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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ヤングルマ島【マレントルク国】
232/548

第二百三十二夜 おっちゃんとマレントルクの『幻影の森』(後編)

 ポッペが元気良く尋ねる。

「おっちゃんは、なんで幻影の森に来たんだ。武者修行か?」


「ちゃいますよ。森にヤスミナいう巫女さんが入っていったんで、連れ戻しにきたんよ。足跡がここで終わっているし、もしかして、ポッペさん、なにか知らん?」


 ポッペが威勢よく発言する。

「人間は捕まえたら、森の外に捨てるんだ。だから、他の魔人が見つけていたら、もう森の外だと思う。ただ、もし魔人の誰かが見つけてないと、面倒な事態になっているかもしれないな」


「魔物に襲われた、とか?」


 ポッペが大きく頷いて明るい声で指示する。

「よし、考えるより、行動したほうがいい、従いてきなよ。近くの『巨人の石』まで、案内してやるよ」


 ポッペが元気よく歩き出したので、聞く。

「『巨人の石』って、どんなところなん?」


 ポッペが機嫌よく教えてくれる。

「幻影の森にところどころある大きな石だよ。ときおり、幻影の魔物を生み出す厄介な石さ。壊しても、またすぐに出てくる面倒な物でもある」


「幻影の魔物っていうくらいやから、幻なん?」

「幻影の魔物は幻だけど、実体を持っているんだ。だから、触れもすれば、攻撃もしてくる。だけど、幻だからあまり頭はよくないし、作り物だから、倒してしばらくすると、消えるんだ」


(なるほど、マレントルクを襲ったファイヤー・ドラゴンも幻影の魔物やったんか。それなら納得がいくの。それにしても、ほんまに変わった島やで)

「ポッペさんの他にも、魔人さんて幻影の森に住んでいますの?」


 ポッペが得意げに内情を語る。

「大勢いるよ。でも、人間には詳しくは教えちゃいけないんだ。人間は色々と知りすぎると、愚かな考えを起こすから」


(魔人にも色々あるんやな。人間とあまり深く関わっていかんのなら、色々と訊くと、ポッペはんを後々苦しめるかもしれん、あまり訊かんとこう)


 おっちゃんは適当に相槌を打った。

「そういうものかもしれませんね」


 おっちゃんが黙ると、ポッペは語らない。ポッペは、おっちゃんが黙っても機嫌よく森を進んでいく。


 三十分ほど進むと、地面がお椀状に三mほど窪んでいる場所があった。窪みの中心には高さが五m、直径三mの人の顔をした石があった。石の前には誰かが倒れていた。


「ほら、あれが『巨人の石』だよ」とポッペが気軽に発言した。おっちゃんが地面を下りていって倒れている人間の傍に寄る。


 相手は女性だった。女性はサリーマに似ていた。ただ、サリーマより少し背が低く、肩まで伸ばしたオレンジ色の髪を後ろで縛っていた。眉は細く、二重ふたえ瞼で端正な顔立ちをしていた。


