。
「いやあ、ウサマはんがいいひとで助かった。話せば、わかってくれるもんやな、ほな、おっちゃんは宿坊に戻るわ」
おっちゃんは機嫌よく歩いて宿坊に戻った。
その日の夕食はスープ・カレーだった。おっちゃんがカレーの入った椀にスプーンを入れると、ガツンと硬い何かに当たった。
スプーンで椀の底を攫うと、『王石』が出てきた。
「なんで、スープ・カレーの椀に『王石』が入っているんや?」
イサムがやったとは思えなかった、間違って混入する品でもない。
おっちゃんは、すぐにお城に行ってウサマを呼んでもらう。
「ウサマはん、『王石』がおっちゃんの許に戻ってきた。ちゃんと管理しとかんとあかんよ」
『王石』をウサマに渡すと、ウサマが険しい顔をする。
「そんな、馬鹿な。『王石』は厳重に管理しといたはずだ。わかった。今度は失くさないようにする」
「ほんまに頼むで」
おっちゃんは料理屋で食事をしてから宿坊に帰った。食器は下げられていた。
夜になる。おっちゃんはベッドに入ろうと、掛け布団をはぐる。すると、『王石』が出てきた。
「なんや、また、戻ってきたで。気味の悪い石やで」
おっちゃんは『王石』をボロ布に包むと外に出る。誰も見ていない情況を確認して街の公共のゴミ捨て場に『王石』を捨てる。
そのまま、走って宿坊に帰る。ドアを開けると、おっちゃんより先に『王石』が玄関に戻っていた。
「これ、あかんな、何がなんでも、おっちゃんの許を離れんようになっとる」
翌朝、ウサマを訪ねてお城に行く。『王石』を見せると、ウサマは驚きを隠せなかった。
「なんで、『王石』がおっちゃんのところにあるんだ」
「わからん。気がついたら、いつもおっちゃんの手元に戻ってくる。街のゴミ箱に捨てて走って宿坊に戻ったけど、わいより先に宿坊に石が戻ってきた。もう、気味悪いわ」
ウサマが神妙な顔で申し出る。
「わかった。もう一度だけ、預からせてくれ。それでも、もし、おっちゃんの許に戻るようなら、これは天命だ。天命には逆らえない。俺もおっちゃんが兄のスフィアンだと認めよう」
「おっちゃんは、おっちゃんであって、スフィアンでは全然ないんやけどな」
おっちゃんは『王石』を渡してお城を去った。
宿坊に戻るとサリーマが怒った顔で注意する。
「おっちゃん、ダメですよ。こんな大事な物を落としたら。失くしたらどうするんですか」
サリーマが差し出した物は『王石』だった。
「ありがとうな」と口にするが、おっちゃんの心中は、穏やかではなかった。