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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ニコルテ村編
218/548

第二百十八夜 おっちゃんと呪われた民

 ユーミットは「呪われた民を受け入れる」と表明した。ユーミットの表明の後も、港を持つマサルカンド、ラップカンド、リッツカンドに次々と船はやって来たと情報が入ってくる。

 その数、五千人とも一万人とも言われた。


 ニコルテ村にも二百人の呪われた民がやって来た。呪われた民の目は黄色かった。髪は青、紫、橙色と多岐に富む。肌は一様に小麦色だった。

 服装はボロボロの服を着て、皆が疲れきっていた。


 村に呪われた民が到着したので、おっちゃんとアイヌルが出迎える。

 アイヌルとおっちゃんは『通訳』の魔法を唱え、アイヌルから挨拶する。


「大変な道のりでしたね。私が村長のアイヌルで、こっちが相談役のオウルさん。オウルさんは村の人からは、おっちゃんの愛称で呼ばれています」


 呪われた民の一団から一人の凛々しい顔の青年が出てきた。

 青年は青い髪をしており、赤い刺繍(ししゅう)のある緑色の上着を着て緑色のズボンを穿()いていた。青年の黄色い瞳には、他の呪われた民と違い、強い生気が宿っていた。


「一族代表のセバルだ。少しの間、世話になる」


 アイヌルが微笑んで答える。

「少しの間ではなく、ずっと村に定住していただいていいんですよ。ニコルテ村ではセバルさんたちを受け入れます」


 セバルが素っ気ない顔で短く礼を述べる。

「そうか。ありがとう」


 おっちゃんは木乃伊(みいら)やハリルたちと一緒に、テントと麦を手渡そうとした。だが、木乃伊のいる列に並ぶ者はいなかった


「こっちが空いていますよ」と声を掛けても列の流れは変わらない。

 呪われた民は暗い顔をして下を向く。


 セバルが申し訳なさそうな顔で弁解する。

「ここが木乃伊と共存する村だとは事前に聞いていた。実物を見るまで信じられなかったが、実際そうであるなら、受け入れるしかない。でも、我が民は木乃伊との共存は難しい」


「なんで? バサラカンドでは普通でっせ」


 セバルが険しい表情で説明した。

「我が民が呪いを受けた原因は大神官が命惜しさに禁術に手を出したせいだ。大神官は永遠の命を得ようとしてアンデッドになり、神の怒りを買った。アンデッドは我々にとっては禁忌(きんき)なのだ」


「そんな言葉を言われたかて、木乃伊のほうが先にこの村にいて、木乃伊が村の産業を支えているんですわ。木乃伊を避けてはニコルテ村では暮らせませんよ」


 セバルがおっかない顔で頑として拒否した。

「我々が受け入れてもらった側である事実は理解している。でも、我が民にも譲れない理屈はあるんだ」


(なんや、普通の人間より共存が難しい人間が来たで。でもなあ、なにからなにまで押し付けて出て行かれたら失敗やしな)


「木乃伊はんは、石切り場に戻って」と、おっちゃんは木乃伊に指示を出す。

「今日のところは初日やから、あまり五月蝿(うるさ)く言わん。だけど、村をここまで発展させてきた存在は木乃伊さんで、今も支えているのも木乃伊さんやて、覚えておいてな」


「すまない」と短くセバルは曇った顔で口にする。

人間の手から資材を受け取ると、呪われた民は村長の家からかなり離れた場所にテントを立てた。


 テントを配り終わったので、アイヌルと家に戻る。

 アイヌルが浮かない顔で告げる。

「おっちゃん。なんか、大変な人たちがやってきましたね。上手くやっていけるんでしょうか?」


「自分たちの苦難の歴史がアンデッドから始まったのやから心情は理解できる。せやけど、ニコルテ村では木乃伊を避けて通れんで」


 アイヌルが困った顔で意見を述べる。

「そうですよね。石材業は木乃伊が中心で、霊園業はクリフトさんが中心ですからね」

「あったま痛いわー」


 おっちゃんたちが悩んでいると、家のドアをノックする者がいた。

 扉を開けるとセバルが立っていて、悩める顔で申し出た。

「狩りをしたい。弓矢を貸してもらえないだろうか」


「なんや。肉が喰いたいのか。だったら、村の羊をあげるで」


 セバルが真剣な顔で発言する。

「そうじゃない。施しは受けない。狩がしたいんだ。借りたテントと、今日ここで受け取った麦も、必ず返す」


「狩りいうても、来たばかりやろう。この土地でどんな獲物が取れるか、どいつが食べられるのか、わからんやろう」


 セバルは(かたく)なな表情で頼んだ。

「それでも、自分たちの獲物は自分たちで獲りたいんだ」


「わかったわ。ほな、弓矢を貸すよ。あと、おっちゃんも行くからちょっと待って。どれが食べられるか、教えるから。そういうわけでアイヌルはん。おっちゃん出かけてくる」


 おっちゃんは弓矢をセバルに貸す。弓が一つしかないが、村の男たちの半数が狩りに従いてきた。

 その日は、どうにか、十㎏のデザート・リザードが一頭だけ狩れた。デザート・リザードの捌き方を教えながら伝える。


「今日はうまく狩れた。だけど、砂漠には毒のある蛇や(さそり)もいる。武器を持った大人が何十人も束になっても(かな)わない大型の獣もおる。狩りは危険や。慣れんうちは、村の近くでデザート・リザードだけを狩っていたらええ」


 セバルが硬い表情でお願いした。

「協力を感謝する。できれば、弓矢をもう少しの間、借りたい」


「貸してもええけど、絶対に木乃伊さんには向けないでね。木乃伊さんは村人やからね」


 おっちゃんは、弓矢を貸した。

 デザート・リザードは捌かれたが、二百人の腹を満たすには少ない。


 おっちゃんは村に戻って、『愚神オスペル』の料理用に準備していた山羊二頭と羊二頭、鶏二羽を連れて、セバルの許に行く。


「デザート・リザードだけじゃ、足りないやろう。山羊と羊、それに鶏を贈るわ。食べるなり飼うなり、好きにしたらええ」


 少年が家畜を見て物欲しそうな顔をして喉を鳴らす。

「施しは受けない」とセバルは冷たい顔で拒否する。


「施しを受ける習慣はなくても、祝いの品を受け取る習慣くらいあるやろう。今日はセバルはんたちがこの村に来た、記念すべき日や。祝いの品として家畜を受け取って」


 セバルがムッとした顔で何も言わないと、老人がセバルの前に出てセバルに何か囁く。

 セバルが納得のいかない顔をしたが、態度を変えた。

「わかった。祝いの品なら受け取ろう。感謝する」


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