 格好はサリーマと同じような石巫女の服を着ていたが、靴は履いていなかった。

 心音や呼吸音を確認する。女性は眠っているようだった。


「ヤスミナはんのようやな。無事やったんか」


 おっちゃんがヤスミナを背負おうとすると、ポッペが気前よく申し出た。

「人間は重いだろう。貸して。俺が運んでやるよ。どうせ、森に来た人間は見つけて外に運ぶのが決まりだし」


 おっちゃんは悪いと思った。でも、ポッペがどうやってヤスミナを運ぶのか、興味があった。

「そうでっか、ほな、頼めますか?」


「よっ」と掛け声を掛けると、ポッペはヤスミナを両手で頭の上に担ぎ上げた。そのまま、鼻歌交じりに小走りに移動を開始した。

「ポッペさん、待って」


 おっちゃんも走ってポッペを追った。

 ポッペは森の中をすいすいと走っていく。おっちゃんは後方から従いていくだけで精一杯だった。


 二十分足らずで森の外に出た。

「到着」とポッペが元気よく声を出すと、ヤスミナを下ろした。

「悪いけど、森の外にはいけないから、ここから先はおっちゃんが運んで」


「助かりましたわ。ありがとうです。何かお礼がしたいんですけど、何がええですか?」


 ポッペが笑顔で要望を出す。

「なら、食い物を持っていたらちょうだい」


 おっちゃんは持っていた食料を全てポッペに渡した。ポッペは食料の贈り物を喜んだ。

「けっこう持っているね。あ、魚があるね。おれ、海の魚は大好き」

「喜んでくれると嬉しいですわ。ほな、ヤスミナはんは連れていきますわ」


 ポッペが手を振って、おっちゃんを送り出した。

「おう、元気でな、おっちゃん」


 おっちゃんは、ぐったりしたヤスミナを背負って、街に向って歩き出した。

 ぐったりしたヤスミナは重かったので休み休み歩く。


 夕方には街の門が見えた。街に着いたので兵士の手を借りて、ヤスミナを寺院に運ぶ。

 寺院の入口でイサムと会ったので声を掛ける。

「ヤスミナはんを見つけてきたで。確認してや」


 イサムが急いでやってきて、ヤスミナの顔を確認する。

「間違いなくヤスミナ様のようですが」

 イサムの口調は歯切れが悪く、嬉しそうでもなかった。


「なんや? なにか問題でもあったか?」

「ちょっとお待ちを」とイサムが困惑顔で発言し、急ぎ寺院へ戻って行った。


 寺院から浮かない顔をしたサリーマとイサムが戻ってくる。

 サリーマがヤスミナの顔を確認して、狼狽顔でイサムと顔を見合わせる。

「どないしたんや? サリーマはん、まさか、ヤスミナはんやないの?」


 サリーマが困惑した顔で伝える。

「ヤスミナなんですが、ついさっき、自分の足で戻ってきたところでして」

「なに、どういうこと?」と、おっちゃんは首を傾げる。


 寺院の入口から、おっちゃんが運んできたヤスミナとそっくりの人物が顔を出した。

「ヤスミナはんって、双子やった?」


 サリーマが浮かない顔で答える。

「ヤスミナは、一人です」

「なら、おっちゃんが運んできた人間は誰?」


 おっちゃんの問いには、誰も答えられなかった。ただ、寺院の入口では、ヤスミナが怪訝そうな顔をしていた。


 眠ったまま目を覚まさないヤスミナを寺院の人間が運んで行った。

 おっちゃんは寺院に入れてもらえなかったので、宿坊に戻る。

「お食事はどうしますか?」とイサムが訊いてきたので、「お願いします」と頼んだ。


 少しすると、鳥肉と牛蒡の炊き込みご飯とトマトのスープが出てきた。美味しくいただく。

 イサムが食器を下げに来た時に尋ねる。

「二人のヤスミナはんは結局、どうなったん? おっちゃん、気になるわ」


 イサムが浮かない顔で教えてくれた。

「寺院ではどちらかが魔物が化けているのだろう、との話になりました。なので、どちらが魔物とわかるまでは、危険なので監禁する方向になりました」


「以前にも、魔物が人に化けて街に入ろうとした事件があるんか?」


 イサムが暗い顔で答える。

「私が寺院に来てからは初めてですよ。サリーマ様でも区別がつかないんです。弱ったものです」


 おっちゃんが夜に寝ていると、人の気配で目を覚ました。

 窓から外を見ると、寺院に兵士が入ったり出たりしていた。

(寺院に兵士やと、ヤスミナはんの件で何かおきたんやろうか)


 やがて、巫女長と思わしき老婆が兵士に連れられて外に出て行く。

「何か事件の香やな」


 おっちゃんは、出て行くかどうか、迷った。おっちゃんは完全な部外者で、信用を得ているわけではない。下手に動けば誤解される恐れがあった。


 おっちゃんは迷ったがベッドに戻った。

 玄関が静かに開く音がする。おっちゃんは黙って寝た振りを決め込む。


 足音がそーっとおっちゃんのいる部屋に入ってきた。

 音から推察するに相手は二人。一人はイサムのものだった。もう一人は衣擦れの音から兵士だと悟った。


 おっちゃんは起きるかどうか迷った。でも、寝たふりを続行する。


 イサムのひそひそ声が聞こえる。

「どうやら、お休みのようですが。起しますか?」


「起さなくていい」とナディアの小さな声を、おっちゃんの耳が拾った。

 二人はおっちゃんが寝ている状況に満足したのか、そーっと部屋から出て行った。


(これは何か起きたで。隊長のナディアはんが動いとるから、そこそこ大きな事件やな)

 今晩は動かないほうがよいと思ったので、朝まで眠りに就いた。


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