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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ニコルテ村編
207/548

第二百七夜 おっちゃんと講演会(前編)

 翌朝の早くに、おっちゃんは目を覚ました。


 村の外に行くと、二十人からなる蠍人の集団が来ていた。

「講演会の会場はこちらでしょうか」

「ここで合ってます。だけど、始まるまでかなり時間がありますよ」


 蠍人が穏やかに応じる。

「いいですよ。待ちますから」


 おっちゃんは会場入口に蠍人を案内する。急いで昼に活動する木乃伊に指示を出す。

「あかん、もうお客が来始めた。会場の回りにロープを張って、会場を区切るのと整理を頼む」


 おっちゃんは予定より早く木乃伊と一緒に会場を廻り、周囲にロープを張り巡らせる。

出店を出す冒険者がやってきて、出店の準備を始める。出店は全部で二十店舗。食べ物と飲料を売る店の準備が始まる。


 そうしていると、また二十人からなる蠍人の一団がやって来る。朝早くから来るだけあって、食べ物と飲み物は持っているが、おっちゃんは不安になって来た。


「何食分くらい、食材を持ってきた」と出店の冒険者に尋ねて廻る。

 合計で千二百食分が用意されていていた。


(一人が二食を買うとして、六百人分か。おっちゃんの見立てより、かなり多く仕入れてきている。出店を出す冒険者は街から来とる。街での感触ではもっと大勢の人が来ると読んでいるんか)


 足りるとは思うが、声を掛けておく。

「もし、食材が足らんかったら、本部横に蠍人の商人が来ているから食材を()うてやって。あとは、最後になったら、事前に申請していた料理じゃなくてもええから、ありあわせの材料でできる料理を出して」


 冒険者を運んできた荷馬車の男を捕まえて聞く。

「荷馬車組合の人やろう? 会場に来る荷馬車ってどうなっている?」


 御者は平然とした態度で答える。

「今日ここに来る乗合馬車の問い合わせは多かったので、私もこれから往復するために戻ります。便数でいったら、二十人乗りが二十台で二往復ですかね」

(え、当初の四倍の輸送数やん。そんなに輸送数が増えたなんて話は聞いてないで)


 おっちゃんは、本部になっている村長宅に帰る。アイヌルが起きて食事を摂っていた。

「アイヌルはん。えらいこっちゃ。当初は二百人を予定していたイベントに四倍の人間が来るかもしれん。会場を倍に広げたけど、足りん。どないしよう」


 アイヌルが不安気な顔で意見する。

「立見席を出すしかないですけど、声が届くでしょうか?」


「いざとなったら、『拡声』の魔法があるけど、大丈夫やろうか?」

「それより、ゴミの捨て場所を増やさないと、村がゴミだらけになります」


 おっちゃんは、さらに寝ている木乃伊を起こして、ゴミを入れる穴を掘らせる。

木乃伊が本部にやって来る。

「徒歩でやってきた人間の集団が到着しました」


 歩いて四時間も掛かる道を来る人間がいるとは、予想外だった。

本部の外に行くと、五十人からなる人間の集団が早くに開いている出店で飲み物と軽食を買って食べていた。


 おっちゃんは、お婆さんに話を聞く。

「早くから来て頂いて、ありがとうです。徒歩で来る人って多いですかね」


 おばあさんがニコニコ顔で話す。

「アフメト老師の講演会なんて、滅多にないからね。歩くと健康に良いから、行きは徒歩で来る人もいると思うよ」

(行きより、帰りの輸送に力を入れないと危険やな。夜道のほうが危険や)


 おっちゃんはグラニに相談した。

「グラニはん、すまん。力を貸して。行きより、帰りの人数が増えそうなんや。グラニはんの村から馬車組合に連絡を頼めんか」


 グラニが力強い顔で請け負う。

「いいだろう。うちの若い者に村まで走らせて、定期便で来る馬車組合の御者に伝えよう。もし、乗れなかった場合は、ウチの村の外にテント村を作って収容する」


「ほんま、助かるわ」

「なに、泊まってくれれば、うちの村に金が落ちるから遠慮は要らん」


 本部に一人の人間が入ってきた。土気色の顔をした、ボロの赤いローブを着た男だった。男には見覚えがあった。使徒のバストリアンが人間に化けた姿だった。


 バストリアンが平然とした顔で、重要な事態を告げる。

「よう、おっちゃん、元気にしてたか。ちょっと、相談があるんだ。アフメトの奴が急用で来られなくなった」


 過剰収容で四苦八苦していたら、大事件が起きた。

「ちょ、今さらそんな言葉を言われても困る。お客さんが、詰め掛けようとしているんやで。ここでイベントを中止したら、村の評判はダダ下がりや」


 バストリアンが「心配するな」の顔で(なだ)める。

「イベントを中止できない状況はわかっている。そこで、講演者を交代させたい」


 アフメトは講演会の目玉だ。アフメト・クラスの人間から話を聞ける機会なんて、そうないから、人は集まる。

 果たして、代役となった人物にそこまでネーム・バリューがあるか心配だった。


(あまりにマイナーな人物だったら、どうしよう)

「交代はしかたないとして、どんな人? アフメトはんクラスなんて、そうはいないやろう。あまり、マイナーな人やと無料のイベントかて聴衆は。がっかりする」


 バストリアンが自信たっぷりな態度で答える。

「格では負けないと思うよ。俺が話すから。むしろ、直接神が創った使徒から話を聞けるなんてめったにない機会だよ。これ、教団の中ならマイナー・チェンジではなくアップ・グレードだね」


 確かに死後の話をするなら、神様が直接に創造した使徒の話は貴重だ。

 だが、神様に造られたからといって、話が上手いとは限らない。その点、アフメトは宗教家だ。話は慣れている。


 おっちゃんはドキドキしながら訊いた。

「バストリアンはん、講演なんてできるの?」


 バストリアンが、ムッとした表情をする。

「失礼な。俺は話術には自信あるよ。まあ、見てな。会場を沸かせてやるよ」


 おっちゃんは駄目元で頼んだ。

「そうか。なら、お願いするわ。それで急で悪いけど、お願いがあるんや、ええか。おっちゃんの予測が甘くて、聴衆が大勢やって来そうなんよ。二部制って頼める?」


 バストリアンが気軽に請け負った。

「いいよ。一回が六十分として、二回、話せばいいんだろう。任せておけ」


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