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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ニコルテ村編
208/548

第二百八夜 おっちゃんと講演会(後編)

 開場と共に人が押し寄せる。四百人分の席は一気になくなった。立ち見が出て不満が出たので、おっちゃんは『拡声』の魔法で説明する。


「来場者多数に付き講演会は二部制にします。一部を聞いた人は一部が終わったら席を空けてください。一部を聞いて二部を立ち聞きする分には自由です」


 来場者に不満はあったが、入れ替えがあると聞き大きな騒ぎにはならなかった。

「あと、予定演者のアフメト老師が急用で来られなくなりました。なので、講演者を変更します」


 アフメトが来られないとわかり、聴衆に落胆の色が拡がる。

「講演者は『ガルダマル教団』の使徒バストリアンはんです」

「バストリアンって誰?」「本当に使徒が来るの?」会場の反応は二つに分かれた。


 開演時刻になる。おっちゃんは舞台の上にバストリアンを伴って上がる。

 バストリアンは人間の姿で舞台に上がる。それから、シーンとなった聴衆を見てバストリアンは変身を解いた。


 高さ十二mの体躯と四本の腕を持つ鬼のような怪物が舞台の上に現れた。バストリアンを見て聴衆は驚きの声をあげる。


 声には二種類はあった。一つは「恐怖を伴った驚き」で、もう一つは「歓喜の驚き」だった。

(『ガルダマル教』を信じているかどうかで反応が割れたね)


 バストリアンが目線を低くするために舞台の上で胡坐を掻いた。


 おっちゃんは手短に紹介する。

「本日の講演者は『ガルダマル教団』の最高指導者のアフメト老師を予定しておりましたが、急遽、来られなくなりました。代わりに、神様が直接に創造された使徒のバストリアンはんにお越しいただきました」


 バストリアンを恐怖の眼で見ていた聴衆も、神が直接に創造した存在と聞くと興味を示した。


 おっちゃんは言葉を続ける。

「神を直接に知るバストリアンはんだからできる話もあると思います。どうぞ、最後までお話をお聞きください」


 バストリアンの紹介を終えると、おっちゃんはアイヌルに司会を交代した。

 アイヌルがバストリアンを見て、ぎこちない笑顔を浮かべる。


 おっちゃんは、トラブルが起きたときに対処する必要があった。本部に行くために会場を離れた。

会場を離れ立ち見になっている場所まで来るが、バストリアンの声は大きくよく聞こえた。

(ここまで声が届くなら、問題ないやろう)


 さらに離れて本部に向う途中に、観客の笑い声が遠くから聞こえてきた。

(ちゃんと受けとるやん。死後の話で笑いを取るとは、なかなかやるな)


 特段の問題なく八十分が経過する。人間の姿に戻ったバストリアンとアイヌルが戻ってきた。

アイヌルが表情をも柔らかく発言する。


「いやあ。バストリアンさんのお話は面白いですね。死んでもどうにもならんは、受けましたね。木乃伊(みいら)にも受けていましたよ」


 バストリアンが機嫌よく応じる。

「だろう。信者が望んでいるものを与えるのも使徒の(たしな)みってやつだ」


(どうやら、上手くいったようやな。案外バストリアンはんのほうが、アフメトはんより話が上手いのかもしれんな)


