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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ニコルテ村編
205/548

第二百五夜 おっちゃんと葬儀屋

 おっちゃんは翌日バサラカンドに『瞬間移動』で飛んで宮殿に行く。

 ユーミットの男性秘書を呼んでもらう。

「あんな、ハイネルンのクリフト王って、バサラカンドにおるやろう。ちょっと、会って話がしたいねん。どこにおる?」


「クリフト王は宮殿にある要人用の邸宅にいます。よろしければ、ご案内しましょうか」

「頼みますわ」と頭を下げると、宮殿の外れにある一軒屋におっちゃんは連れて行かれた。


 一軒屋の概観は豪華だが、どこか(さび)れた印象を受けた。

「ここにクリフト王はいます」とユーミットの秘書は道を空けた。


 おっちゃんは、玄関のドアをノックする。

「クリフト王はん、オウルです。入ってもええですか」


 扉が自動で開いた。おっちゃんが中に入るとドアは独りでに閉じた。

 家の中は全てカーテンが閉めてあった。バサラカンドは冬でも日中は二十度近くの気温があるが、家の中は寒々としていた。


 どこからともなく、人魂(ひとだま)の灯りが飛んできた。人魂はゆらゆらと揺れ「従いてこい」と言っている。

 従いて行くと、広々としたリビングに出た。リビングの主の椅子にはクリフト王が座っていた。 


 クリフトは青白い陰気な顔で発言する。

「この館に来客とは珍しい。さて、このクリフト王になんの用かな」

「今日は就職の話を持ってきました。ニコルテ村で葬儀屋をやらへん」


 クリフトは鼻で笑った。

(わし)はこの通り、アンデッドじゃ。そのアンデッドに葬儀屋をやれとはなんの冗談だ」


「冗談やなく、本気ですって。ニコルテ村の住民の大半は木乃伊や。でも、木乃伊には人間と会話ができへん。そのてん、高位アンデッドのクリフト王はんなら、木乃伊とも人間とも会話ができる」


 クリフトは眉を吊り上げ、驚きの顔をする。

「お主、思い出したぞ。儂に、ここに来るように勧めた人間か」

「覚えていてくれましたか」


 クリフトが怒りの表情で言葉を投げつける。

「お前、ここに来て散々だったぞ。家臣は誰一人として訪ねてこない。人間は儂を避ける。一緒に来たサンドラは、病気になるわだ」


「家臣が来ない原因は旨みがないから。人が避ける理由はクリフト王はんが王様風を吹かすから。サンドラはんが病気になった事情は環境の変化。どれも、ワイのせいと違います」


「そうなのか」と弱気に訊くので「そうです」と力強く答える。

「もう、ここで、来もしない家臣を待って人から避けられてウジウジ悩むより、環境を変えたほうがええんとちゃいますか。勧誘はチャンスやと思いますけどね」


 クリフトが思案する顔をする。

「そうかもしれんな。で、葬儀屋とは具体的になにをすればいい」


「それは勉強していただかないといけませんね。まずは、この国の葬儀の様式ややり方について調べて、纏めてくださいな。時間が空いたら、葬儀屋に行って価格調査をする。全て、一からのスタートです」


 クリフトが浮かない顔で愚痴った。

「この年寄りに一から商売の知識を自分で仕込めとは、結構、条件が厳しいな」


「そうです。わいの話を受けるのなら王様気分では困ります。葬儀屋の社長になっていただかないといけません。なんで、この話を受けるのなら、もう、王とは呼びません。ワイのことも皆と同じく、おっちゃんと呼んでもらいます」


 クリフトが神妙な顔で頷いた。

「わかった。なら、まず現地を見てからだ。ニコルテ村に案内してくれるか」


「ええですよ」と、おっちゃんは袖を出した。クリフトは、おっちゃんの袖を掴む。

『瞬間移動』でニコルテ村に飛び、アイヌルの家の前に戻ってきた。


 クリフトは辺りを見回して怪訝(けげん)そうな顔をする。

「ここは、どこだ。村と言ったが、何もないだろう」

「村長の家が、一軒あるでしょう」


 クリフトが驚いた顔で突っ込む。

「一軒しかないだろう。これでは村と呼べないぞ」

「まあ、待ってくださいな。木乃伊の住人なら、百人おるんですわ」


 クリフトがムッとした顔で意見する。

「それにしても、木乃伊の家がないだろう」

「木乃伊は地面に穴を掘って寝ています」


 クリフトが侮蔑の表情を浮かべて、首を横に振る。

「最悪の環境だな。村長は何をしているんだ」

「今頃、石切り場で石膏を採掘していると思いますが」


 クリフトが怖い顔をして訊いて来た。

「まさか、儂にも穴の中で寝起きしろと要求するのではあるまいな」

「家は村長のものなので、テントになりますね」


 クリフトがやれやれの顔をする。

「わかった。まず。葬儀屋の店舗兼住居を建てろ。話はそれからだ」

「なら、店舗兼住居を建てたら、葬儀屋の社長をやってくれるんですね」


 クリフトは腕組みして首を傾げる。姿勢を正してクリフトは発言した。

「それは、そうだな。わかった、店舗兼住居の建築費用は儂が出す。商売にならないと思ったら、建物を売ってバサラカンドに帰る。その条件でいいなら葬儀屋の社長をやってやろう」


(店を建てるお金を出すと申し出てくれるとは、思うておらんかった。ラッキーやわ。これで村に現金収入が入った上に葬儀屋ができるで)

「ほな、さっそく、店舗兼住宅を建てさせてもらいますわ」


 クリフトが慎重な顔で意見する。

「待て。ここの職人に住居を建てるだけの技量があるのか。それに、石材の質もわからんでは、不安だ」


「ほな、こっちへ」と野外劇場に連れて行く。

「村の職人が作った野外劇場ですわ」


 クリフトが厳しい目で仕事を吟味する。

「仕事が粗い場所と正確な場所がある。それなりの技術があるようだが、職人の質が一定していないな。石材の質については、まずまずといったところか」


「どうでっか?」


 クリフトが鷹揚に構えて発言する。

「小さく建てられたら(かな)わん。図面は私が持って来る。職人への指図も儂に出させろ」

「家を建てた経験は、ありますのん?」


 クリフトがあっけらかんとした顔で述べる。

「家はない。だが、城ならある。若い頃に父親からの城の普請(ふしん)を任された」


 クリフトは昔を懐かしむ顔をして語る。

「あの時は大変だったな。モンスターの住処が近くにあるのに工期が短くてえらく苦労した」

「城を建てた経験があるならお任せします」


(これもラッキーやね。クリフトはんなら家が建つまで、石切場の管理も石工の管理もしてくれるやろう。おっちゃんはその間に出店と講演の準備をしよう)


「よし、では、さっそく準備だ」

クリフトは遣り甲斐を見出したのか、機嫌よく『瞬間移動』で帰って行った。


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