第二百六夜 おっちゃんと講演会前日
おっちゃんの読み以上に、クリフトはよく働いた。城を普請した発言が裏打ちするように采配が見事だった。効率的に木乃伊を管理していた。
頼まれなくても足場となる木材もどこからか調達してきて、葬儀屋を建設していく。講演会に間に合わないかもと思った葬儀屋をわずか三十日で建てた。
「クリフトはん、さすがやわ。まさか、こんな短期間に石造りの住居兼店舗を建てるとは思わなかったわ」
簡素な服を着たクリフトが、平然と答える。
「敵が来ないのだ。これくらいの建造物はすぐに建つ。それと、火葬場が欲しいのだが建ててもいいだろうか」
「バサラカンドは土葬って聞きましたけど」
クリフトが利発な顔で滔々と語る。
「アンデッドがいるならアンデッドになる。そう考えて、この村での埋葬を嫌う者もいるはずだ。なら、火葬場を作っておいて、目の前で遺体を焼いて灰にするサービスは必ず必要になる」
「そこまで考えますか?」
クリフトがムッとした顔で意見する。
「商売も戦争も同じだ。先を読まないと話にならない。火葬場建設の費用は儂が負担するが、できたら村に寄付する。灰になりたい木乃伊が出たら、焼いてやるといいだろう」
「費用負担は大いに助かります。でも、火葬は商売になりますやろうか?」
「全てで儲けようとしてはいかん。村の利益になると思えば寄付もする。そうして、助け合っていかねば、貧しい村はやってはいけない」
(中々に立派な人やね)
「そうでっか。では、火葬場の建設をお願いします」
おっちゃんは火葬場の建設を任せながら講演会に向けての準備をしていた。講演会向けのポスターを作る。
「講演会をニコルテ村でやるので、ポスターを貼らせてください」
できたポスターを『ガルダマル教団』関係の施設と人の目に付く場所に貼らせて貰う。
「期日が近づいてきましたけど、大丈夫でっか」
『ガルダマル教団』とも連絡を取り合い、スケジュールを調整する。
「イベントやるんやけど、乗合馬車を出してもらえますか」
バサラカンドから大勢の人が来ることを見越して、馬車組合に話を持って行く。
火葬場の建設の傍ら、空いている木乃伊には引き続きトイレの設置をお願いした。
「イベントやるんやけど、小銭稼ぎに出店を出さん?」
商売人のドミニクに声を掛けて、屋台を出せる半商人の冒険者を紹介してもらう。
徐々に、野外劇場でやる初講演会は近づいて来た。
「おっちゃん、水が不足しそうよ」
アイヌルから情報が入る。
「次は井戸をもう一箇所、掘るとして、今回は飲料と水は購入して。エールはバサラカンドからでええけど、水はバサラカンドから運ぶと高いから、グラニはんの村から仕入れて」
クリフト王が提案する。
「葬儀屋に必要な物を店に運び込む手筈がついた。荷物を下ろした荷馬車が帰りに空く。安く運んでくれるというから、石膏を売りに出すといいだろう」
「お願いします」
やれる仕事は手分けしてやった。徐々に講演会の日が近づいてきた。
おっちゃんは、アイヌルに村の懐具合を確認する。
「どうや? アフメトはんに渡すお金は、どうにかなりそうか?」
アイヌルが明るい顔で告げる。
「葬儀屋と火葬場の建設費をクリフトさんが払ってくれたから、工面できました。木乃伊さんに賃金を払ってもまだお金があります」
「そうか、木乃伊たちにも、給与が払えそうか。おっちゃんはこのイベントは、できれば二ヶ月か三ヶ月に一度で定期的にやりたいねん。そうして、この村も多くの人に知ってもらいたい」
アイヌルの顔が沈んだ。
「大勢の人が来るといいですけど、ここは場所が不便だから、どうなるか」
おっちゃんはアイヌルを勇気付ける。
「大丈夫や。だからこそアフメトはんクラスの大物を呼んだんや、人は必ず来る」
イベント前日になると、グラニがやって来た。
「おっちゃん、長老の確認書を持って来た。これで、石切り場はニコルテ村の物だ」
「ありがとう、グラニはん。これで安心や」
グラニが浮かない顔で訊いて来た。
「ところで、この講演会だが、定期的にやるのか? 砂漠で『ガルダマル教』を信奉している蠍人や赤牙人は多い。今回も、講演会が目当てでウチの村に泊まる蠍人が大勢やって来ている」
「できれば、定期的にやりたいんやけどね。初回だから、二百人も来ればええと思う」
グラニが驚いて意見する。
「何を言っているんだ、おっちゃん。聴衆はもっと来るぞ。千人には届かんだろうが、二百人以上は必ず来る」
驚きだった。
「そんなに来るんか!」
「やはり、人の流れを読んでいなかったか。人が大勢やって来たときのための敷物や、必要となる食べ物を持ってきた。これは使った分だけ買ってくれればいい。敷物と食べ物を買わないか?」
「使った分だけでええなら、買うわ」
グラニが帰ると、入れ替わりでドミニクがやってきた。
ドミニクは黒い髪と瞳を持つ細身の男性で、肌は褐色で顔は面長。短い髭を生やしており、愛想の良い顔をしていた。服装はフードの付いたクリーム色のガラベーヤを着ていた。
ドミニクが喜びも露に話す。
「おっちゃん、商売に一枚、噛ませてくれて、嬉しいよ。今、会場を見てきたが随分と会場が小さいようだね、大丈夫かい」
「二百人用なんやけど、足りんか?」
ドミニクが不安を誘う顔で発言する。
「おそらく、足りないと思う。そこで、飲み物を追加で持ってきたんだ。追加で持ってきた分を出店の連中に売る許可が欲しい」
「ええけど、売れんかったら、大損やで?」
ドミニクは頼りになる顔で発言した。
「大損は絶対ないよ。おっちゃんは、バサラカンドを知らなさすぎる。今のバサラカンドは、好景気なんだ。暇を持て余したバサラカンド人がイベントに押し寄せてくるよ」
「なんや、不安になってきたで。いったい、どれだけ人が来るんやろう」
おっちゃんは敷物を敷くスペースを確保して、野外会場を四百人が収容できるまでに拡げた。