「そうでっか。実は心配しておったんですわ、心配が杞憂に終わってよかったですわ。この調子で二部のほうもお願いします」


 バストリアンが戻ってきて一時間もしない内に、本部横が騒がしくなったので見に行く。

 出店者がおっちゃんの事前の指示に従ってグラニから食材を買い、ドミニクから飲料を買っていた。


 本部の横で食材を売っている若い蠍人の商人に声を掛ける。

「どんな、状況や」


 蠍人が嬉しそうな顔で報告する。

「出店の食べ物と飲料が尽きたようです。飛ぶように売れていますよ」


 出店の状況を確認しに行く。

 蠍人のグラニの用意してきた食材は人間も食べられるが、食べ慣れない食材だった。人間は注文を躊躇った。


 だが、出店の冒険者が「冒険の最中はよく食べるよ。ダンジョン料理って奴だよ」と触れて廻ると、物珍らしさから、売れて行った。


 寄付を募っている場所に行く。寄付金を入れてくれる大きな籠には銀貨が詰まっていた。木乃伊に聞くと、籠は二杯目だと教えられた。木乃伊の足元には大きな袋があった。


 クリフトがやっている葬儀屋に顔を出すと、クリフトが接客に忙しそうだったので後にする。

 二回目の講演が行われるが、一回目と同じくらい人が入っていた。座れる席は聴衆が交代したものの、帰った聴衆はいなかった。


 急な二部制だったので、帰りの乗合馬車を待たせる事態になった。


 馬車を用意してきた御者が苦い顔で愚痴をこぼす。

「時間の変更はきちんと知らせてくれないと困りますよ」

「御免な。これ迷惑料」


 おっちゃんは御者の一人一人に銀貨十枚を払う。

 相応の銀貨を受け取ると御者たちは納得したのか表情が和らぐ。

「予定が急に変わる状況はありますから、仕方ありませんね」


 二回目の講演が終わり、聴衆が帰って行く。

 溢れんばかりになっているゴミ捨て場が講演会の成功を物語っていた。


 バストリアンが人間の姿で帰ろうとしたので、袋に入った金貨を渡す。

「いやあ、アフメトはんが来られなくなったと聞いた時はどうなることかと思いました。バストリアンはんが来てくれて助かりました。これ、今回の二回分の講演料です。お納めください」


 バストリアンが軽い口調で辞退した。

「俺は講演料を取らないよ。教団向けの説法会で語る時も、教団から金は貰わんし」


「せやけど、今回は『ガルダマル教団』から来ていただいたわけですし、教団にお金を入れんわけにいきませんやろう」


 バストリアンが気分もよく勧める。

「いいから、とっておけよ。村の立ち上げとかで金が要るんだろう。それにドタキャンした人間はアフメトだ。俺はアフメトの友人としてここに来た。教団の人間としてじゃない」


 おっちゃんはバストリアンの好意をありがたく受け取った。

「そうでっか。ほな、今回は寄付として、バストリアンはんの講演料は村のために使わせてもらいます。それで、今後なんですけど報酬をきちんと払いますから、定期的に講演に来てもらうわけにはいきませんやろうか」


 バストリアンが残念な顔をする。

「定期的は難しいな。俺には神様から貰った使命があるからね。そこらへんは、『ガルダマル教団』と話すといいぜ。名前が知れてないが、話がうまい奴はけっこういる」


「わかりました。今回は、ありがとうございました」

「またな」とバストリアンは軽く片手を挙げると、マジック・ポータルを開いて帰って行った。


 講演会の帰り客で村の入口付近は混雑していた。乗合馬車に乗れなかった客は歩いて一時間のサドン村に移動する。その日はテント内に泊まって翌日の便でバサラカンドに帰る運びとなった。


 おっちゃんは木乃伊に指示を出して会場の後片付けを命じる。

 グラニとドミニクが追加で仕入れてきた食材も飲料も残り僅かだったので、おっちゃんが買い取った。ある程度まで片付けが終わった頃、本部にグラニがホクホク顔でやって来る。


「グラニはん食材の追加納入は助かったわ。人間には見慣れない料理でもダンジョン料理といったら、お客も珍しがって買ってくれた」


 グラニが機嫌よく話す。

「礼なら、儲けさせてもらった、こちらが言いたい。冒険者に出店を出させた結果もよかった。一般には見慣れない食材でも、冒険者なら見知った食材だからな」


 グラニが帰ると、ドミニクがニコニコ顔でやって来る。

「おっちゃん、残りの品の買い取りありがとう。今、心に関するイベントはバサラカンドでは少ないから、講演者がよければ当ると思う。また、呼んでくれるかな」


「飲料を安く卸してくれて、助かったわ。次の講演会やる計画になったら頼むわ」

「こちらから、お願いしたいよ。また、声を掛けて欲しい」

 精算を終えたドミニクは笑顔で足取りも軽く帰っていく。


 片づけが終わって木乃伊を解散させると、クリフトがやってくる。クリフトが疲れた顔で話す。

「接客とは大変なものだな。大勢人が来ると、とてもではないが一人では廻らん。サンドラと手伝いの人間を二人、呼んでおいて助かったわ」


「サンドラさん、来てたんか。お姫様やから接客は大変やろう」


 クリフトが神妙な顔で意見を述べる。

「サンドラに政治的手腕は、まるでなかった。頼りない、ダメな孫娘だと思った。ところが、葬儀屋の商才はあると見えた。サンドラは貴族と結婚するより、葬儀屋に嫁いだほうが幸せになれる気がしたよ」


「一人一人に寄り添った丁寧な接客ができるんやな。人間の能力って、どこで発揮されるかわからんな。そんで、売り上げがあったの」


「霊園予定地の四区画が売れた。他にも墓の購入に興味を示した人間は大勢いた。今回は販売に結びつかなかった。だが、定期的に講演会をやればニコルテ村に墓を建てる人間は必ず出て来る。ニコルテ村は金になる」


 アイヌルがお金を数えて集計して村の帳簿に記帳する。現金収入が入ったので、おっちゃんが立て替えていた石工の道具代を払ってもらった。


 残ったお金はなくさないように、おっちゃんはその日の内にバサラカンドに飛んで、銀行に預けた。


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